皆殺しのレヴュー或いはなな無双の解析
道遠
https://twitter.com/michitoh_m
Abstract
『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』における「皆殺しのレヴュー」について、解析を行った。列車の変形の始まりから、列車上でのシーンが終わるまでを繰り返し視聴し、舞台上で起きたことを具体的に記載することを試みた。
まだ舞台に上がっていない描写がなされる星見純那にも見せ場はあったし、天堂真矢、大場ななは納得の殺陣を見せてくれた。レヴューソングは作詞の中村彼方、作曲・編曲の三好啓太の思いが形となっていた。演出においても、そして小道具にいたるまで、舞台を、舞台上の演者をキラめかせるためにあったと思われた。
1.Introduction
『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』は、2021年6月4日に公開された映画である(以下、劇場版。監督:古川知宏、配給: ブシロード、上映時間:120分)。
2017年から始まった少女☆歌劇 レヴュースタァライトの作品の一つであり、2018年7月からTBSほかで放送されたTVアニメ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』(以下、TV版)、また、2020年8月7日に公開された『劇場版再生産総集編「少女☆歌劇 レヴュースタァライト ロンド・ロンド・ロンド」』(以下、ロロロ。監督: 古川知宏、配給: ブシロード、上映時間:119分) から続く、『戯曲 スタァライト』を軸とした舞台少女たちの物語である。ロロロは再生産総集編の名が示す通り、編集と新規カット追加によって、TV版とは似て非なる物語を描き出した。
ロロロと劇場版の繋がりについては、大場ななについて、再演について、wi(l)d-screen baroqueについて、舞台少女の死についてなど様々な点で語られることがあると思う。特にワイルドスクリーンバロックの元ネタ、ワイドスクリーンバロックについては、草野原々のブログが詳しい。その親しみやすいタイトルからは予想も付かないほど濃厚な内容である(*1)。
本稿では、それらも踏まえたうえで、劇場版の最初のレヴュー、ワイルドスクリーンバロックの開幕を告げる「皆殺しのレヴュー」について、解析を行いたい。そこに何が描かれていたか、部分部分での報告は目にしたが、レヴュー全体での報告はないので、本稿が嚆矢となれば幸いである。
*1 『劇場版少女☆歌劇レヴュースタァライト』で大流行!最近話題の概念「ワイドスクリーンバロック」ってなに!? , 水槽脳の栓を抜け SF作家 草野原々のブログ, 閲覧日 2022-03-31,https://the-yog-yog.hatenablog.com/entry/2021/06/23/190403
2.Materials&Methods
劇場版はこの原稿を執筆している2022年3月現在、いまだ映画館でも上映が続いてはいるが、繰り返し視聴が容易であることから、Blu-rayソフト(オーバーラップ、OVXN-0058(うち本編ディスクTGXS-2482)) を用いた。
視聴にはプレイステーション3(Ver.4.84、SONY)、torne(Ver.5.00、SONY)を用いた。
解析にあたって、列車の変形が始まる00:24:57から、列車上でのシーンが終わる00:30:58を繰り返し、また一コマ一コマ視聴し、皆殺しのレヴューで何が起きたかを具体的に記載することとした。
3.Results
タイミング(Time)、描写、音楽について、カットごとに区切った。
00:24:57 列車の変形が始まる。
00:25:00 2両目が折りたたまれたタイミングで『wi(l)d-screen baroque』が流れ始める。次々と折りたたまれる車両。(楽曲開始)
00:25:02 先頭車両の天面の一部が変形し、ポジションゼロが現れる。
00:25:04 ポジションゼロの周りには塔のような意匠。
00:25:07 折りたたまれた2両目の奥にはレヴュー服に身を包んだ舞台少女たちが立っている。
00:25:10 天堂真矢、西條クロディーヌ、星見純那、石動双葉、花柳香子、露崎まひるの6人が、強い風にさらされながら立っている。
00:25:13 先頭車両にはスピーカーが乗っている。
00:25:15 大場ななが強い風を受けながら立っている。顎下から胸にかけてだけ見え、顔は見えない。
00:25:18 ワイルドスクリーンバロック開幕。星見純那が大場ななの名を呟く。
00:25:21 大場ななの顔が見える。表情はない。
00:25:24 曲に合わせて足踏みする大場なな。
00:25:29 先頭車両と2両目は連結されておらず、2両目の舞台少女たちから見える大場ななは、遠い。
00:25:32 足踏みを止めて台詞を喋り出す大場なな。
00:25:36 左手で刀、脇差“舞” を抜く大場なな。鞘にはカエル。
00:25:40 刀を鞘から抜き、振り抜くと、それに合わせて風が止む。
00:25:43 舞台少女たちを乗せた車両より後ろの連結が切り離され、後に引けない状態になる。
00:25:46 一転して、キリンが交差点に立っている。
00:25:52 皆殺しのレヴューの開演を告げるキリン。照明が落ちるように、夜になる。
00:25:57 警戒した表情の石動双葉、花柳香子と比べ、星見純那は口も開けて呆けているようにも見える。右隣から車両が並走してくる。その車両からの光がまぶしくて目をそらす舞台少女たち。
00:26:01 並走する車両の上部が切り離され、中から照明が現れる。天堂真矢だけが照明を浴びながら前を向く。
00:26:04 前には、宙を飛ぶ大場なな。舞台少女たちの前に、大場ななが着地する。
00:26:06 ゆっくりと上体を起こす大場なな。口をゆるく開け、あどけなさすら感じさせる表情を浮かべる。
00:26:10 改めて、その名を呼ぶ天堂真矢と西條クロディーヌ。
00:26:12 大場なな、走り出す。向かう先には西條クロディーヌ。(歌詞「あなた 分かり」)
00:26:14 西條クロディーヌが下から上に剣を振り、大場ななは更にその下から上に刀を振り切り結ぶ。大場なな、返す刀で首を狙うとみせかけて高く上に振りかぶり、次の瞬間、一気にしゃがみ込む。右足を西條クロディーヌの後ろに差し込み、重なるように背後をとると、西條クロディーヌの振り下ろす剣を下から押し返しながらそのまま立ち上がる。鍔迫り合いを回転しながらさばき、次の狙いを天堂真矢に定める。西條クロディーヌはさばかれた勢いで下がっていく。天堂真矢と大場ななは一度切り結ぶと、天堂真矢は振り抜き、大場ななは構えたまま下がる。天堂真矢が上に跳ぶ。(歌詞「ます か? ルールが」)
00:26:17 大場ななは切りかかるが、刀は空を切り、完全に空振りになる。着地した天堂真矢、回転して左から切りつける。大場なな、これを受けるが、天堂真矢は剣を振り切り、その勢いに押されるように刀ごと身体を浮かせる。(歌詞「分かります か?」)
00:26:19 大場なな、上体を反らして脱力しているような姿勢から上方に跳び宙返りをして、西條クロディーヌ、天堂真矢が切りつけるのを余裕をもってかわす。西條クロディーヌ、天堂真矢が大場ななを見るとき、既に大場ななは走り出している。(歌詞「wi(l)d-screen baroque」)
00:26:22 車両後部に走る大場なな。星見純那が放つ矢を右へのステップで難なくかわす。次の矢を、跳んでかわす大場なな。矢はその下を通過していく。(歌詞「歌って踊って」)
00:26:25 着地後の大場なな、低い姿勢のまま星見純那に切りかかる。星見純那は弓で受けるが、刀を振り抜く大場ななに押しのけられる。大場なな、露崎まひるを目で捉えながら、追い越すように低い姿勢で右後ろで踏み込む。左足を軸に回転して背中合わせになり、一瞬、体を開いてから、露崎まひるの左手側に着地して、切りつける。大場ななは露崎まひるを一周してから切りつけた形になる。露崎まひるもメイスで受けるが押しのけられる。(歌詞「奪い合いましょう 役」)
00:26:28 石動双葉が大場ななに切りかかるも空振り、かわした大場ななは石動双葉と切り結び、見つめあうも、石動双葉の気合の入った目と対照的に、大場ななの目には感情がうかがえない。背後から花柳香子の薙刀が来ることを察知して目だけ動かした後、難なくその突きを避ける。その先にいた石動双葉のほうが驚いている。大場なな、花柳香子に切りつけ、振り抜き、押しのけて、走り出す。(歌詞「終われば 花と散れ それから」)
00:26:33 列車の最後尾で立ち止まる大場なな。(歌詞「次は?次は?次は?あなたは」)
00:26:38 石動双葉、星見純那、花柳香子、露崎まひるが見つめる先に、最後尾で立ち尽くす大場なな。列車はトンネルを抜け、複線化された開けた場所に出ている。(歌詞「ドコへ?」(呪詛みたいなフレーズ(*2)))
00:26:44 戸惑いながらも、オーディションが始まったと考える舞台少女たち。警笛が鳴り、表情を変える花柳香子。
00:26:48 左後ろから別の列車が追いついてくる。
00:26:50 ドアには大場ななのもう一振りの刀、本差“輪”が固定されており、言葉に呼応するかのように刀は発射される。
00:26:53 右手で飛んできた刀を受け止め、二刀を下げる大場なな。
00:26:55 膝を沈ませてから、走り出す。
00:26:56 最後尾から走り出した大場なな、一番手近にいた露崎まひるに狙いをつける。
00:26:58 大場なな、左の刀で露崎まひるに切りかかる。なんとかメイスで受ける露崎まひる。しかし受けきれず、押しのけられる。大場ななは既に次の相手、石動双葉を見ている。石動双葉、大場ななの足元を狙って切りつけるが、大場ななはこれを跳んでかわす。(歌詞「キラめきが」)
00:27:00 天堂真矢が走り出し、自身も跳んで、空中で大場ななと切り結ぶ。花柳香子は着地したところを狙うが、大場なな、これを跳んでかわし、かつ、星見純那の放った矢を切り落とす。着地したところに西條クロディーヌが切りかかるが、大場なな、これをいなして星見純那へと向かう。星見純那に切りつけ、はじいて振り返り、後ろから切りかかる西條クロディーヌと切り結び、押しのける。天堂真矢が回転した勢いを載せて横に薙いでくるが、大場ななはその上を飛び越えるように跳んでかわす。大場なな、右手一本で着地、片手バク転の要領でもう一度跳ねる。空中で天堂真矢の突き、花柳香子の横薙ぎを受けるも、難なく着地、石動双葉の一撃を左の刀で受ける。左から右の刀にスイッチしつつ石動双葉を押しのけ、切りかかってくる露崎まひるを弾く。(歌詞「どうした 退屈だ その程度か 口ほどにも」)
00:27:06 大場なな、手を交差させた形で、右の刀で露崎まひるのメイスを、左の刀で花柳香子の薙刀を受ける。切り結んだところを一度押し上げた後、すっと下げる。(歌詞「ないな」)
00:27:07 大場なな、交差した手を広げるように、左右の刀を振るう。花柳香子、西條クロディーヌ、露崎まひる、石動双葉に囲まれていたが、全て退ける。(歌詞「逃げの」)
00:27:07 星見純那、西條クロディーヌの背後から矢を放つ。大場なな、これを回転して後ろ手に右の刀で切り落とす。(歌詞「言い訳」)
00:27:08 大場なな、片膝をついた露崎まひると切り結んで押しのけ、花柳香子と切り結んで押しのけ、西條クロディーヌと切り結んで弾き飛ばす。走り、天堂真矢と一撃、二撃と切り結び、星見純那の矢が飛んでくるのを跳んでから切り落とす。着地したところに花柳香子に切りつけられ、その後は西條クロディーヌも加わり団子状になるが、大場ななは跳んで抜け出す。露崎まひる、石動双葉が左右から切りつけるが、大場ななはこれも左右の刀で受ける。(歌詞「には どれも」)
00:27:12 露崎まひると切り結んでいた右の刀を引いたところに、割り込むように花柳香子が切りつけるが、大場ななは上体を反らしかわし、右の刀で切り結ぶ。左の刀は下に向けている。(歌詞「これもならな」)
00:27:14 大場なな、下に向けた左の刀で、石動双葉の上掛けを列車に縫い付ける。石動双葉、苦悶の表情を浮かべ、しゃがみこむ。(歌詞「い」)
00:27:15 花柳香子と切り結んでいる大場ななの左手側を、星見純那の矢が通り過ぎていく。刀で花柳香子の薙刀を下に押さえつけ、押しのけている間に矢がもう一本、今度は大場ななの右手側を通り過ぎていく。(歌詞「なら」)
00:27:16 花柳香子の薙刀の柄に、星見純那の矢が当たる。大場なな、手を広げて回転して、花柳香子を狙う。(歌詞「な」)
00:27:17 大場ななの刀が一閃、花柳香子の上掛けが落ちる。(歌詞「い」)
00:27:18 上掛けのボタンが飛ぶ。(歌詞「降りても舞台だ」)
00:27:22 大場なな、石動双葉を縫い付けていた刀を列車から抜き、露崎まひるを牽制、星見純那の矢を切り落として回転し、勢いのまま左の刀を投げる。(歌詞「言葉だけじゃ」)
00:27:25 刀は回転しながら弓を構える星見純那に迫る。(歌詞「足りない」)
00:27:27 矢を三本つがえた星見純那の足元に、投擲された大場ななの刀が刺さる。つがえた矢は三本とも放たれる。(歌詞「の」)
00:27:28 三本の矢は照明に次々と刺さり、硝子の破片が飛散する。(歌詞「分かって」)
00:27:29 破片を手でよけ、目を逸らしていた石動双葉に、大場ななが切りかかる。なんとか受ける石動双葉。(歌詞「る?」)
00:27:31 露崎まひる、大場ななの背後から仕掛けるが、石動双葉を押し下げて振り返りざまの刀と切り結ぶ。
00:27:32 大場なな、後方に倒れるかのように上体を下げ、右足で蹴りを狙う。
00:27:33 切り結んだあとの不安定な姿勢だった露崎まひる、両足を払われ、転倒する。(歌詞「ねえ本気」)
00:27:34 次の瞬間大場ななは跳躍しており、バク宙しつつ露崎まひる、石動双葉の上掛けを落とし、ボタンを飛ばす。(歌詞「出そうよ」)
00:27:35 台詞を口にする大場なな。
00:27:38 弓を両手で抱え、立ちすくむ星見純那。
00:27:40 大場なな、星見純那に向けて走り出す。星見純那の手前で照明は途切れている。
00:27:42 走ってきた大場なな、速度を緩め、星見純那の前に来る頃には歩いている。照明はない。立ちすくむ星見純那。大場なな、刺さっていた刀を抜き、そのまま星見純那の上掛けを落とす。星見純那はしゃがみ込み、大場ななは歩き続ける。お互いの目は一度も合っていない。
00:27:52 星見純那のしゃがんだ先に大場ななの背中。その先、列車の先頭付近に西條クロディーヌ、天堂真矢の姿がある。列車がトンネルを抜ける。
00:27:56 コンクリートジャングルの夜景が広がる中を、列車が走る。(動物の鳴き声)
00:28:02 列車上で歌う大場なな。(歌詞「la la la la la la la la ♪ la la la」)
00:28:08 空には月が出ている。列車が走る。西條クロディーヌ、天堂真矢、大場ななの姿は見えるが、表情はうかがえない。大場ななの台詞に、西條クロディーヌは応えられない。間をおいて、応える天堂真矢。(歌詞「la la la la la ♪ wi(l)d-screen baroque 自然の摂理なのね」)
00:28:33 天堂真矢は自信を持った表情で台詞を繋げる。
00:28:37 対峙する大場ななには覇気は感じられない。大場ななの後ろには、上掛けが落ちて動かなくなった、石動双葉、星見純那、花柳香子の姿。再び列車がトンネルに入り暗転する。
00:28:41 再び照明が並走してきても、西條クロディーヌはまだ喋っている。天堂真矢と大場なな、お互い一歩ずつ近づいていく。
00:28:48 西條クロディーヌの台詞に耳を貸さず歩く天堂真矢。(歌詞「最後まで生き残る」)
00:28:50 同じく耳を貸さず歩く大場なな。(歌詞「のは」)
00:28:53 歯を食いしばり、怒り心頭な西條クロディーヌ。(歌詞「誰かが」)
00:28:55 西條クロディーヌ、走りながら啖呵を切る。(歌詞「誰かの 血となり 肉となれば」)
00:28:59 大場なな、一度目を閉じてから、ゆっくりと両手を上げ、西條クロディーヌに応える。(歌詞「生を諦めて 生きる」)
00:29:03 照明の前で交差する西條クロディーヌと大場なな。西條クロディーヌの突きよりも速く、大場ななは切り終えて、その先にいる天堂真矢と切り結ぶ。(歌詞「生きない 生きない 生きる 生きない 生きた」)
00:29:08 大場なな、力任せに天堂真矢の剣を払う。(歌詞「い」)
00:29:10 西條クロディーヌの上掛けの紐が切れ、ボタンが飛び、上掛けは落ちる。
00:29:11 ポジションゼロをとる大場なな。(楽曲終了)
00:29:12 髪をかき上げる。
00:29:16 舞台少女たちを乗せたまま、列車は進む。大場ななの台詞がかすかに聞こえる。
00:29:28 星見純那、応えられない。大場なな、再度台詞を言うが、2度目も応えられない星見純那。
00:29:39 大場ななは台詞を続ける。
00:29:41 大場なな、台詞とともに振り向く。
00:29:45 星見純那、3度目も応えられないまま台詞を紡ぐが、首が切れて激しく流血する。
00:29:53 血の雨の中、眼鏡に付いた血もぬぐわない星見純那。
00:30:01 花柳香子は倒れて首から血を流している。石動双葉はそれを止めようと手で押さえている。露崎まひる、足元に血の水たまりをつくっている。
00:30:03 星見純那、血だらけの自分の手を見て取り乱す。
00:30:09 一喝する天堂真矢。
00:30:14 舞台装置が血の雨を降らせている。
00:30:18 大場なな、台詞を紡ぐ。
00:30:28 列車の車両連結が解かれる。
00:30:29 大場ななを乗せた先頭車両が遠ざかっていく。
00:30:34 後部車両は、舞台少女たちを乗せたまま、トンネル内で止まる。
00:30:46 血だまりの上、血の雨の中、頬を濡らす一筋の血が、花柳香子の口に入る。
00:30:53 台詞を口にする花柳香子。止まった列車の上、照明と血の雨に濡れながら、舞台少女たちは、ただ立ち尽くす。00:30:58、了。
*2 中村彼方@kanata_nakamura, 午10:53・2021年6月18日・Twitter
for iPhone, 閲覧日 2022-06-26, https://twitter.com/kanata_nakamura/
status/1405886477024718854
4.Discussion
皆殺しのレヴューを題材とするにあたり、どこからどこまでをレヴューとするかが、第一の課題であった。レヴューソングが流れ出してから、ポジションゼロが取られるまで、とするのは簡単だが、劇場版における多くのレヴューはその形式をとらない。本稿では、舞台装置が応えた、列車の変形時点からを開始とし、列車の停止を終了とした。舞台少女たちが舞台装置により血を吹き出し、血しぶきを浴びるところまでが舞台の上でのレヴューであり、上掛けが落ちても終わらないというルールが、「競演のレヴュー」よりも前に提示されていたと考えている。
列車の変形については、CGWORLD 2021年8月号に劇場版でCG監督を務めた神谷久泰へのインタビュー記事があるので引用する。
列車の変形という突拍子もない形で行われる舞台転換ではあるが、手間をかけて作られており、ワイルドスクリーンバロックの開幕にふさわしい。
なな無双とも呼ばれる皆殺しのレヴューであるが、それぞれの舞台少女たちも尋常ではない殺陣を見せてくれている。かわす、かわされるを除き、武器と武器とがぶつかり合った回数を目視計測すると、星見純那(弓)2回、星見純那(矢)4回、石動双葉4回、西條クロディーヌ5+1回(1回は団子状のため正確な計測不可)、花柳香子7回、天堂真矢7回、露崎まひる7回であった。繰り返し、まだ舞台に上がっていない描写がなされる星見純那だが、4回、切り落とす必要のある矢を放っているのである。飛んでくる矢を切り落とす大場ななの異常さを表してもいるが、多対一の混戦にもかかわらず矢を打ち込む星見純那も十分に異常である。また、冒頭の天堂真矢、西條クロディーヌをいなして車両後部にやってくる大場ななを、声も上げずに矢を放つ初手、かわされてしまうが弓矢の特性を活かしたとてもいい所作であった。
回数は多くはないが、天堂真矢、大場ななの強さを表現する所作として、回転が挙げられる。相手と対峙した際に回転することで一撃の威力を増し、また切っ先がどこを向いているかをわかりにくくする効果があり、もちろん舞台映えする。加えて、大場ななには異常な跳躍力があり、無双するにふさわしい殺陣を見せてくれる。
レヴューソング『wi(l)d-screen baroque』の話をしよう。劇場版を象徴する直接的な煽り文句にあふれた歌詞は、7人で演じられるレヴューにもかかわらず小泉萌香の独唱と相まって、多面的な表情を持つものであった。抑えた序盤、無邪気な中盤、圧倒的な演技で魅せる終盤。劇場版パンフレットに作詞の中村彼方へのインタビュー記事が掲載されているので引用する。
また、作曲・編曲の三好啓太は自身のtwitter でこう語っている。一連のツイートは、「劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト」関連CD発売記念スタッフトークショーイベント直後のものである(*3, *4, *5)。
作詞、作曲、歌唱いずれも、大場ななをいかに魅せるか、その異質さ、異常さを伝えることに注力されていた。特に、二刀を構えた後は、『1905年』の第二楽章を彷彿とさせるサウンドに歌(キラめきがどうした~) が加わることで、理不尽かつ圧倒的な存在としての大場ななを明瞭にしていたと思う。
コンクリートジャングルを走る列車の上、表情が全くうかがえない遠景からの天堂真矢のアップはとても印象的であった。劇場版と同日公開された、『映画大好きポンポさん』(監督: 平尾隆之、配給: 角川ANIMATION、上映時間:90分) に、主人公の映画監督ジーン・フィニが映画の編集をするシーンがあるが、そこで結果として選ばれたカットと一致しているのである。同作パンフレットに編集の今井剛へのインタビュー記事が掲載されているので引用する。
劇場版ではこの後、大場ななと、その後ろに上掛けの落ちた舞台少女たちが並ぶカットが対照的に描かれ、しかもトンネルに入り暗転する。残酷なまでに徹底された舞台装置の働きが垣間見える演出である。
最後に、血糊を口にして、花柳香子は「甘い」と呟くが、実際に、イチゴ味の血糊がある。フィルムブラッド Film Blood(*6)には、静脈、動脈それぞれに対応した色合い、水溶性、口の中に含むことができる、といった特徴が挙げられている。舞台用品であることを台詞として口にすることで、舞台の上であることをより意識させる意図があったと思われる。
*3 三好啓太@KeitaMiyoshi, 午前1:42・2021年8月23日・Tweetbot for iOS, 閲覧日2022-03-31, https://twitter.com/KeitaMiyoshi/
status/1429484129876279305『音域が高すぎても低すぎても頑張っている感じや作為的な印象になってしまうので、ある程度狭い音域に抑えることで大立ち回りを余裕で演じている風に演出したかったというのがあります。あと、表情が平常であればあるほど狂気が際立つと思ったのでそうしました。』
*4 三好啓太@KeitaMiyoshi, 午前2:33・2021年8月23日・Tweetbot for iOS, 閲覧日 2022-03-31, https://twitter.com/KeitaMiyoshi/
status/1429496879780298762『ななの曲ですが、ななの視点というよりは“なながどう見えるか"を意識しました(これはRE:CREATEもそうでした)。他の6人が感じていた違和感や異質な印象を観ている側も感じられるようなサウンドで、「ヤバい映画始まった…」と思わせることがこの曲の役割の一つだと感じていました』
*5 三好啓太@KeitaMiyoshi,午前2:55・2021年8月23日・Twitter for iPhone, 閲覧日 2022-03-31, https://twitter.com/KeitaMiyoshi/
status/1429502480488951813『あと皆殺しのイメージとして最初からこっそり参考にしていたのはショスタコーヴィチの交響曲第11番『1905年』の二楽章で、ロシア帝国の軍隊が数千人の民衆を虐殺する様子を描いているシーンがあるのですがそれが非常に理不尽かつ悲劇的サウンドでぴったりだったので参考にしました』
*6 Film Blood(株式会社センターラインアソシエイツ, 閲覧日2022-03-31, http://www.centreline.org/shop/theatricalblood.html )
5.Conclusion
舞台装置が、演技が、楽曲が、演出が、全てが舞台を、舞台上の演者をキラめかせるためにあった。大場ななが舞台少女たちを圧倒する姿は、そうあるべく作られ、演じられ、演出され、たしかに観客のもとに届いたのであった。
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