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【オリジナル小説】メイメイ 5
最初から
前回
5
僕はそれから、毎日のようにあの公園に通い、砂の中の彼女に会いに行った。
「お姉さんは、どうしていつも砂の中に埋まっているの?」
「何言ってるのよ、埋まってなんかいないわ」
一度だけ、そう質問した事がある。彼女は笑みを崩さなかった。が、確実に怒りを含んだ声でピシャリと言った。その静かな迫力に押され、そして彼女に嫌われたくない気持ちで、僕は二度とこの質問をしないと心に決めた。
小学校に通う様になるまでの一年程の期間、僕は何度も彼女に会いに行った。あの質問をピシャリと拒絶するように跳ね返されてから、彼女に自分から話しかけることはほとんどしなかった。
子供の僕は、大人で、僕よりもずっと何かを考えて生きているはずの彼女を傷付けたり、怒らせたくはなかった。嫌われたくなかった。彼女が二度と僕に笑いかけてくれなくなる様な事には、なってほしくなかった。
僕と彼女は、いつも「こんにちは」「またね」くらいの挨拶や、天気の話題など当たり障りの無いことを、二言三言交わす程度の会話しかしなかった。
では、会って何をしていたかというと、僕は只、砂の海面から出ている彼女の身体に、自分の小さな身体をピッタリと寄せているだけだった。彼女の温かで優しい腕に抱かれて、目を閉じてじっとして過ごしていた。
時には、そのまま浅い眠りに誘われ、時には彼女の胸に顔を埋め、久しく母から与えられていない物を必死に貪った。
彼女の身体は柔らかく、それでいて骨の存在もしっかりとあって、艶かしい色気に包まれていた。子供ながらに、未熟で理解しきれない性的な興奮を感じてしまい、服の生地の上から彼女の乳房を口に咥えてしまう事もあった。
母の乳を吸う赤子の様に吸い付く僕の頭を、彼女は怒りもせずに黙って吸われるがままにしていた。許されるならば服の中に手を差し込み、彼女の本物の温もりをこの手に感じ、直接彼女の身体に吸い付きたいとさえ感じた。
硬い砂の中に(彼女は違うと言うが)彼女の身体が埋まっていなければ、服の裾を簡単に捲り上げる事ができたならば、僕は躊躇わずにそうしていただろう。そして彼女も、それを拒否しないような気がしていた。
彼女は僕が中途半端な色に耽っている間、僕の髪の毛や、背中や、頬を指で撫で続ける。時折首筋を羽根の様な手付きで擽る様に触られ、全身にゾワッとした感覚が走る。
びっくりして僕が顔を上げると、彼女は大丈夫と言う様に、僕の額に唇を寄せた。安心した僕は再び、彼女の胸に顔を埋めた。
時間を忘れて彼女の身体に溺れていたが、僕はいつも決まった時間に帰宅していた。公園から歩いて帰って、丁度六時三十分。彼女が「そろそろ帰りなさい」と言って、僕がそれに素直に従って帰路につく。すると、必ず六時三十分に家に着くのだ。
毎日の様に、全身砂に汚れて帰ってくる僕を見ても、母や兄は何も言わなかった。
しかしやはり、5歳の子供が毎日暗くなるまで外を出歩いている、という事には何か思う所があったのか、防犯ブザーを買って僕の家の鍵に付けてくれた。だが、それだけだ。いつもどこで何をしているのか、聞いてくることはなかった。
やがて、僕は小学生になった。友達もできて、そちらと遊ぶ事が増えたので、彼女に会いに行く頻度は減った。しかしそれでも、僕は彼女のことを忘れなかった。
二年生になると僕も習い事を始め、四年生には部活もやるようになった。
歳を重ねる毎に、忙しくなっていく。
それでも、時々一人の時間を見付けては、僕は彼女に会いに行った。彼女はいつも変わらず、あの砂場の砂の中で優しく微笑んで僕を迎えた。そして僕を抱きしめ、夢中になって彼女にしがみつく僕の髪や、背中を優しく撫で続けた。