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秋雨の東山動植物園

秋雨の東山動植物園
時間ギリギリに慌てて駆け込む。なんとか10分前にたどり着くことができた。
ここは東山動植物園の自然動物館にある夜行性動物エリア。館内は真っ暗で、かすかな灯りを頼りに動物を探すエリアだ。
最近知ったのだが、このエリアは開園後1時間の10時まで電気がついていて明るい。
行かなきゃと思い立ち早起きしたものの、休日のクセでゆっくりと優雅な朝を過ごしていまい慌てることになった。
小雨が降ったり止んだりの平日の動物園。人はまばら。朝は慌ててしまったけど、ここからはゆっくりと楽しもう。

夜行性動物という響きから、妖しい雰囲気を感じてわくわくしてしまうのは私だけ?
館内は本当に暗くて、ほとんど動物は見えない。
わずかな赤暗いあかりにうごめく動物の気配から姿を想像する。
だから自分のイマジネーションに頼る部分が大きい。そこに楽しみを見出せるかどうかなので、けっこう人を選ぶ。
妖しい雰囲気は雰囲気のまま終わってしまうのも致し方ない。

しかし今回は違う。夜行性動物とはいえ、同じ地球上に棲まう生き物。だからそこにも昼があり太陽がある。
屋内だから太陽の光が届かない?なら電気があるじゃない。
電灯に照らされた館内は、動物が枝に乗っかっていたり巣箱に入っていたりとかなり見える。
ほとんど上下に揺れることなく走り回るアルマジロ。
上下運動がほとんどないため、地面を這うように駆け巡る姿はゴキブリやムカデといった昆虫を彷彿とさせる。その挙動は不気味だが、硬そうな丸い鎧をまとったフォルムは可愛らしさを演出する
不気味だがちょっと可愛い。これは「ブキかわ」と形容していいものなのだろうか

ブキかわアルマジロを見ていると、電灯が一段暗くなった。
もうすぐ10時の消灯時間か。
時間に制約があるため、いつものように1つの動物に夢中になってはいけない。
今日は下見をするかのように、全体をささっと見ることにした。

走り回るスナネコ
明るいベージュの毛に包まれたスナネコ。乾燥地帯に住む猫で、耳に砂が入らないようもふもふの毛で覆われている。まだ若いのか岩場の洞窟と外を行ったり来たり、元気いっぱいに走り回る
小さめのサイズ感といい、イエネコに似た容姿に愛着を覚える

ケープジェネット

イエネコより大きな体と尻尾のケープジェネット
ヒョウのような体の斑点や、たぬきのような縞模様の太い尻尾。薄明かりの中、切り株の上に座る姿はとても凛々しい。
そんな姿に見とれていると、館内は豆電球の星空輝く闇夜に包まれた。

自然動物館の外に出ると秋らしいきりっとした空気。心地よい秋風が頬をさらう。
秋といえば遠足。色とりどりのカッパを羽織った幼稚園児たちが、先生に連れられていた。
せっかくの遠足が雨なのは残念だけど、園児たちはそんなことお構いなし。目の前に現れる動物たちに夢中だ。
羽織ったカッパ。雨が降ると知り、急ごしらえで準備したであろうお母さんたちを想像する。子供のために一生懸命準備したお母さんのおかげで、こうして園児たちが楽しめている。
自分もそうだったんだろうな。
遠足の前日に、親がどこからか出してくれるリュックサックにワクワクしたあの頃。
わいわいと楽しむ園児たちの姿から、様々なバックグラウンドを懐古した。

遠くの方から騒々しい声が聞こえてきた。
声の主はチンパンジーのようだ。
彼らの元へ向かうと、山型のアスレチックの上の方で群れがお互いに威嚇しあっている。
これは自分たちの序列を決める争いなのだろうか?毎日闘争する荒々しい一面があるんだな。

彼らの声に誘われたのか「アーーーッ」とターザンのような雄叫びを上げるフクロテナガザル。
向かいのゴリラ舎にはイケメンで有名なシャバーニが壁を背にして群れを見守る。少し離れた屋内との窓。その窓枠にそうように腰掛けるのは、シャバーニの息子キヨマサ。
その距離感は親子の絶妙な関係を表しているかのようだ
柵の前から園児たちが声をかける「ゴリラ〜」
シャバーニのシルバーバックが輝いた気がする

橋の上から見下すように眺めることができるバッファロー
飼育員の人が餌のリンゴを持ってきた。
バッファローは尻尾を小刻みに振り喜びを表す。
いや待てよ。もしかしたら、尻尾を振っているのは犬のように嬉しいという感情からではないのかもしれない。なぜなら彼の体中には無数のコバエが飛び交っている。そのコバエを追い払っているに過ぎないのかも。
ただ、リンゴを一心不乱に食べる様子から、彼が幸せなのは間違いない。

大人気のコアラ舎。平日で小雨が降ったり止んだりの不安定な今日はゆっくりできる。
こんな日はコアラもストレスが少ないのか珍しく動き回る。
木から木へと飛び移るコアラ。
少しだけ勢いをつけてジャンプ。
その動作や飛んだ距離を見ると、あまり俊敏な動作は得意ではないのだろうと思う。
地面を走るコアラ。
四つんばいで走るが、ぎこちない動き。
ほとんどを樹上で過ごすため、手足や体が木に捕まりやすいよう特化しているからだろう。
アグレッシブなコアラを想像するのは難しい。そんな彼らを見られただけでも価値が高い。

左上にツシマヤマネコの子供


ツシマヤマネコの子供達
耳の後ろに動物用カラースプレーで色分けされ、みわけられるようになっている。
ひときわ元気いっぱいだったのが、メスのひとえ。
天井近くの棚で、壁に貼り付けられた枯れ枝に攻撃を仕掛ける。すると枝は折れて地面近くの隙間へ落ちていく。
大人のネコなら、そのまま放っておくだろう
でも彼女は隙間に落ちた枝を追いかけ、地面に降りる。でも見つからない、
「あれ?どこにいったのかな?」
無邪気に遊ぶ彼女に愛しさをおぼえた

瞬く間に過ぎた動物たちとの交流
次は植物園へと向かった

温室前のオニバス


植物園のシンデレラ城的な存在の東山動植物園の温室。その前には池がある。池には巨大なハスのオニバスが浮かんでいた。
1メートルはあろう葉は、子供が乗っても大丈夫らしい。こんなに大きな葉が浮かぶことができるのには秘密がある。葉の裏に格子状の葉脈があって、その格子の隙間に空気を溜める。その浮力によって大きな葉を浮かべている。だからこの葉脈はとっても大事。食べられないようトゲがたくさん生えているらしい。
植物には様々な進化があって面白い。

植物園のシンデレラ城的な存在の温室
小雨のちらつく天候で、いつも以上に湿度の高い温室。このじめじめ感が熱帯雨林の雰囲気を一層感じさせてくれる。
突然天井を打ち付ける雨音。天井から滴る水滴。
新しい演出かと思いきや本物の雨。特に温室の古いエリアでは結構な雨漏りで、滴り具合は雨樋からこぼれ落ちる雨くらいの勢いだ。傘を差したくなるが差すべきか。でも室内だから差すのは違う気もする。
考えた結果、むしろこの状況を楽しむべきではないかと思った。雨降るジャングルを経験できるなんて、そうあることじゃない。濡れるだけだし。

熱帯雨林の雨季を感じさせる温室は特別だ。館内にある池に、滴る雨粒が落ちて水面に波紋が広がる。その波紋に揺れる金魚さえ、熱帯特有の魚類に見えてくるから不思議だ。
水滴の化粧をしたハイビスカスやブーゲンビリア。水を飲みにきた鳥のような極楽鳥花。生き生きとした姿に夏の日を想う。

若干、雨が弱まったタイミングで外へ出る。
アスファルトから跳ねる雨水が、ズボンの裾を濡らす。足早に並木道へと向かった。

状況は一変した。
実は雨の植物園はとっても楽しい。
雨滴る温室で雨の楽しみ方を覚えたからだ。
通りを覆う樹木の傘
枝葉に弾ける雨音
すり抜けて滴る雨粒
跳ねる水しぶき
秋雨から広がる世界のすべてが心地よかった。

雨の中、回る水車
水辺の昔ながらの植生は日本の自然が共存する姿
雨は植物園の雰囲気を一層引き立てた

最高の雰囲気を独り占め


森の東屋で一休み
家で淹れてきたホットコーヒーを一口
この雰囲気を独り占めする贅沢

雨の日って、楽しさ半減するイメージがあった
でもそれはイメージだけだった
本当は、雨の日の植物園って最高に楽しい
だからまたくる時は、雨の日がいいな

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