黄色の花園
その仄暗い空間を見渡すと、前方の左寄りの位置に、古い木製のドアがあるのが見えた。ドアの上側はドア枠の形の通りに弧を描いていて、子どもの頃に観たことのある中世を題材にした映画で見覚えがある、この形のドアを実際に開けてみるのは初めてだった。
どこからか入ってくる光が、手入れの行き届いた木目に反射し鈍く照り返し、しっかりと閉じられたドアからは穏やかな懐かしさが滲んでいた。
曇った金色の丸い、飾り気のないドアノブを右にひねり手前に引くと、どっしりとした厚みと温もりのあるその木の板の先には、庭園が広がっていた。
季節感のない穏やかな光に満ちたその庭園は、円周上に広がっていて、それほど広くはなさそうだったけれど、大きさや距離はここでは重要ではないもののような気がした。
黄色い、さまざまな大きさ、形、高さの花々がそれぞれ心地良さそうに咲いていて、間に散りばめられた濃い紫、赤、焦茶色などの植物がその世界の鮮やかな彩りと質感の豊かさを強調し、空気はたしかな喜びで溢れていた。
黄色の庭園の中には小さな広間があり、その広間の大きさにぴったりのベンチが私を待っていた。
ベンチに腰をかけ、澄んだ空気を深く吸い込み、微笑んだ。
立ち上がり、花々の間の小道をさらに先に進むと、庭園の外れには背の高い木々が立ち並んでいて、道はそのまま林の中心へと続いていた。
ふと、私が会いに来た人たちは、この先にいることを思い出す。
一歩一歩、交互に足を踏み出すと小枝やいつか落ちた葉が足の下で音を立てた。
裸足であることに気づいたが、不思議と痛みはなかった。
道の両側に整然と立ち並ぶ木は、程よい間隔をお互い取っているようで、木漏れ日は生き生きと私を林の奥へと歓迎した。
意識が林の入り口から林の奥へと移り、前にもここへ来たことがあると思い出した頃、木々が両側に道を押し広げ、円形の空間を作っているところに辿り着いた。
円の中央へ進み、地面に腰を下ろす。
あぐらをかき、肩を落とし、顎を少しだけ引いて目を瞑る。
庭園での幸福感の余韻を感謝の気持ちで確認し、手放し、無を受け入れると、自分を囲むように円状に7人の精霊が居るのが分かった。
7人とも、顔は見えないけれど、微笑んでいるのがわかった。
その微笑からは、私を無条件で受け入れる深い気持ちが感じられた。
誰であるかは覚えてはいないけれど、遠い昔からの繋がりのある人たち。
一年に一度、この人たちに会うために、そして贈り物を受け取るために、あの扉を開けて、ここにくるんだった。
一年に一度、この世でこの生を受け入れた記念日に。
1人目が、青白く光るものを私の両手の上に置いた。それは叡智だった。
2人目は、黄色く光る、少し大きなものを私の両手の上に置いた。それは豊かさだった。
『心配しないで。』
3人目は、ピンク色の整った形のものを私の両手の上に置いた。
『私を愛する人が現れるということ?』
『あなたがあなたの周りに愛情を注ぐ限り、決して孤独にはならないから大丈夫。』
4人目は、オレンジ色に輝く何かを、楽しそうに渡した。創造力だった。
5人目は、クラシックな趣のある、シンプルなボールペンを渡した。
『いつでも、適切な言葉が見つかるように。』
6人目は、金色に光るものを私の両手の上に置いた。
『常に美しくあるために。前を向き続けるあなたは、美しい。』
7人目は、すずでてきたような、花の装飾が施された小さな箱を手のひらに置いた。
『これはなんですか?』
『いつでも、望むものが手に入るという希望の気持ち。』
7つの贈り物を受け取った私は立ちあがり、お礼の気持ちを込めてお辞儀をし、帰路に着いた。