消費主義からのギアチェンジ 北東インドメガラヤにて
今回次の仕事が始まるまでの数ヶ月、Workawayというプラットフォームを使ってボランティアをしながらどこかに長期滞在することに決め、インド国内、周辺国合わせ数カ所のホストに連絡を取ってみた。
結構早めにレスが来たのが、メガラヤ州とアッサム州の境にあるとあるキャンプ場からだ。
ホストの紹介欄に「documentary film maker and photographer by profession 」と書いてあり、何か一緒に作れるかもしれない!北東インドは前から行きたかったし!とビビビという直感に応じてすぐに彼と連絡を取り、グワハティ空港まで飛んだ。
空港からキャンプ場までホストのステファンに車に乗せてもらった。ステファンはアッサム出身で、インド人特有のなまりがない流暢な英語を話す。キャンプ場まで1時間ほど離れた車を走らせ、山の中にあるキャンプ場に到着。
キャンプ場には、村の人たちが作った竹製の小屋と鍵がなかなか閉まらない簡易トイレ
テントには電気が通っていないので、夜は真っ暗だ。
キッチンには手作りの釜戸とガスコンロが一台、電源はキッチンにひとつのみ。
この時、3月で気温が夜は1桁台になるくらい寒かったが、もちろんお湯なんか出ないので、昼間にランニングで体を温めてから水シャワーを浴びたりした。
こっちの人は普通なのかもしれないが、自分が最低限の生活をギリギリ送れるセットアップだった。
その日から、竹の葉がさらさら鳴るのを聞きながら起き、日光でテントの中が暖かくなるのを待つ、そんな自然のリズムと一緒になって生活した。何もないからこそ、そこにあるもののありがたみを知り、時間がゆっくりと流れる充足感をたっぷりと味わった。
Workawayはボランティアをする代わりに住居(テント)と食事をホスト側に提供してもらう。1週間で使ったお金はなんと500ルピーもなかった。
物や情報が溢れる日本や、お金で人の価値まで計られる勢いのインドの都市と比べて、ここ(北東インド)は圧倒的に市場に出回るものが少なかった。でも便利な生活の代わりに所得や所有とは別の価値観があるなと感じた。
ここで出会って少しだけ一緒に生活した人達の考え方に影響を受けた。
ホストのステファンがある日突然「オーブンでピザを焼きたいから、手作りのオーブンを作ろう!」と言い始めた。(彼はアイデアが頭の中でどんどん浮かんでは消えていく)
ステファンが何か作ろうというのは「このキャンプ場で見つかる材料で」作るという意味で、新たに何かを購入したりはしない。彼は、自然にあるもので新しいものを生み出すことに価値を感じている人だ。このキャンプ場の小屋やツリーハウスは竹、釜戸は土、看板は近くにある製材所の端材で作られている。彼は自然から取れる素材に新しい使い道を見出していて、それがこの場所のコンセプトでもある。
オーブン作りはオーブンに使う大きな平たい石を川辺で探すところから始まる。「トレジャーハントに行くぞ!」と言ってジャングルの中に入っていくが、すぐにはなかなか良いサイズの石が見つからない。
不意に「平たい石、どこかで買ったら良いんじゃない?」と聞いてみると「That’s not fun!」という答えが返ってきた笑
他にも好きなデザインで看板を作ったり、いつも物事を効率良くプロセスすることに頭を使っていたのが、逆方向の「ゼロから何かを作りだす」という思考へとギアチェンジする必要があった。
また同じ時期にボランティアに来ていたオランダ人のカップルがウィンタージャケットを探していた。私とステファンがDecathlonに良いのが売ってると伝えたが、購入したら長く使える物が良いので、環境に配慮したブランドのものを買いたいとのこと。
物の購入の際にその製造プロセスにを想像したことが今まであっただろうか、と考えたり。
ここでJackとJarunという若い男の子2人が働いていた。
近くのキラナショップでは、細くて短いニンジン、トマトやジャガイモ、玉ねぎ、小さなスナックが購入できる。
彼らはこれらのわずかな材料からものすごく美味しい料理を作る。もちろんロティは小麦粉と水を練るところから始まるし、パコラは野菜を切るところからだし、スナックも何かの粉を練り、包丁で切り、油で揚げる。
ここで食べたものは他の地域で食べる料理よりも辛さがマイルドで素材の味がしっかりしていた。今まで食べてきたどのインド料理よりも美味しかったし、毎日食べていても飽きなかった。
インドに住んでいるにも関わらず、あの脂っこいストリートフードや味の濃くて辛い北インドのカレーは苦手で避けていたが、これなら今後自分でも作れそうだ。
こんな環境で過ごし、今までどれだけ不必要なものにお金を使ってきたか、生活を振り返りながら考えた。
元々物への執着心は無い方だが、生活必需品に対しては特に疑問を持つこともなく消費していたことに気づく。
例えば、食料品や日用品のデリバリーサービス、家具や家電、交際費等。お金を出さないと得られないものは、実は少し工夫をすれば別の方法で手に入れることができ、より生活が楽しくなるかもしれない。
交際費については仕方がないが、食料品はわざわざ手に入りにくいものを高いお金を出して買うより、その土地にあった料理を作るための玉ねぎやジャガイモ、トマトなどを買って自分流にアレンジすればもっと出費を抑えられるし、今レンタルしたりAmazonで購入している家具は工夫をすれば、作れるかもしれない。
もちろん好きなを食べるためにお金を出したり、服や物を購入することで満足感得られる。
でも予定を埋めるための消費より、ある制約の下で新しい何かを作り出す喜びの方に気持ちをも向けていこうと思った。
(自分の考える)豊かな暮らしには、必要最低限の物のみが揃っていればいいのだから。
コミュニケーションが上手くいかなかったこともあった。
キャンプ場はHillTribe Eco campという名前でECOというワードが入っている。にもかかわらず、ここはやっぱりインド。
プラスチックゴミ、アルミ缶まとめて燃やしていたり、洗面台から出る油やゴミをそのまま近くの池に流していたり、これでエコと名乗って良いのか疑問に思うことはあった。
一緒にボランティアをしていたオランダ人のカップルはコンポストなどのウェイストマネジメントをホストに提案していたが、ステファンは乗り気ではなかったらしく、
「私たちにとってエコロジーというのは自然と共存することだけど、彼(ホスト)にとってのエコとは木を一本も切り倒さないことみたい」と皮肉混じりに言う。
自分もこの場所のプロモーションをしてほしいというというざっくりとした要望を受け取ったが、正直人を増やしたいのであれば、キッチン、水回りの備品にもっと投資するべきだと感じた。でもここの予算がどれくらいあり、どんな人をターゲットにするかまでは話し合えなかったし、そこはボランティアが介入する範疇ではないと判断した。
初めてのインドでのworkawayは、自分の選択肢の中に「購入する」の他に「自分で作る」が加わって、何だかまた日々の生活に新たな楽しみが増えた。
JackとJarunの笑い声、歌声、ウクレレの音、自然の声、同じタイミングで来ていたオランダ人シェフカップルの料理、静かに読書をした時間、猫や犬とたわむれた時間、焚き火をみんなで囲い、出身国の色んなことについて話した時間、忘れられないなぁ。
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