投資契約の実務〜投資契約条項:株式買取請求権〜
【目的】
株式買取請求権とは起業家側が投資契約違反等をしていた際に、投資家が会社等に対して株式を買い取ることを請求できる権利です。
買取義務を負う者として、発行会社だけではなく、経営者(経営株主)も含まれます。これは、会社法上(会社法第461条等)、自己株式の買い取りについての財源規制があり、会社が直接投資家から買い戻しできないケースが想定されるもあるからです。
【記載例】
投資家は、下記の事由のいずれかが発生した場合、本会社及び経営株主に対して書面により通知することにより、投資家が保有する本会社の株式の全部又は一部を本会社及び経営株主が連帯して買い取ることを請求できるものとし、本会社及び経営株主はかかる請求を受けた日より●日以内にかかる株式を投資家の指定する方法ですべて買い取らなければならない。但し、本会社及び経営株主は、自己の指定する第三者をしてかかる買い取りを行わせることができるものとする。なお、本項の規定は、投資家が、本会社又は経営株主による本契約における義務の不履行に基づき被った損害につき賠償請求することを妨げるものではない。
(1) 投資契約に違反した場合
(2)表明及び保証の内容が重要な点において真実又は正確でなかった場合 (3)上場できるのに、上場しない場合
本条1項において、投資家が本会社及び経営株主に買取請求を行なった場合、投資家は、買取対象となる本会社の株式の1株当りの買取価格として、次の価格のうちいずれかを選択することができる。
(1)買取対象となる本会社の株式の払込価格
(2)相続税財産評価基本通達に定められた「類似業種比準価額方式」に従い計算された金額
(3)本会社の直近の監査済貸借対照表上の簿価純資産に基づく本会社の1株当たり純資産価額
(4)本条に定める買取請求以前において、本会社による株式発行又は本会社の株式譲渡の取引事例が存在する場合には、その直近の1株当りの払込価格又はかかる取引事例における1株当りの譲渡価額 (5)第三者が評価した発行会社の株式の価格
(実際は、もう少し細かく記載されます)
【論点】
この条項での論点は2つです。①買取請求権のトリガーになるケースは何か?と、②いくらで買い取るのか?、です。
1つ目の買取請求権のトリガーになる場合は、少ないにこしたことはないですが、上記したケースで切れるとしたら、(3)の上場できるのに上場できないケースです。
2つ目のいくらで株式を買い取るのか?は、できるだけ低い価格にするようにしたいです。(1)〜(3)については、発行のタイミングよりも低い価格になっていることが合理的に予想されるので問題ないです。(問題ないとは言うものの、買取のトリガーを元の値段で引かれている段階で、それって投資ですか?と言いたくはなりますが。。。) しかしながら、(4)の"本会社による株式発行"は要注意です。直近のファイナンスで発行した株価で買い取れと言われる可能性を残しているからです。(例えば、普通株式をA種優先株式の株価で買い取るケース) 加えて、(5)の第三者の評価額は、"誰がその第三者を連れてくるのか?"がポイントになると思います(起業家にとっては投資家が連れてくる第三者の株価の鑑定人を信用できるのか?ということです)。