愚形ターツを含む、ヘッドレス1シャンテンの打牌指針
久々にニッチな牌理の記事を書きました。
(7000文字以上あります。軽く読み流すのは難しいのでご注意ください)
今回は以下のようなテーマについてです。
数か月前に次の何切るがTwitterに挙げられていました。
自分のパッと見の印象は打8sでしたが、打4pという回答もそれなりに多く、意見が割れている問題でした(これについてのコメントは記事の一番下に記載しました)。
愚形含みの広いヘッドレス形に受けるか、愚形を払って良形確定に受けるかどうかは、瞬時判断が難しい割に実戦では頻出します。
誰しも悩むということは、これ自体が比較的微差である可能性も高いわけですが、それでも実戦では1つの選択肢を選ばなければならないので、ある程度型を固めておくのがベターです。
関連した内容としては、私の以前の記事で12234の形を含むヘッドレス1シャンテンについて触れたことがあります。
ここではツモアガリベースの期待値を提示しながら、推奨打牌を提示していく流れでしたが
「12234の部分が待ちになった場合は基本的には即リーチしない」というアルゴリズムになっていました。実戦でも12234の最終形はできれば回避したい訳なので、これはこれで問題のない結論だったかなと思っています。
一方、「愚形部分が即リーチに耐える待ち」の場合で、テンパイ速度(愚形受け入れ枚数)にかなり差があるケースは、ツモアガリベースの計算結果をそのまま外挿するのは実戦にそぐわない可能性もあるのではないか?という疑問があったため、今回の記事を書いてみることにしました。
ということで冒頭の牌姿にあるような
愚形ターツ+良形ターツ+3メンツ+浮き牌
の形を考えていきたいと思います。
浮き牌の価値が低いなら浮き牌を切るのが自然ですので、ここでは孤立3-7牌よりも雀頭を作りやすい浮き牌(たとえば4456の4や2224の4など)を想定して話を進めていきます。
① パターン分けの仕方
手牌の組み合わせは案外煩雑ですので、以下の項目を考慮してパターン分けをしました。
◉手牌に暗刻があるかどうか?
暗刻がある場合はそれが単独の暗刻なのか、複合形(13444や2224など)を形成しているのかで更に場合分けをしました。
◉愚形ターツの種類
愚形ターツが単独ターツなのか(13など)、連続形ターツなのか(13456など)。
◉良形ターツは以下の3つのパターンに分類
(1)単独ターツ(45など):ヘッドレス時の受け入れが4種14枚
(2)連続形ターツ(12345や23445など):ヘッドレス時の受け入れが6種19枚
(3)連続形ターツ(34455など):ヘッドレス時の受け入れが5種15枚でイーペーコー含み
後半部分に全部で22枚の牌図が出てきます。ちょっとした事典のようになっていますので、実戦で迷う牌姿があればそれに近い牌姿はおそらく見つかるのではないかと思います。一応網羅性にはこだわって記事を書きました。
② 表記の仕方
選択肢を2択に絞り、以下のように受け入れ枚数を表示しました。
(1)愚形ターツ落とし:良形A枚
(2)愚形含みヘッドレス:良形B枚 + 悪形C枚
期待値込みの推奨打牌については
(1) どちらかの選択肢を記載
(2) 微差(やや選択A)
(3) 微差(僅かに選択A)
の3つに分けています。
③ 目標としていること
結論から申し上げますと、調べていくうちに多くのケースで愚形ターツ落としが無難ということが分かってきました。
「じゃぁ、あまり詳しく調べる必要なんてないのでは?」と思われるかもしれませんが、「ある程度差のある選択なのか、あるいは微差なのか」を知る」ことは重要だと考えています。
また、良形を含めた受け入れ枚数に差があるのに期待値が微差であったり、逆に受け入れ枚数に差がないのに期待値で差がつく場合もあり、多種多様です。
目前の選択が微差であることが分かれば、「平面的にはどちらでもいい=立体判断を中心に決めるべき牌姿」ということが分かるので、その選別に役立てていただければと思います。
④ 推奨打牌の決め方
1巡あたりの良形テンパイ確率と、愚形テンパイ確率が結果に与える影響については、以下の研究がある程度参考になります。
本文の内容や図表を読み解くのは少し難しいですが、一番下に書いてある結論を読むと
良形1枚の受け入れに対して悪形2枚の受け入れがほぼ等価とあります(ロンあがりを含めた期待値について)。
この研究の注意点としては
(1)手変わりの要素を考慮していない。またそれに伴う手役の付加の価値も考慮していない
(2)良形待ちの質は考慮していない(ノベタンや亜リャンメンも普通リャンメンと同じ)
(3)守備面は考慮していない
といったことが挙げられます。一方、私の記事でよく使用している「ツモあがり確率計算機」によるシミュレートは、(1)と(2)の問題点をクリアしているため(その代わりロンあがりは考慮していない)、これらを全て併せた私なりの結論を書かせていただいております。
また今回は全てドラなしの牌姿を提示しておりますが、メンゼン進行前提の手であればドラが何枚あっても打牌判断にさほど影響はありません。
高打点が見える手だと「愚形でもいいから」と目先のテンパイ速度を優先しがちになるかもしれませんが、これも正しいとは言えません。
仮に自分にドラが沢山あれば、相手に先手を取られた場合でも危険牌を切って押し返すリスクが低くなっていますし、そもそもピンフの付く手ならピンフドラ3(以上)のダマという選択肢も持てるからです。
それでは1つずつ見ていきたいと思います。設定としては東1局の5~6巡目ということでお願いします。ボリュームがかなりありますので、じっくり見たい方以外は流し読みで十分です。
◉手牌に暗刻を含まない形
① 単独の愚形ターツを含む場合
※推奨打牌:打1m
打1m:良形5種17枚
打4p:良形2種6枚、悪形5種18枚
良形テンパイになる受け入れは11枚差、ただし総受け入れになると7枚差で逆転。一体どっちを優先すればいいの?と、いきなり悩ましくなる問題です。
結論から言いますと、総受け入れ枚数よりも良形待ちになる受け入れを優先した方がやや有利です。ドラが手牌に何枚かあっても同様です。
理由としては、まず打1mなら自動的にピンフが付くこと。次にピンズの4p周りの変化だけでなく、テンパイを逃すソーズの縦引きでも質の高い1シャンテンに変化することが挙げられます。あともう一つの理由は、ターツ落としをすると重なり期待の浮き牌を持つことになりますが、それがアンパイや懸賞牌、またはメンツにくっつく牌に置き変われば攻守兼用の牌になるからです。
ちなみにピンズが2234pなど、浮き牌が端に寄るほど選択間の差は縮まりますが、それでもターツ落としが有利とみます。
※推奨打牌:打1m
打1m:良形5種16枚
打4p:良形3種10枚 + 悪形6種19枚
リャンメンが12345の連続形になり、ソーズ部分の縦の受け入れが広い形となりました(23445なども直接の受け入れ枚数は同様です)。
枚数だけを見ると牌図1より打4p寄りになるようにも見えますが、打4pにおけるツモ2mはピンフの付かないノベタンになること、裏目となるソーズの1245s引きでも強いくっつきイーシャンテンに受けられることから、序盤であればこのテンパイ速度の差はカバー可能と考えられます。ただし一刻も早くカン2mの愚形リーチを打ちたいという状況であれば、打4pでも大きな問題はありません。
類似形です。この場合の打2m後の9pの受け入れはタンヤオが消えるので微差になります。愚形ヘッドレス側の役ありが確定しているので手広く受ける打6pがやや有利です。
※推奨打牌:打1m
打1m:良形5種16枚
打4p:良形3種10枚 + 悪形5種15枚
こちらはソーズのリャンメン部分が高めイーペーコーの連続形の場合です。打4pはイーペーコーの付く受け入れが減るため、牌図2よりも打1m寄りとなります。
② 連続形の愚形ターツを含む場合
※推奨打牌:微差(やや打1m)
打1m:良形6種20枚
打6p:良形5種17枚 + 悪形3種10枚
マンズの愚形部分が連続形(13456)になることで、打6pでもノベタンを含む良形率がかなり上昇します。それでもやや打1m寄りと考えますが、大差にはなりません。
※推奨打牌:打1m
打1m:良形6種19枚
打6p:良形6種20枚 + 悪形4種12枚
1mを切ると瞬間的な受け入れでは劣りますが、ピンズやソーズの有効な変化が多く、裏目の2m引きも打1sの選択肢があるのでトータルでは安定します。
※推奨打牌:微差(やや打1m)
打1m:良形6種19枚
打6p:良形6種20枚 + 悪形3種8枚
牌図5と同様、打1mは受け入れ枚数で劣りますが、タンヤオやイーペーコーがつく受けを考慮すると微差で逆転しそうです。ピンズが5567pなら打1mが優位です。
◉手牌に暗刻を含む形
①単独の暗刻を含む場合
※推奨打牌:微差(僅かに打1m)
打1m:良形5種17枚
打6p:良形3種10枚 + 悪形4種14枚
牌図1のシュンツを暗刻に変えた形です。手牌に暗刻を含むことによって打6pの良形受け入れ枚数が増え、1mを切ってもピンフが付かなくなるため(むしろ打6p側にピンフ受けがある)、期待値の差は微差となります
※推奨打牌:微差(僅かに打1m)
打1m:良形6種20枚
打6p:良形6種21枚 + 悪形2種6枚
マンズの愚形ターツが13456mで連続形になった場合です。牌図7に比べると打6p側の良形受け入れが大幅にアップしています。両者の期待値に大きな差はありませんが、6p周囲の変化と裏目の2m引きを生かせる点で、僅かに打1m寄りです。
※推奨打牌:微差(やや打1m)
打1m:良形5種16枚
打6p:良形3種10枚 + 悪形6種19枚
解釈の仕方は牌図2と牌図7を参考にしますが、これもやはり微差です。マンズの暗刻が888mならタンヤオの変化があるので打1m優位になります。
※推奨打牌:打1m
打1m:良形5種16枚
打6p:良形3種10枚 + 悪形5種15枚
イーペーコー受けとピンズ変化を考慮して打1mとします。
② 暗刻が複合形を形成している場合
※推奨打牌:微差(僅かに打1m)
打1m:良形7種25枚
打6p:良形6種22枚 + 悪形2種6枚
どちらを切っても良形テンパイしやすい形ですが、打1m後のツモ69pはピンフがつかないため、期待値は僅差になります。
※推奨打牌:打1m
打1m:良形7種24枚
打6p:良形6種21枚 + 悪形4種12枚
1mを切ると、タンヤオが付きやすくなる手変わりが比較的多く存在します。マンズが24555mで、ピンズソーズともタンヤオが確定していれば、微差になります。
※推奨打牌:微差(僅かに打1m)
打1m:良形7種24枚
打6p:良形6種21枚 + 悪形3種8枚
牌図11同様、打1m後のツモ9pが嬉しくないため僅差になります。ピンズが5567pなら打1mの優位性が上がります。
※推奨打牌:微差(僅かに打6p)
打1m:良形6種21枚
打6p:良形6種22枚 + 悪形2種6枚
牌図11のマンズが13444から13555になった形です。こうなるとほんの僅かではありますが打6pが良さそうです。マンズが24666mでタンヤオのある形になってもほぼイーブンですので、場況で選びたい牌姿です。
※推奨打牌:打1m
打1m:良形6種20枚
打6p:良形6種21枚 + 悪形4種12枚
1mを切ると瞬間的な受け入れではやや劣りますが、牌図12同様、タンヤオが付きやすくなる手変わりが比較的多く存在します。マンズが24666mでタンヤオが確定してる牌姿なら微差になります。
※推奨打牌:微差(やや打1m)
打1m:良形6種20枚
打6p:良形6種21枚 + 悪形3種8枚
牌図13に似ていますが、打6p後のツモ2mでタンヤオが消えるという特徴があり、3444と3555の機能的な差もあります。瞬間的な受け入れでは少し劣りますが、6pへのくっつきも含めて打1mが少し良さそうです。
※推奨打牌:微差(僅かに打1m)
打1m:良形5種18枚
打4p:良形3種10枚 + 悪形4種14枚
打1mが安定するように見えますが、1mを切ってもピンフにはなりづらく、浮き牌の横の変化にもあまり差がないため期待値的に大差はありません。ピンズが2444pの場合は2pに横伸びが期待できないものの、最終形として強い形になるので総合的な評価は同様です。
なお、ピンズが3444pや3334pの場合は打1mが優位です。3面受けの複合形がある場合は愚形ターツ落としがほぼ正解となります。
※推奨打牌:微差(僅かに打1m)
打1m:良形6種21枚
打7p:良形6種21枚 + 悪形2種6枚
マンズの愚形ターツが13456mで連続形になった場合です。三色が絡まないようにピンズとソーズの配置も変えてあります。受け入れ枚数通り微差ですが、8p引きと裏目の2m引きを生かせる点で僅かに打1m寄りになりそうです。
※推奨打牌:微差(僅かに打1m)
打1m:良形5種17枚
打4p:良形3種10枚 + 悪形6種19枚
牌図17で説明したのと同様で、牌図2よりも選択間の差は縮まりますが、ソーズの縦引きとピンズ変化がある分、僅かに打1mが良さそうです。
※推奨打牌:打1m
打1m:良形6種20枚
打7p:良形6種20枚 + 悪形4種12枚
マンズの愚形ターツが13456mで連続形になった場合です。三色が絡まないようにピンズの配置も変えてあります。受け入れ枚数は微差ですが、8p引き以外にソーズの2s,4s,5s引きでタンヤオに渡れるため、打1m優位となります。
※推奨打牌:微差(やや打1m)
打1m:良形5種17枚
打4p:良形3種10枚 + 悪形5種15枚
イーペーコー受けとピンズ変化を考慮して打1mとします。
※推奨打牌:微差(僅かに打1m)
打1m:良形6種20枚
打7p:良形6種20枚 + 悪形3種8枚
マンズの愚形ターツが13456mで連続形になった場合です。タンヤオが付かないようにピンズを7999pに変えてあります。1mを切っても7pを切ってもイーペーコーの付きやすさに大差はなく、符ハネまで含めた総合的な期待値は僅差となります。
◉微差の牌姿にどう対応するか
打1m推奨と書かれているものは、平面的には愚形ターツを外して良形確定に受けた方が良いと考えられます。
では、微差と書いてある牌姿(22個中14個)についてはどう対応すべきでしょうか?
① 巡目
巡目が早いほど良形で曲げるメリットが大きくなるため、愚形ターツ外しが優位となりやすいです。逆に中盤過ぎ以降は受け入れを最大化した方が良いことが増えてきます。
② 手役の有無
(1)既にフーロしている手で、愚形待ちを含めた受け入れが多い場合は良形率だけでなくテンパイ効率も考慮します。例えば下記のような手牌なら打6pとします。三麻の類似の牌姿もチーができない分、やはり受け入れ枚数優先になりそうです。
(2)タンヤオが確定している手や役牌の暗刻など、できればメンゼンで行きたいけど鳴いたりダマテンにできる役ありの手は、微差であればヘッドレスで受け入れを最大化する選択が有力になります。
(3)今回、手変わりや条件次第でタンヤオやイーペーコーが付くものについては注釈を付けましたが、手役や打点面を考慮すると期待値が大きく変わるものが存在します。また三色同順が絡む牌姿は極力排除しましたが、一手先に三色が関連する形も数多くありますので、微差のものについては追える手役がないかを確認することが必要です。
③ 場況
期待値が微差の場合に重要なのは、最終形として残る可能性の高い愚形待ちが即リーチに耐える場況になっているかどうかです。よって愚形ターツがカン456待ちの場合は、愚形ターツ外し寄りになると言えるかもしれません。逆に愚形待ちの部分が1枚以上切れている場合は自然に愚形ターツを払うことが多くなるため、4枚残りに限定して言えばむしろ良形側の残り枚数が減っていたり待ちが悪くなっていることもありますので、その点は注意が必要です。
④ 守備面や点数状況
本文中でも触れましたが、愚形ターツ落としは浮かせた牌をアンパイと入れ替えられるメリットがあります。受け入れMAXのヘッドレスはブクブクになりやすいため、守備を意識するなら愚形ターツ落としが優位になりやすく、逆にラス目の親ならば愚形上等で受け入れを最大化する戦略が有効になりそうです。
⑤ 良形ターツが連続形の場合は愚形ターツ落としを考慮する
牌図2、牌図5、牌図15、牌図20などは、良形ターツ側の待ちを既に自分で1枚使用していることに加え、ヘッドレスにした場合の総受け入れ枚数が多いため、愚形含みヘッドレスに受けたくなりますが、連続形ターツの縦引き(12345なら1245引き)や浮き牌へのくっつきでより良い形に変化することが多いので、見た目以上に愚形ターツ落としが優位になりやすい傾向があります。
◉最後に冒頭の牌姿について
出典はGウザクさんの名著、『傑作何切る300選』からでした。
手牌のパターンとしては牌図19を参照します。連続形の両面ターツが12345から34556に変わっているだけで、受け入れ枚数に関しては上記の表の通りです。ただし34556は2を引くと3面張変化がありますので、牌図19以上に愚形ターツ外しが有利になることが予想されます。また一手変わりで234三色への変化もありますので、巡目が早くてメンゼン手順を主眼に置くなら打8sが良さそうです。
この問題で少し難しいのは、タンヤオという副露役があるということと巡目が7巡目と中盤に差し掛かっているところでしょうか。カン7sの場況が並以上なのであれば、受け入れMAXの打4pも悪くはないように思います。
よって巡目が早いほど打8s、遅いほど打4p。カン7sの場況次第では打4p寄りに傾くというケースだったように思います。
以上です。最後まで読んでいただき、ありがとうございました。