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二重星や連星のはなし(その1)

1.「二重星(Double Star)」と「連星(Binary Star)」

「二重星」と「連星」

 星空を望遠鏡で眺めると、多くの接近した星が見られます。2星が接近しているものを「二重星(Double Star)」と呼び、あまり使われないけど3星では「三重星(Triple Star、Triplet Star)」、4星では「四重星(Quintuple Star)」、複数の星の接近を「多重星(Multiple Star)」と呼びます。
 二重星は、ウィリアム・ハーシェルが地球が太陽の周りを周回している証拠である年周視差を測定するため、精力的に観測しました。ハーシェルは、恒星の明るさが同じだと仮定すると、近い星は明るく、暗い星は遠いとし、明るさの違う二重星で互いの位置を詳しく観測することで、明るい星=近い星の年周視差を観測できると考えたのでした。ハーシェルによる天王星の発見は、この観測の最中に為されたものでした。
 ハーシェルは発見される二重星の数が多く、距離の違う2星が接近して見える確率を超えることから、実際に2星が近くにいて周回している「連星(Binary Star)」のある可能性を考えました。この予想は、その後十数年に渡る二重星の互いの位置の観測から、明るい星の回りを暗い星が周回している星が発見されることで証明されました。
 これにより、二重星の内、距離の違う星が同じ方向に見えるものを「みかけの二重星(optical double star)」と呼びます。

2.二重星・連星の発見

二重星・連星の発見

 望遠鏡が発明される以前から、いくつか接近した二重星(肉眼二重星)は見つかっていました。その中でも、おおぐま座ζ星ミザールと80番星アルコルは視力の良い人なら分れて見ることができることから、13世紀のペルシャの天文学者ザカルヤ・アル・カズウィーニは「人々はこの星で視力を試した」としているそうです。日本(呉市)ではアルコルを「寿命星」と呼んで、「正月にこの星が見えない者は、その年の内に死ぬ」と言われます。マンガ『北斗の拳』で、その星が見えると年内に死ぬ「死兆星」としているのと実際の伝承とは真反対です。
 ミザールとアルコルは二重星や連星の観測や発見の歴史で興味深い。望遠鏡でミザールを見ると、ミザール自身が二重星であることが分る。このように望遠鏡で分る二重星を「望遠鏡的二重星(Telescopic Double)」と呼びます。ミザールはこれの最初に発見されたものです。この2星はミザールA・ミザールBと呼びます。

ミザールの ”最初”

 ミザールは望遠鏡を使った天体撮影でも対象となり、1857年に ”最初に撮影された連星” となりました。
 またスペクトル観測からミザールAとミザールBの周りを見えない伴星が周回していることが発見されました。”最初の分光連星(Spectroscopic Binary Star)"です。ミザールAの伴星ミザールCは20.5日周期、ミザールBの伴星ミザールDは178日の周期で廻っています。
 なお、ミザール近くの ”添え星” アルコルも、2009年に8.8等の伴星が見つかりました。
 ミザールとアルコルは「肉眼二重星」。ミザール自身は最初の「望遠鏡的二重星」で、最初の「分光連星」。そしてアルコルも二重星という、込み入った恒星ペアです。

3.ミザールとアルコルは連星か?

ミザールとアルコルは連星か?

 接近して見える2星が「見かけの二重星」か「連星」かを確認するには、いくつかの方法があります。1つは星どうしの距離(地球からの距離)、1つは星々の固有運動です。公転周期の長い連星の場合、2星の固有運動はほぼ同じ方向と同じ移動量になります。
 ミザールとアルコルは80数光年という近距離にあり、距離は精度良く測定されています。ミザールは86光年、アルコルは82光年で、互いの距離は4光年ほどです。この距離は、太陽と最近の星ケンタウルス座α星と同じです。この距離で重力の影響を与えているとは思えません。
 その一方、固有運動とその移動量はほぼ同じ。このことは、ミザールとアルコルは全くの他人ではないと考えられます。

おおぐま座運動星団

 ミザールとアルコルまでの距離が測定できるようになる以前、恒星の固有運動を調べたR.A.プロクターは、北斗七星の内、αとηを除く5星がほぼ同じ方向へ同じ移動量で運動していることを発見しました(1869年)。「運動星団」の発見です。このことは、北斗七星の5星やその周辺のいくつかの星は、一緒に誕生して宇宙空間を移動していることが分りました。ミザールとアルコルは、連星ではないものの、一緒に誕生した家族でした。

4.興味深い二重星

はくちょう座アルビレオ

 夏の星空でキレイな組み合わせをしている、はくちょう座アルビレオ。この2星が「みかけの二重星」なのか「連星」なのかは、長年の課題でした。固有運動の量が小さく、また明るいため地平視差を正確に測定することができなかったためです。
 この長年の課題に対しては、2018年になってようやく、Gaia 位置天文衛星の観測から2星の距離と固有運動が詳しく観測され、連星ではないと判明しました。アルビレオAまでの距離は328光年、Bは389光年でした。固有運動量は、A星は1年間に南南東に16.66ミリ秒、B星は西南西に1.13ミリ秒です。

ダブルダブルスター

 こと座εは二重星で、しかもそれぞれが東西と南北にほぼ同じ2星が並んでいる「ダブル・ダブル・スター」として知られます。北側のε1Aとε1B、南側のε2Aとε2Bです。
 ε1は162光年の距離、公転周期1800年の連星、ε2は156光年、公転周期724年の連星です。しかしε1とε2は連星ではありません。

天上の宝石アルマク

 アンドロメダ座の左足に位置するγ星アルマクは、「秋のアルビレオ」と呼ばれるように、アルビレオのように美しい二重星です。アルビレオが35" 離れているのに対して、アルマクは10" の距離で、望遠鏡で見ると、本当に美しいです。距離は2星共に390光年で、連星です。公転周期は不明。

その2へ続く)






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