晩夏のパントマイム4
発送の作業をしていると、とても心が休まる。手を動かす事はとても大切だと気付かされる気がした。更に、たわいも無いおしゃべりが、私の錆びついた脳みその、いつもは使わない部分を刺激する。それは心を病んだ人達が行う、作業療法のようだった。
「私って本当に根が暗いから、いつもはこんなに流暢におしゃべりしたり出来ないの。不思議ね。」
「どんな活動でも、何かしらの自己啓発になるんじゃないかしら?あ、なんだかとても、上から目線な意見ですが。」
発送の作業は3人組で行なわれており、もう一人の女の子が発言した。女の子は髪を金色に染めて、更にドレッドヘアにしていて、上腕には黒いタトゥーを入れていた。とてもボランティア活動などするタイプには見えない、と私は思っていたがかなり手慣れていて、丁寧に且つ素早く作業をこなしていく。
「私は、まあさっきの会話でお分かりかと思うけど、倉橋と申します。まあ、古くからの知り合いは"裕美ちゃん"って呼ぶけれども。」
ドレッドヘアの女の子は聞いてきた。
「あの裕美さんって呼んでも良いですか?アタシはカオル。皆んなはカオルと呼び捨てにするの。まあ、カオルちゃんなんて呼ばれても、なんだか身体中がムズムズしちゃいそうだけど。」
「カオルちゃんは、このボランティア活動、長く携わっているように見えるけれど、周くんとはどちらが先輩になるのかしら。」
「いやだ裕美さん、私の呼び名はカオルでお願いしますね。えっと周とのことよね。うん、周とは長い付き合いだよ。まあ2、3年かな。それで周は私の愛弟子ってところかな。」
わたしはカオルちゃんの吐いた「愛弟子」という表現が可笑しくてクスリと小さく笑いながら言った。
「カオルはなんだか作業の手際も良いし、話し方も気取りが無くて、わたし、一方的に良い印象を受けたの。わたしも愛弟子にしてくれないかしら?」
「アタシは見た目通り荒っぽいよ。所謂スパルタってヤツ。歳上だからって容赦しないから覚悟しててね。」
「嘘ウソ、カオルはめっちゃ気いつかいで、本当は繊細な心を持つ乙女だよ。」
周くんはわたしには使わない言葉使いで、横槍とも助け舟とも取れる短いツッコミを入れた。
「裕美さん、気を付けた方が良いよ。こいつ、いつでもニコニコしてるけど、実はアタシなんかより、ビッチなところがあるから。」
私は笑いながら言った。
「まあ、ビッチなのね。私には極めて紳士的な態度をしているけれど。その内バケの皮が剥がれるかもしれないわね。」
周くんは相変わらず、ニコニコしながら黙々と作業をこなしている。
作業机を囲んで、親密な雰囲気が3人を包み込んでいる。
続く