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新連載「死神」1

桂一には複雑な過去がある。

それをこれから詳らかに記述していくのは極めて困難ではあるがそれをやらない事には物語が進まないのも事実だ。桂一は上目黒の川沿いの工場街で育った。桂一の幼い頃の日本は「公害」に苛まれていた。特に河川の汚染は酷く夏場の悪臭はそれは酷いものだった。「光化学スモッグ」など今のお若い方々は耳にした事も無いだろう。そう、「環境問題」ではなく「公害」である。桂一はそんな汚染された過去の東京で育った。

桂一には姉がいる。桂子という名だった。ケイイチにケイコ、旧家の許嫁のように揃えてカツラという字から始まる名前を、何故父の重蔵が付けたのかは定かではない、そもそも桂一は父親が大嫌いだった。父は姉とばかり楽しそうにしていて、桂一の事は余り構ってくれなかった。一方で桂一は、母の妙子にべったり、そう、いわゆるマザーコンプレックスだった。桂一は小さな頃大変病弱で、病院がよいが続いていた。もちろん父には仕事があり母親との蜜月は常に病院で繰り広げられていた。

桂一は当然の事であるが、典型的なゲイである。冷たい父、強い姉、過保護な母、これだけ環境が揃えば当然の成り行きといえば簡単ではあるが、遺伝子というより育った環境で言えば「パーフェクト」だった。桂一は、『peanuts』のライナスちゃんのように汚い毛布を引きずり親指をしゃぶっていて、おねしょも小学生の4年まで治らなかった。そして病院の待合では折り紙とあやとりに勤しむ、のび太くんのような少年に育った。

また桂一は自閉症の傾向もあった。夜中に耳が痛い(桂一は耳鼻咽喉系の病気を患うことが多かった)ので泣いているのだが、隣室の両親に「病院に連れて行って欲しい」という一言が言えなくて、ひたすら泣きじゃくるのみであったりした。