「NFTアート」とは? スタートバーンが見る、NFTの「今」と「これから」
スタートバーン株式会社、執行役員事業開発部長の太田です。
昨今、空前のNFTブームで毎日のようにNFTのニュースを聞くようになりました。クリスティーズのオークションでBeepleの作品が75億円で落札されたというニュースは皆さんの記憶にも新しいのではないでしょうか。このように、NFTへの認知が広がっていくことは良いことだと思いますが、NFTの本質を正しく理解している人はまだまだ多くありません。
スタートバーンが提供しているサービス「Startbahn Cert.」と、その仕組みを裏付けているインフラ「Startrail」も、NFTの技術を活用しています。NFTブームに際して、ありがたいことに弊社も多くの問い合わせをいただいています。
今回は、弊社の事業も絡めながらNFTマーケットの概要について解説したいと思います。
NFTとはなんなのか
そもそもNFT(ノンファンジブルトークン)とはなんなのでしょうか。直訳すると「代替不可能な財」を意味し、その対となるものがFT(ファンジブルトークン)、つまり「代替可能な財」です。
例えば金融市場における紙幣や株券などはFTの代表であり、一つ一つの財にユニーク性はなく、その数量が価値・価格の大きさに比例します。ビットコインなどのデジタル通貨や暗号通貨もFTのひとつです。(*1)株券であれば会社、紙幣であれば中央銀行など、それぞれの価値・信頼性を担保するものの存在と、財自体の数量が制限・コントロールされることで価値を持ちます。
一方でNFTは、それぞれの財が固有の性格を持ち、他の財と代替することができません。例えば住宅などの不動産やゲーム内のキャラクターがその一例です。そして、もちろんアートもNFTに当たります。基本的にアート作品は、各作品が異なる材料によって構成される「一点もの」であり、その作品が持つコンセプト・メッセージも異なります。そしてその価値は、唯一性や希少性、新規性によって測られるのです。
このようにNFTの概念自体は特に何も新しくありませんが、これをブロックチェーン上で表現できるようになったことに面白さがあります。イーサリアムの台頭、さらにはERC721という規格(イーサリアムにどのような命令をすれば何が返ってくるのかを規定している形式)の誕生により、唯一性を持った財をブロックチェーン上のトークンとして体現することが可能になりました。(それまでは暗号通貨などのFTのみがブロックチェーン上で取引可能でした。)
ではブロックチェーン上のNFTが我々の生活に何をもたらすのでしょうか。
様々なポイントがありますが、そのなかでも特筆すべきは「デジタルデータに一意性・唯一性を与えられる」ことだと思います。デジタルデータは性質上、簡単に全く同じコピーを作ることが可能です。その結果、不正利用・不正コピーを防ぎながら流通させるには非常に高いコストがかかっていました。また、簡単にコピーができるものに対して高い価値をつけることが困難で、リアルコンテンツに比べて比較的安価で取引されてきました。
NFTとデジタルコンテンツと結びつけることで、デジタルコンテンツに一意性・唯一性を付与できるようになります。例えば、「このコンテンツの持ち主は自分である」と簡単に証明できるようになるのです。コンテンツの持つコンテクストやブランドをデジタル上で担保できるとも言えるかもしれません。このように、NFTの技術によってデジタルの利便性とリアルコンテンツの希少性のいいとこ取りができるようになるのです。
NFTを利用するには、「Dapps」と呼ばれるイーサリアム上で運営されているアプリーケーション(ゲームやマーケットプレイスなど)、NFTの取引所(OpenSeaなどが有名)で売買するといった方法が一般的です。また、各アプリケーション上のUIや専用のウォレットなどでNFTを管理することも可能です。取引所については、後ほど解説します。
(*1) 暗号通貨の問題点として、non-fungibilityが指摘されることがあります。暗号通貨は基本的に過去の取引履歴を全て追えるので、例えば反社やテロ組織のウォレットアドレスがわかっている場合、そこを経由している1BTCと経由していない1BTCでは、価値が変わってしまう可能性があるのです。
空前のNFTブーム
NBA Top ShotのローンチやTwitter創業者ジャック・ドーシーの最初のTwitterがNFTとして売買されるなど、昨今のNFTブームにより様々なコンテンツがNFT化され、その取引数・取引金額も爆発的に増えています。
このブームの要因は様々なものが考えられます。Etherをはじめとした暗号通貨の価値高騰や、Dappsや取引所の発展(数・技術ともに)、COVID-19による世の中のデジタルコンテンツへの関心の高まり、ビッグプレイヤーのNFTマーケット参戦など—— 。
また、NFTアート(アートコンテンツがNFTに紐づけられたもの)も同様に人気を集めています。前述したクリスティーズでのBeepleの作品落札がその良い例です。オークションは、開始価格100ドル(エスティメーション価格不明)からDay Saleで始まりました。高価格な作品はDay SaleではなくEvening Saleで出品されることが多いことから、当初はクリスティーズとしてもそこまで大きな期待をしていなかったように思えます。実際クリスティーズは2020年にもRobert AliceのNFTアートをセールに出しましたが、今回ほどの反響はありませんでした。
しかし結果として、75億円という高価格で落札され、存命アーティストの落札価格史上では3位となりました。落札者はNFTファンドの創設者と言われており、ブロックチェーン界隈での取引となったものの、アートマーケットや一般ユーザーにも大きな影響を与えたはずです。
このNFTアートブームの影響もあり、たくさんのNFTアートマーケットプレイス(販売所や取引所)が誕生しています。その一部を下の表にまとめました。
販売しているNFTに関して、誰でも投稿できるサービスもあれば審査制のものもあります。二次流通の還元金の仕組みを導入しているものや、オリジナルトークンを発行してコミュニティを形成しているもの、法定通貨で支払いできるもの、email addressでサインアップできるものなど、多種多様です。
また、どのサービスもイーサリアムのERC-721の規格に準拠しているという点では共通していますが、「そこにどんな情報が書きこまれているのか」、「トークンが何の権利を体現しているのか」、「規約にどのような内容が記されているのか」などはサービスごとに異なっており、互換性を持っていません。(OpenSeaではあらゆるNFTを取引できるよう、様々なマーケットプレイスのNFTの形式に対応しています。)
また驚くことに、一部のサービスでは、売り物であるはずのデジタルコンテンツのデータが、購入者でなくても簡単にダウンロードできるような仕組みになっています。NFTの技術によって有体のないデジタルコンテンツを取引することが可能になり、「所有」という概念もがアップデートされてきています。コンテンツ自体を売っているのではなく「コンテンツのオーナーになる」という概念を売っているのかもしれません。(ジャック・ドーシーのTweetがその良い例。)
個人的には、このようにブロックチェーンやNFTの技術が発達しアートの世界に普及することで「作品を所有する」「作品の価値を決める」という行為・概念がどのように規定されていくのか非常に興味があります。
StartbahnとNFT
スタートバーンが提供するインフラ「Startrail」及びそこに接続するサービス「Startbahn Cert.」もNFTの技術を活用しています。
Startrailはアートの流通・評価のためのブロックチェーンインフラです。作品の諸情報や来歴など、作品の価値づけに関わる情報をブロックチェーンに安全に記録し、作品が人の手に渡るたびにその情報を継承・アップデートできるようになっています。(作品の価格や所有者の個人情報などは記録しません。)
Startrail上では、イーサリアムのERC-721に準拠したNFT「Startrail Registry Record(SRR)」にアート作品に関する諸情報を記録しています。とはいえ、SRR自体を投機目的で売買されることは想定しておらず、あくまでもアート作品の価値を担保するものとしてアート作品とともに継承していくことを想定しています。
Startbahn Cert.では、SRR上に記録される情報を、現行の紙の作品証明書のような親しみやすいユーザーインターフェースに変換し、ICタグ付きブロックチェーン証明書「Cert.」として提供しています。ここでは、ウェブ上で「Cert.」を発行・管理したり、スマートフォンで「Cert.」の情報を閲覧したりできます。また現状アートマーケットで流通される作品のほとんどが、デジタルデータではなく物理的な作品なので、リアル作品とブロックチェーン上のデータを紐づけるためのICタグも合わせて提供しています。
現状のファインアートマーケットの慣習にマッチするように様々な工夫がなされています。作品の真正性に関わる大事な情報を記録するので、誰もがSRRを発行できるのではなく、審査に通った事業者のみ可能です。また、ユーザーにとって難しいといわれるブロックチェーンの鍵管理もシンガポールのTorus社のテクノロジー活用することで、Googleアカウントやemailログインで簡単に管理できるようになっています。そのほかにも、還元金や著作権管理などの機能が備わっています(一部今後実装予定)。
さらに詳細なStartrailおよびStartbahn Cert.の仕組みについては、Startrailのホワイトペーパーまたは弊社CTO中村の記事を参照してください。
また、現状はリアル作品をメインにSRRを発行していますが、デジタル作品に対してSRRを発行することにより今流行しているNFTアートと同様の扱いが可能になります。今後はデジタル作品の登録も強化していく予定です。
今後のNFTマーケット予想
ブーム真っ只中のNFTですが、今後どのような展開が待っているのでしょうか。
現状NFT取引の多くが投機目的であると考えられています。私自身、実際にいくつかのマーケットプレイスでNFTを売買してみましたが、なにが各コンテンツの価格を決めているのかが一般ユーザーにとって極めて不透明というのが正直な感想です。クリスティーズでのNFTアートのセール以来、ダミアンハーストがNFTアートの販売を発表したり、サザビーズもNFTアートを扱うとの記事がでたり、多くのファインアートのプレイヤーがNFTの導入を表明しています。
このような面白いニュースは今後も続くと考えられますが、最近の異常なまでの価格高騰はあと数ヶ月から1年の間に収束すると思います(実際にNFTゲームの分野では、取扱高のピークが2021年2月を迎えてから緩やかに下がり始めています)。NFTブームが収束する要因としては、デジタルコンテンツの著作権問題、秘密鍵の紛失、本人確認の難しさなどが考えられます。
しかし、NFTマーケットが完全になくなるのではなく、こういった課題への対応が進むことでトランザクションも増え価格も安定し着実にマーケットが形成されていくのではないでしょうか。Startbahnも是非その一端を担えればと考えています。
さらに、VRやARが発達しリアルと見間違えるようなデジタル空間ができるようになると、さらにNFTの活用の幅も広がっていくでしょう。現実世界での一点もののアートと同様にVR空間で一点もののNFTアートを鑑賞するというユートピア的世界が現実になります。弊社代表施井も2019年の講演で言っていたように、リアルの世界でもデジタルの世界でもあらゆるものがNFTに登録されていて逆にNFTがついてないとユーザーも不安になるような世界が思いのほかすぐ来るかもしれません。
太田 圭亮
執行役員 事業開発部長 兼 広報/PR室管掌
東京大学大学院工学系研究科建築学専攻修了。卒業後はスイスの建築設計事務所Herzog & de Meuronで建築家として、美術館やファッションブランドショップの設計に従事。2015年に経営戦略コンサルタントに転身し、ベイン・アンド・カンパニーの東京およびドバイ支社で大手企業の経営支援に携わる。2019年にスタートバーンに参画し、デジタル技術に関わる事業をはじめとして各事業を牽引している。