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「世界で戦うなら、イーロン・マスクに勝つ気概を」- 本田圭佑氏が語るデカコーン創出への道

当協会が後援した 一般社団法人全国銀行協会主催「MUSUBU! JAPAN DAY」 にて、本田圭佑氏の特別対談が行われました。
本田氏および一般社団法人全国銀行協会様より記事化のご快諾を得て、本記事を掲載します。



「OpenAIやGAFAを本当に意識して、あいつらの売上げや利益を本当に見て—。アメリカのトップ企業のファウンダーに本気でライバル意識を持ったり、こいつらに勝とうと思っている日本の起業家がほぼ皆無だと思うんです」

特別対談に登壇した本田圭佑氏(右)と三井住友銀行専務執行役員の磯和啓雄氏

2024年10月1日、全国銀行協会主催「MUSUBU! JAPAN DAY」において、元サッカー日本代表で現在は投資家として活動する本田圭佑氏は、三井住友銀行専務執行役員の磯和啓雄氏との対談で、そう語気を強めた。日本からデカコーン(企業価値100億ドル以上の未上場企業)を生み出すために何が必要か。本田氏の言葉には、世界と戦うことへの並々ならぬ執念が感じられた。


社会課題から始まった投資への道のり

2010年のFIFAワールドカップ南アフリカ大会。このときに訪れた孤児院での経験が、本田氏がスタートアップの世界に足を踏み入れるきっかけとなった。

「孤児院を訪問したのがきっかけで、自分が生まれ育った場所が何て恵まれていたんだというような気持ちとなり、現役をやりながら何かサポートができないかと考えた」。

もともとサッカースクールなどの活動を展開していたが、南アフリカでの経験を踏まえ、特にインパクト投資に関心を持つようになった。「最初は投資家としてもうけようとか、そういうところはあまりなかった」と本田氏は当時を振り返る。むしろ、「ディープテクノロジーを通じて、どうやったら貧困が少しでも緩和されていくか、なくなっていくか」という視点が活動の軸だった。

しかし、現実は厳しかった。インパクト投資は思うようにいかず、自身の資金も目減りしていった。「人助けをするにも、継続的に勝っていかないとサステナブルではない」。この経験から、2016年以降、投資を本格的に学び始める。

「投資家の世界にも上には上がいて、サッカーのようにランキングがあり、数値で測られる」。この発見が本田氏の競争心に火をつけた。サッカー選手として世界の頂点を目指してきたように、投資の世界でも「1番を目指そう」という新たな挑戦が始まった。

アメリカから見えた日本の課題

本田氏は過去5年間、アメリカを拠点に90社以上のスタートアップに投資してきた。その経験を通じて、日米のスタートアップ環境の決定的な違いを目の当たりにする。

アメリカのファウンダーとピッチを聞かせてもらったりすると、ビジョンがものすごいでかい。世界を変えようと志しているのを見て、実際に僕らのポートフォリオからもデカコーンに投資するということもできたりとかして。そこの会社の伸びや会社の働き方、ファウンダーのプランを見たりしても、今、日本にやっぱり欠けているものはこれなんじゃないかと思った」。

一方で、日本のスタートアップの現状についても冷静な分析を示す。「今年に入って200社近く見てきましたけど、すごく優秀で、さらに、世界に目を向けている優秀な起業家は一定数いる」としながらも、実現への障壁として「語学の問題であったりとか、やっぱりマーケットの大きさ」という環境面での差を指摘する。

日本のスタートアップの戦い方

また、本田氏は、グローバルにおける日本のスタートアップの戦い方について、従来の常識を覆す視点を提示する。

「ビジネスによるが、ほとんどのケースではアメリカと戦うべきではない」と指摘し、次のような戦略を提案する。「アメリカから輸入したものをできるだけ早くアジアに輸出していく」というアプローチだ。その理由として、「アメリカは、サービスをアメリカ全土に広げるタイミング、時間軸も結構ある」と指摘。このタイムラグを利用して、スピード勝負でアジアのマーケットを押さえにいく戦略の有効性を説く。

「それをうまくやっているのが中国の企業。本当は日本の企業も同じようなことをやれると思うし、負けじとやれるはず」と本田氏は日本の起業家の潜在力を評価する。「それができるとマーケットが一気にでかくなるし、それができるということはグローバルなチームに近づいていることなので、英語の壁も取っ払えている。そこで初めてデカコーンへの可能性が見えてくる」。

米国で「文化」として成立しているセカンダリー

日本のスタートアップエコシステムが抱える最大の課題の一つとして、本田氏が指摘するのが早期のIPO(株式公開)志向であり、セカンダリーの実現が突破口になると語る。

「IPOをすぐにしやすいという環境は、いい意味で変えていかないといけない」と本田氏は指摘する。「本来、やっぱりもっと成長にフォーカスして、リスクを背負いながら売上げを上げることにもっとフォーカスしなければいけない」。

特に問題なのは、IPO後の成長の制約だ。「IPOがゴールになってしまい、そこで投資家がエグジットして、さあここから海外を目指していこうという気持ちのファウンダーもいる。でも、ほとんどの上場した後のファウンダーは、やっぱり現実、目先の数字も求められてくる中で、やりたいようにはやれない。徐々にがんじがらめになって、現実的には海外に挑戦できていないケースのほうが圧倒的に多い」。

これに対し、本田氏は「日本とアメリカで劇的に違うのはセカンダリー。アメリカではセカンダリーの部分が劇的に文化として成立している」と語る。この過程で、上場前に経営陣が入れ替わることも珍しくない。「途中でIPOするまでに社長が替わったり、経営陣が替わったり。今もOpenAIもバタバタしていますけど。でも、アメリカのスタートアップが本当に上場するまでに市場を取り切るケース」を生み出す土壌になっているという。

スポーツとビジネスの決定的な違い

本田氏は、自身がサッカー選手と投資家の両方を経験したからこそ見えてきた、スポーツとビジネスの決定的な違いを指摘する。

「スポーツとビジネス、両方僕はやってきている。違いが明確に分かる」と前置きしたうえで、最大の違いとしてロールモデルの見えやすさを挙げる。

「サッカーとか野球とかバスケットって、憧れの選手が子供の頃から映像で毎週毎週試合で見られるので、明確にロールモデルが世界トッププレイヤーになる。他方、ビジネスの場合は、映像もないので、憧れの人とかロールモデルを持ちにくい」。

この違いは、目標設定の高さにも大きな影響を与えているという。「日本の企業とかスタートアップを見ていても、3年後に売上げ数十億でIPOして、時価総額100億、200億つけばもうオーケー、500億つけようものなら、まあなかなかいい会社、1,000億、ユニコーンになったらかなり、ザ・日本代表みたいな話が多い。でも、外を見たら、もう10倍以上、場合によっては100倍ぐらいの企業が生まれている。これって、イメージできていないのが僕は問題だと思っている」。

デカコーン実現に向けた確固たる意思

本田氏は、自身のサッカー選手としての経験と、知己を得たアスリートたちの共通点から、重要な洞察を示す。

「僕が知っている限り、アスリートで大成功を収めている方で、『大リーグに行けるとは思っていなかった』とか、『日本代表になれるとは思っていなかった』とか、『ヨーロッパでプレーできるとは思っていなかった』、『ワールドカップに出るとは思っていなかった』みたいな人は、少なくとも僕は知らない」。

この点について、本田氏は自身の経験も交えて語る。「僕はしょぼかった。結果的には勝てなかったし、口だけと言われてもそれは何も否定はしないですけど、でも、僕は本気でアルゼンチンのメッシやブラジルのネイマールや、あいつらに勝ってワールドカップで優勝するんだという目標にだけ駆られて、サッカーの練習をやっていた」。

そして、デカコーン実現を目指す日本のスタートアップにおいても、確固たる意思が必要と語る。「アメリカでは、大学でかわいい女の子を見つけるためにウェブサイトを作っていたらフェイスブックを作れてしまったなんていうのは、アメリカならではのサービス。日本では起こり得ない、やっぱり語学の面とかカルチャーの部分で。やっぱり明確に意識して、明確にそこに向かっていく段取りをしていかないと、大谷さんみたいな活躍はできない」。

圧倒的なリーダーシップを持った起業家による改革

では、日本のスタートアップエコシステムを変えていくために何が必要なのか。本田氏は「本気でイーロン・マスクに勝つんだと考える起業家を受け入れる環境」をキーワードとして挙げる。

「アメリカとの一番の根っこにある違いは環境。歴史を含む環境が今の日本の現状だと思う。ファウンダーが悪いとかスタートアップが悪いとか、政府が悪いとか銀行が悪いとかと、個別の問題ではない。文化、いわゆる環境が多分今日の日本をつくり上げている」

この環境を変えていくために必要なのが、圧倒的なビジョンとリーダーシップを持ち、本気で世界で勝とうとする起業家の存在だ。「圧倒的なリーダーシップを持ったような人間が立ち上がって、革命とか改革をしていくということが大事。じゃないと何一つ動かない。そこに問題提起をして、どれだけ批判にさらされようと物事を動かしていく情熱を持った賢い人間が、各方面に今、日本には絶対に必要」。

さらに本田氏は、大企業や政府に対しても、「慎重さと柔軟性の併せ持ち」を求める。「すみません。もうこれはルールなんです。分かります。しかも、それがあったから今日すばらしい日本もある。でも、もう変わっていかないと。それでやばい状況になっているのも事実」と指摘し、「これ、ルールだけど、今回こっちでいこうぜみたいな、新しい挑戦をでっかい組織もやっていただける」ことの重要性を説く。

ヘクトコーンを目指す挑戦

本田氏は、今の日本のスタートアップ環境を「ラストチャンス」と捉えている。「日本で政府がスタートアップを支援していくというアナウンスを見て、これはもしかしたら最後、日本のラストチャンスになるんじゃないかというふうな危機感を僕なりにずっと持っていた。ここを逃したらいけないと思って、日本でベンチャーキャピタルをやることを決めた」。

現在、本田氏は新たなベンチャーキャピタルの立ち上げを進めている。日本のスタートアップと世界をつなぐ「グローバルの橋渡し」をテーマに、従来の投資の枠組みを超えた挑戦を始めようとしている。

本田氏は最後に、さらなる高い視座の必要性を説く。「デカコーンと言っていますけど、世界にはヘクトコーン(企業価値1,000億ドル以上)ってあるんです。SpaceXとSHEIN、バイトダンスの3社。上には上がいる。デカコーンは絶対に生まないといけない。これはもうマストなんです」

特別対談に登壇した本田圭佑氏(右)と三井住友銀行専務執行役員の磯和啓雄氏

※スタートアップ協会は全国銀行協会主催「MUSUBU! JAPAN DAY」を後援いたしました。また、本記事は対談の内容を踏まえてスタートアップ協会が作成しております。

スタートアップ協会のご紹介

一般社団法人スタートアップ協会は、「スタートアップの互助により日本をスタートアップのための世界最高の環境に進化させる」ことをミッションに掲げ、実態把握、情報共有、政策提言を行っています。

本稿でも日本のスタートアップエコシステムの課題として指摘されていたスモールIPO問題の克服に向け、未上場株式のセカンダリー取引やストックオプション制度の改善、投資契約やM&Aの環境改善など、幅広いテーマで政策提言を進めてまいりました。

また、スタートアップの経営者同士が、最新の経営トレンドを学ぶナレッジシェアも進めており、様々なテーマでイベントなども開催しています。

ご興味あるスタートアップ経営者の方はこちらをご覧ください。https://www.startup-kyokai.org/


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