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【オリジナル小説】メイメイ 3、4
最初から
【朗報】主人公、はじめてのおっぱい
3
「あっ」
大きく手を広げて、思いっきり砂の中に突っ込んだ右手の指先が、何か柔らかいものに当たった。思わず動きが止まる。砂の中に更に手を入れ、その柔らかい物を探っていく。
僕の手よりも大きくて、フワフワとした膨らみ。押し込むと、僕の手はその中にズブズブと沈み込んでしまうという気がしたが、実際そうはならずに優しい弾力で押し返された。
謎に満ちていて蠱惑的な柔らかさに、己が今までやろうとしていた事も忘れ、砂の中の女性が何も言ってこないのをいいことに、しばし夢中になって触っていた。
薄いサマーニットの生地越しに、彼女の体温を感じる。丸みを帯びたボールの様な膨らみを撫でたり、揉んだりしていると、やがてその中央というか、頂点の部分というか、何か柔らかさとは違う、少し硬い小石の様な物がある事に気付いた。
その頃にはもう、その膨らみが何なのか解り始めていた僕の心臓の鼓動は、鼓膜を突き破らんばかりに高鳴っていた。
恐る恐る、指先でその突起を軽く押してみると、砂の中から吐息とも悲鳴とも違う、よく分からない声がした。一体どういう時に、人はこのような声を上げるのか。当時の僕には思い当たらなかった。
「ご、ごめんなさい」
痛かったのだと思った僕は、砂の中から素早く手を引っ込めて謝った。
「いいのよ」煽る様な声で女性が応える。好奇心に支配されていた脳内の波が引いていき、僕は我に返った。大きく深呼吸をして、再び砂の中から女性を発掘する作業に戻った。
僕が初めに探り当てたのは女性の右手で、そこから続けて彼女の肩と、上半身の右側までを掘り出した。僕が大分掘ったにも関わらず、あまり深くには埋まっていない様に思えた。
そして何故か、彼女の右の脇腹から下の部分と、身体の中心から先は砂が硬くなっていて、それ以上掘ることが出来なかった。
「これ以上は硬くて掘れないよ」
「もう充分よ。身体はもう充分。今度は頭の周りの砂を退かして頂戴」
言われるがままに、僕は女性の右肩の上の砂を掘り始めた。彼女はゆっくりと右腕を上げると、細い指で僕の後頭部を撫でた。髪を愛おしげに撫でる感触に、耳まで熱くなる程昂った。
僕のうなじや耳朶を時折指先で擽る手付きは、凡そ子供を可愛がって頭を撫でるそれとは、全く違うものの様に感ぜられた。
始めて味わうむず痒い、苛立ちにも似た何かに、全身を支配されそうになるのを何とか押し返しながら、僕は砂の中から女性の頭を掘り出した。
「こんにちは」
「........うん」
ようやく砂の中から姿を現した女性は、生まれて数年程度の僕でも、自信を持って断言出来るほど美しい顔をしていた。
切れ長で、猫の様なつり目は長く太い睫毛に囲まれ、その中で黒い瞳が濡れた光を放っている。つり目に対して、眉毛はハの字に眉尻が下がっている。左目の下に泣き黒子があるのが、より一層美しさを際立たせている様に見える。鼻筋はそこまではっきりと通ってはいないが、小さくて可愛らしい鼻までスッと下りている。
薄くもないが厚すぎもしない、柔らかそうな唇が少し開いて、そこから前歯がチラリと覗く。
「やっと顔が見れた」
「うん」
「お名前は?何て言うの?」
両端が僅かにキュッと上がっている唇が、艶っぽく動いている。そこから、杳として知り得ない何かを含んだ、優しい声が出てくる。誰に教えられた事もないのに、僕はその唇に己の唇を重ねたくなった。
「……__良介」
「じゃあ、リョウちゃんって呼んでもいい?」
「いいよ」
僕が返事をすると、彼女は花が咲いた様な微笑みを浮かべた。息が止まりそうな程、僕は強い衝撃を受けた。
4
「掘るの、大変だったでしょ」
そう言って、彼女の右手が包んだ僕の小さな両手は、砂で汚れてボロボロだった。爪の間にも砂が入り込んでいて、こんなみっともないものを彼女に見られ、触られる事が恥ずかしくなった。
「どうしたの?」急いで僕が手を振り払うと、彼女の目が曇った。悲しげに眼を伏せる様子に、僕は両手を背に隠しながら慌てて言った。
「手が汚れているから、家に帰って洗ってくるね」
「あら……」
ふと我に返って辺りを見回すと、空はもう暗くなっていた。
「あっ、僕、家に帰らなくちゃ」
「そうね、家の人達が心配するわ」
そもそも自分が迷子になっていたことは、その時頭の中から綺麗に忘れ去られていた。とにかく彼女に見つめられる事が恥ずかしくて、居ても立ってもいられない気持ちになっていたのだ。
彼女は少し寂しそうな口振りでそう言うと、またあの微笑みを浮かべた。僕の心臓が苦しくなる。
「ねえ、また会いにきてくれる?私、ずっとここにいるから」
彼女は僕の頬に触れると、ゆっくりと親指を滑らせ、僕の唇の輪郭を擦った。首の後ろの毛が、ゾワリと逆立つ。
「また来るよ」僕のその言葉に、彼女の笑みが明るくなった。
気付けば、僕は吸い寄せられる様に身体を屈め、彼女に顔を寄せていた。そして自然な動作で、彼女に口付けをしていた。
彼女はそれを分かっていたかのように、優しく受け入れた。視界いっぱいに彼女の顔があった。すぐ目の前で、彼女がゆっくりと眼を閉じた。僕もそれに倣って眼を閉じてみる。真っ暗な世界の中で、唇に触れた柔らかさだけが確かに存在した。彼女の静かな息の音が、鼓膜を震わせて僕の脳を痺れさせていく。
彼女は僅かに口を開くと、僕の下唇を優しく噛んだ。唇を離して目を開けると、彼女の綺麗な微笑みが再び視界に映った。
「じゃあね、リョウちゃん」
「うん」
腹の辺りが、生まれて初めて味わう感覚で熱を帯びている。立ち上がれるかどうか不安になったが、案外簡単に身体を起こす事ができた。
周りの砂が彼女に掛からない様に、僕は慎重に砂場を離れた。僕は間髪入れずに、踵を返して全速力でその場を離れた。ゆっくり歩いて行こうとすると、離れがたくなってしまいそうだったから。
走り出してすぐに、ここがどこなのかわからない、自分が迷子だった事を思い出した。しかし、さして大した事もない様に思えた。とにかく気持ちが導く方へ、がむしゃらに走り続けていると、やがて見覚えのある通りに出た。
後ろを一度振り返り、自分が走ってきた道をじっと見て、自分がどの脇道から来たのかを頭に刻みつけた。この道に入ってからの道順は大体頭に入れた。また彼女に会いに行く事ができるように。
知っている通りに出てからは、頭の中であの公園までの道順を何度も反芻しながら、ゆっくりと歩いて帰宅した。
「何だ、あんた外出てたの」
玄関で靴を脱ぎ、こっそり足音を忍ばせて家に上がった僕を、丁度トイレから出てきた母が見付けた。「ご飯は台所にあるから」それだけ言い残し、母は二階に上がって行った。