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東南アジア発の配車アプリ「Grab」を探ってみた
東南アジアにおいて人々の生活に必要不可欠な存在となったといっても過言ではないスタートアップ企業がある。日本人にとってなじみのない企業かもしれないが、いくつかの日本企業が同社に巨額の出資を行い、日本経済において大きな影響を与えている。その名も「Grab」。
成長著しい東南アジアを知ることは、世界のビジネスの動きをキャッチアップすることそのもの。今回はそんな「Grab」について紹介していく。
Grabとは
Grabはマレーシアの首都クアラルンプールで創業し、現在はシンガポールに本社をおく企業である。配車アプリの運営をメインとして創業。そこから事業を大きく展開させて、現在はフードデリバリーサービスやモバイル決済など、配車だけでな
い様々な機能をもつ「スーパーアプリ」を運営するまでに成長した。
社名:Grab Holdings Inc.
創業者:Anthony Tan, Tan Hooi Ling
設立:2012年
従業員:16,345人
本拠地:シンガポール
業種:工業
URL:https://www.grab.com/sg/
備考:2021年12月2日米ナスダック市場に上場
創業者は、ハーバードビジネススクールで出会った2人の学生である。名前はアンソニー・タとホーイリン・タン。2人は、東南アジアのタクシー環境の過酷さからこのビジネスアイデアを着想。そして2人はこのビジネスアイデアをもってビジネスコンテストに出場し、そのコンテストでは優勝を逃したが、コンテストが創業の大きなきっかけとなったのは間違いないだろう。次の章で、巨大企業Uberをはじめ、多くのライバル企業が参入していた配車アプリ事業において、Grabがいかに東南アジアでの絶対的な地位を確立させていったのか、その事業戦略を紹介していく。
急拡大したGrabの経営戦略
Grabは創業した2012年にマレーシアで配車アプリサービスを開始させると、その翌年にはフィリピンに、さらにシンガポールやタイにまでその事業を拡大させていく。その後もインドネシアやベトナムに進出するなど、東南アジアを中心にその事業基盤を圧倒的なものにしてきた。
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勢いは凄まじいもので、業界最大手であるUberをASEAN地域の多くの主要都市において凌駕するものだった。ではなぜGrabは、すさまじいスピード感で、各国の配車アプリの使用率のシェアを獲得することができたのだろうか。その一番の要因と言われているのが、現地で働くタクシードライバーやアプリ利用者たちの生活や、ライフスタイルから育まれた価値観や感覚に徹底的に寄り添ったことだ。その代表例が、タクシーの支払いに現金を導入したことである。この点において、Uberは現金決済を導入しなかった。Grabは、現地のタクシードライバーたちがその日に使える現金を求めていることに目を付け、支払いが後になるクレジットカードだけでなく、現金払いをいち早く取り入れ利用者を伸ばしていった。他にも、各都市における展開で現地の投資家や、マネージャーを募集することで、その国特有の様々なライセンス取得を迅速に実行し、一気にその国のシェアを獲得した。
2021年の通期決算からGrabを分析
ここからは今年3月に発表された2021年の通期決算から今のGrabの状況を見ていく。なお2020年から2018年における決算も比較対象として一部示していく。
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Grabは2021年の通期決算において最終的に34億ドル、日本円にすると約3902億円の赤字を計上した。この発表にともない、アメリカのナスダックに上場するGrabの株式は大量の売りが発生し、1日にして株価が37%も暴落するという自体に見舞われた。しかしGrab経営陣は流通取引額や売上が前年比で伸びたことを取り上げ、同社の成長を強調する。その中でも流通取引総額の成長は著しく、2018年の約57億ドルから2020年には約125億ドルとなりこの2年間で48%という驚異的な成長を見せた。さらにその成長はとまらず2021年には、前年9月に出した業績予想を上回り、前年比29%増の約161億ドルを記録した。確かに縮小した事業はありながらも、フードデリバリー事業は伸びを見せ、金融事業にも着実な投資を行うことで今後の事業拡大への布石をうっていることは疑うところがない。収益が赤字となったものの、その幅広い領域におけるサービス提供によってGrabが東南アジアにおいて、圧倒的な存在感をもつ企業であることは今後も変わりはないだろう。
Grabの今後の展開
そんな圧倒的な成長をみせるGrabだが、ここからどんな展望をもち事業を展開していくのだろうか。Grabには東南アジアの3大ネット企業と呼ばれるライバルが存在する。Grabと同じく配車サービスをルーツにもつGoToと、シンガポール発で中国の巨大企業テンセントからも出資を受けるSeaである。今後この3つのスーパーアプリ運営企業におけるユーザーの囲い込み戦争が激化していくことが予想される。
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GrabはそのASEAN地域における幅広い事業展開を強みとし、ルーツにある配車サービスという領域をこえ、フードデリバリーサービスや決済サービス、加えて保険等を扱う金融事業にも乗り出し、そのサービスの幅広さでユーザーを囲い込んでいくだろう。さらに実店舗との提携も強化するなど、新しい収益源の獲得に余念がない。創業以来Grabを圧倒的なリーダーシップで牽引してきたアンソニー・タン氏による事業展開で、世界のビジネスシーンにおいて大きなインパクトを与え続けていくことは間違いないだろう。
まとめ
今回はシンガポールを拠点として、東南アジアのUberとも呼ばれるGrabについて紹介してきた。日本の巨大企業であるソフトバンクグループが巨額の出資を行っていることでも同社は有名。いくつかのインフラ系のサービスが世界から輸入され、人々の生活に定着したことがある日本において、このGrabのサービスがやってくることももしかしたら遠い話ではないかもしれない。ぜひ今後の動きに注目していきたい。