宇宙はどうして美しいのか?(その2)
5.美しいといえば「黄金比」
絵画や彫刻などで ”美しい” と言われるものに「黄金比」がある。その比率は1:1.618…。古代ギリシャ時代から ”美しい” 作品にこの比率があることに気づいて研究したペイディアス(Φειδίας)の頭文字から、20世紀では「黄金比」を φ で表わしている。「黄金比(Golden Ratio)」という語が使われたのは1830年頃とされる。
五角形は不思議な図形。内部に「黄金比」が見いだされる。一筆書きで描ける「五芒星」は呪詛にも使われる。地球と金星が軌道を公転して接近する位置を結ぶとキレイな五芒星が描かれることは不思議で、また美しい。
「黄金比」は数式で表わすことができる。それは「フィボナッチ数列」で、「前の2つの数字を足した数字」で、螺旋形として描くことができる。これを「黄金螺旋」と呼ぶ。
自然界には「フィボナッチ数列」を見つけることができる。木の枝はフィボナッチ数列のように枝分かれする。
自然界で ”美しい” と感じるものには「黄金螺旋」をみつけることができる。オウムガイの断面や、ヒマワリの種の配置、カタツムリの形。”美しい” と感じる渦巻き銀河にも「黄金螺旋」が見出せる。
6.美しいといえば「ハーモニー」(ピタゴラス)
音の世界でも ”美しい” と感じる音の組み合わせがある。これを ”和音” と呼ぶ。これを発見したのは、古代ギリシャのピタゴラス。伝説によれば、ある日鍛冶屋の前を通ったピタゴラスが、作業場で複数の職人の打ったハンマーの音が共鳴して心地よい協和音になっていたことから、これを研究した。その結果、ある決まった数比の数比の時に和音になることが分った。
ピタゴラスはこの他にも、世界のあらゆる事象の中に ”数” が内在しているとし、宇宙の全ては数の法則に従うとして、「万物は数なり」とした。
ピタゴラスのこの思想は、惑星や恒星天の周回にも充てられ、「天球の音楽」と呼んだ。天体が運行する際に、それぞれの回転速度に応じた音階の音が鳴っていると。しかしこの音は、人々には生まれた時から鳴り続けているため、認識することができないのだ、とした。
ピタゴラスは「世界は調和している」として、それを定義した。
またピタゴラスは自分の学派の理論を学ぶ学校を作った。その場所が英雄アカデモスを祀る神域だったことから「アカデメイア」と呼ばれ、これが今日の「アカデミー」などの語源となった。「アカデメイア」では「算術」「幾何学」「天文学」「音楽」を学んだ。特に「音楽」を重要視した。それは、音楽を聴くことで ”魂” に変化が起こり、それは調和によってもたらされるということ。そして ”魂” の救済を得ることができるのは、宇宙の調和によること。宇宙の調和した音楽(天球の音楽)はエーテルを介して人間の魂に調和をもたらす、と考えたのだった。
ピタゴラスの音楽の考えは、6世紀の哲学者ボエティウスの『音楽綱要』に受け継がれ、さらに分類定義された。
7.美しいといえば「ハーモニー」(ケプラー)
ヨハネス・ケプラーにとって神への信仰は、宇宙の法則を理解することだった。ケプラーにとって太陽は大地(地球)を廻るものではなく、神の栄光の象徴として宇宙の中心に座し、その周囲を地球を含む惑星たちが周回するものだった。そんなケプラーにとって、惑星の数がなぜ6つなのかが謎だった。この数にも神の何かしらの設計があるはずだと考えた。
ケプラーはある日、これは正多面体(プラトン立体)が5つしかないことと関係があると閃いた。太陽系の外には天球があり、その内部に5つの正多面体があれば、隙間は6つになる! そこでケプラーは、惑星の軌道と正多面体の組み合わせを調べた。しかしなかなか合致しなかった。ケプラーはこれを、軌道の正しい大きさが分っていないからだと考え、惑星の軌道を研究しているティコ・ブラーエに仕えることになった。
ケプラーは惑星の軌道を研究する上で、軌道が理想的な真円ではなく、楕円であることを発見した。そこでピタゴラスに倣って、各惑星の奏でる音階を考え、公転速度が遅い時は低い音を、早いときは高い音を奏でるとした。特にケプラーは地球が奏でる音階について一考察をした。地球は「ミ」と「ファ」を奏でるとした。これをケプラーは「地球では悲惨さ(misery)と飢餓(famine)の涙の支配する」と読んだ。
8.宇宙は音楽だ
ケプラーの「天球の音楽」を受け継ぐ人は現れなかったが、その思想は文学や音楽の世界で生き続けた。ミルトンの『失楽園』や、ゲーテの『ファウスト』には、キリスト教で考えられる宇宙観が、あちらこちらで奏でられる音楽と共に語られている。
宇宙と音楽の関係で知られるのは、天王星を発見して太陽系の大きさを広げ、”宇宙” も広げた、音楽家でアマチュア天文家のウィリアム・ハーシャル。現代のアマチュア天文家を凌駕するほどの熱烈さで、自身も出演するコンサートの合間にも天体観測をしたほど。
楽曲で神を称えることはよく行われ、教会音楽を多く作ったバッハの作品に多く見られる。年末の恒例演奏曲であるベートーヴェンの『第九』は、宇宙観として ”聞えない音楽(ムシカ・ムンダーナ” の表現に挑んだ曲。冒頭の演奏をした後に歌詞で「こんな音楽ではなく、心地よく喜びに満ちた歌を始めよう」と、いきなり全否定する辺りは驚き。
さらに、太陽系を飛び出して恒星間宇宙へ向かった惑星探査機パイオニアーやボイジャーには、見知らぬ宇宙人へのメッセージが添えられた。パイオニアーにはメッセージプレートだけだったが、ボイジャーにはその他に、地球の様々な音や、いろんな国の言葉での挨拶や、有名な曲を納めたレコードと再生装置が搭載された。
このようにみると、宇宙と音楽には、とても密接な関係のあることが分る。