プラネタリウム解説者の個性
JPA全国プラネタリウム協議会
先日、JPA(日本プラネタリウム協議会)の全国研修会に参加してきました。
今回は業務経験10年目未満を優先とする初任者向けの研修会でした。
研修ではアナウンサーの方の講演、ベテランによる模擬投影の他、初任者コース、イベント投影コース、悩み相談コースの3つの分科会があり、スキルアップや経験値上昇を目指す若い解説員が多く集まりました。
僕の職業はプラネタリウム解説者ではないので、業務経験10年に換算できるのかは微妙ですが、少なくとも10年以上は人の前で喋っているため分科会などでは経験者扱いでした。交流の場では強い成長意欲をもつ皆様からアドバイスを求められたり、投影時に意識していることなどを話したりして、僕自身も改めて自分のパフォーマンスを見つめ直す時間がありました。
プラネタリウム解説者の個性
その中で、「個性」の話題が何度か出ました。
個性の出し方で悩んでいる、自分の個性とはなんなのか。
提案したり、こういうことだと思っていると答えたものの、彼らが聞きたいことの本質に届いていないのではないか、もう少し「個性」というものを分解して、より深く考えることができるのではないか。
会が終わったあと、帰りの新幹線で考えてみたものの、うまく思考が続かなかったので、ここに書くことで整理していこうと思います。
個性とは
言い換えると、他の人にはない、自分だけに備わる性質、というところでしょうか。
ではプラネタリウム解説者にとっての個性とは何なのか。
まずはプラネタリウム解説者とは何なのかを考える必要がありそうです。
プラネタリウム解説者の仕事
重複になりますが、僕の職業はプラネタリウム解説者ではありません。
ですからドームの外にいる人間として、プラネタリウム解説者を定義させてもらうことになります。違うところがあればご指摘ください。
僕にとってプラネタリウム解説者とは、「プラネタリウムという星空が投影された空間で、天文宇宙の解説をする人」のことを指します。
ドーム空間に限りません。
彼らの目的はJPAの目的から引用すると、"豊かな文化の創造、科学教育及び天文普及に寄与する"ことになります。
"科学教育及び天文普及の寄与"の部分、これは教育おいて市民の科学・天文リテラシーの向上を目指すことだと思います。
では、"豊かな文化の創造"の部分、これはどういう意味でしょうか。
まずは文化の意味を調べてみます。
2の「哲学、芸術、科学、宗教などの精神的活動」が文脈からすると近いでしょうか。
そうするとプラネタリウム解説者の仕事とは、「星空が投影された空間で天文宇宙の解説を行い、市民の哲学、芸術、科学、宗教などの精神的活動を豊かにするとともに、教育において科学、天文リテラシーの向上を目指す」ということになります。
個性が必要な仕事なのか
僕はプラネタリウムが好きなので色んなところに行きますし、色んな人の解説を聴きました。ひとつとして同じ解説はなく、どの投影にも個性を感じることができました。
その時点で答えは出ているような気はしていますが……
プラネタリウムの生解説は同じ条件で実施されることがありません。日の出、日の入り、月、惑星の有無、見える星座、天文時事、観客の数、年齢層、その日の天気、気温、何もかも昨日と違います。だからプラネタリウム解説に正解はなく、あるとすれば、「その日、より多く、より深くお客さんに届く解説」または「よりお客さんを豊かにする」に最適化できたか、というところだと思います。
もし正解があるならば、この世の中に解説者は必要なく、予め作った番組を毎度毎度流していればいいのです。
ではなぜ「個性の出し方」について質問が来たのか。
プラネタリウム解説で扱う内容は主に「天文・宇宙に」に関わることで、星の話をしない投影はあまりないかと思います。
必然的に、プラネタリウム解説で扱う内容は似通ってきます。
すると「この解説を行うのが自分である必要性」を確認したくなり、そこに「個性」の存在を求めているのではないでしょうか。
まず、プラネタリウム解説者に求められる使命である"豊かな文化の創造、科学教育及び天文普及に寄与"は施設、もっと大きく言えば社会的な使命であって、解説者を目指した人の動機や使命とは分けて考える必要があります。
なぜプラネタリウム解説をしているのか
天文宇宙の魅力を伝えたい
仲間を増やしたい
星の話を楽しんでもらいたい
憧れの解説員がのようになりたい
プラネタリウム解説者という響きがかっこいい
ちやほやされたい
人気者になりたい
etc
いろいろあると思います。
これは自己実現のための欲求であると僕は考えていて、この欲求こそ、自分自身を動かすパワーだと思っています。
プラネタリウム解説者の大半は星が好きで、その魅力を伝えたい。もっと好きになってほしい。空を見上げてもらいたい。そんな推しの普及活動に近い動機を持っていると思います。
その実現のために学び、研鑽を積み、コンソールに座った人間が発した言葉から、個性を消すことなどできるでしょうか。
僕のように、笑わせたい、楽しませたい、多くのプラネタリウム解説者がやらないようなネタをやりたい、ちやほやされたいという尖った動機を持つ人もいるかもしれません。僕はかなり、ちやほやされたいほうです。
そういう人は、自分の働く施設やプラネタリウム解説者という仕事が、それを実現できるう環境なのか今一度考える必要があるかもしれませんが、大事なのはどこで働くかではなく、どんな仕事を、どれだけ真剣にするか、だと思います。
人間だから、褒められたい。自分の仕事を評価されたい。その欲求は自然です。当たり前です。幸いなことに、真剣な仕事であれば、プラネタリウム解説者という仕事はかなり褒められる仕事であると思います。
褒められたい人は僕に投影見せてね。ついでにお仕事くだs
個性が必要な仕事なのか、という問いに対しては、「個性が出てしまう仕事」という答えが近そうです。
人と同じ服を着たときに出るのが個性
大昔にツイッターかなんかで見かけて「そうだよな」と思った言葉です。
僕は落語が好きで、自分のネタにも落語の要素を取り入れています。
落語の面白いところは、話の筋は変えず、同じ噺をするにも関わらず、噺家の味がにじみ出るところです。
まさにプラネタリウム解説と同じだと思っています。
その人の育った環境、学んだこと、接してきた人、見てきた景色、読んだ本、好きな音楽、何もかもが少なからずにじみ出ます。
だから、僕はプラネタリウム解説を聞くのが好きなんだなあ。
人に何かを伝える職業だから、色んな経験をしたいですよね。
色んな場所に行って、色んな人と話して、色んなものを食べて、そしておもしろい人間でありたい。
解説者の個性と"持ち味"
個性の話をXでしたときに、今回模擬投影と初任者コースの講師をされた三島さんがこんなコメントをくれました。
ぐふふ、褒められている。
それはさておき、このnoteを書き進めるほどに、自分の言いたいことがこのポストに集約されていくことを実感しました。さすが大先輩……
個性は自分の人生から滲むもの。
ではそれをより投影に生かすための"持ち味"とは何かを分解して言語化しておこうと思います。
僕がプラネタリウム解説を構成する要素として考えているのは、
内容
言葉選び
テンポや速度
演出・選曲
活舌
声質
その他の技能
などです。
お客さんはこれの全部または一部に魅力を感じ、ファンになってくれます。
これらの要素は、解説者の持ち味が存分に出る部分だと思います。
個性の面からいうと、
・内容……いかに学んできたか、伝えたいことが明確か
・言葉選び……どんな本や文章に触れてきたか
・テンポや速度……どれだけ多くの人と話してきたか
・演出や選曲……どれだけの舞台や芸術に触れてきたか
が影響されるのではないでしょうか。
活舌はトレーニング次第、声質は持って生まれたものなので、あまり評価は気にしないことにしています。もちろん魅力になりうる要素でもあります。
解説者が纏う雰囲気。これにも人は惹かれます。
そしてその他の技能ですが、今回の研修ではアナウンサーやシンガーソングライターなど、プラネタリウム以外の活動をしている方もいました。それも強みのひとつになりますよね。
この文章の中でも、
個性
持ち味
強み
魅力
とニュアンスが近い言葉が出てきました。
強みと魅力がもう少し掘り下げられそうです。
強みとは、「自分の武器」「セールスポイント」。つまり積極的に磨き出していく能動的な要素。
僕の場合は「ネタの構成」だと思います。
魅力とは「相手を引き寄せる力」で、強みと違って自分自身で相手に届けるものではなく、花の蜜のように受動的な性質を持つものだと思います。
僕の場合は「ゆるい関西弁」あたりがそうかなあと、公演のアンケートを見ていると感じます。
強みと魅力を足すと、それはまさに持ち味という言葉が当てはまるのではないかと思いました。
個性的なコンテンツが作りたいとき
個性を出したいと考えたときに、尖った表現や企画することがあるかと思います。
改めて注意してほしいのが、目的が「個性的なコンテンツを作ること」なのか、「天文宇宙の魅力を伝えたい」なのかということです。
目的と手段が入れ替わってはいけません。
僕はそもそも「個性的なコンテンツが作りたい」ので、「天文宇宙の魅力を伝えたい」はサブミッションです。僕は笑える星空ネタを作りたい。それによって誰かにベネフィットがあるならそれに越したことはない。という考え方です。
とはいえ館によっては色んな事情で「バズれ」と言われることもあるでしょうし、働くって大変だ。
終わりに
大人はいつだって「大人になればわかるよ」って言う。
今知りたいのにさ。
今回たくさんの人と話しながら、個性に関して自分の言葉が相手に刺さらない感触があった。僕自身がしっかり考え切れていなかった部分だ。
多少の経験値がある僕は、知ってるから言えることがたくさんあるけれど、霧の中にいる人に、輪郭のぼやけた言葉を届けたって、なんだかふわふわした、得体の知れないものが転がってきたようにしか見えないのかもしれない。
僕は言葉を大切にして、自分の想いをロスなく伝えたいと思っている。
そうして選ばれた言葉たちは、届いた時、僕のいないところに、僕の輪郭を作るはずだ。
ドームの中、今夜の星空
心の底から伝えたいことは何ですか?
それをどう伝えますか?