シリーズ内閣記者室①『お金』
※こちらのストーリーは、最初の緊急事態宣言下において、お暇していた恵勇が、妄想にどっぷり浸かって作り上げた、星新一テイストのショートショートです。基本的には、内閣記者室を舞台とし、総理、記者、官房長官の三人の掛け合いとなっており、それぞれが微妙に噛み合わないという風刺の効いたテイストとなっています。当時の内閣はもちろん今とは違う面子ですが、登場人物にはお好きな顔を当てはめてお読み下さい。
ショートショート「お金」
記者:総理、お金が欲しいです。
総理:それにつきましては、お察し致します。
記者:なんでこんなにお金が欲しくなるのでしょうか。
総理:理由はさておき、現在国民の皆様への給付金を検討している所でございます。
記者:理由が知りたいのです。お答えください。
総理:世の中には、理由を知らない方が幸せな事があるわけでございまして。
記者:お金を欲する理由は、知らない方がいいと仰るのですか?
総理:はい。知った途端に欲しくなくなるからです。
記者:いや、ちょっと何言ってるのか分からないですが。。
総理:そうですね。分からないかもしれません。私はただいつもと同じように、この原稿に書いてある事を読んだに過ぎません。
記者:ちょっと待って下さい?もしかして総理はもう、お金は欲しくないんですか?
総理:はい。充分頂いておりますし、お金を欲しくなる理由を知ってしまったので。。
記者:だってお金は必要でしょう?資本主義の中で生きるために、お金が必要じゃないですか!
総理:はい。そうやって、この国の歯車が回っています。ですから、この苦境に際して給付金の支給を検討しているわけでございまして。
記者:だったら何故!?
総理:あなたが理由を知ってしまったら、給付金を受け取って頂けないからです。
記者:私は受けとるぞ!お金が欲しいんですよ!必要なんです!どうしても!!
総理:そうですか。分かりました。どうやら、もう既に重症のようです。
記者:何を言ってるんだ!私は健康だぞ!
総理:違います、そうではありません。
記者:何が違う!!私は健康で、お金が欲しいんだ!!
総理:残念ですが、あなたは陽性です。
記者:は!?
総理:正確にはあなたも、です。
記者:総理…!?
総理:お金が寄生しています。
記者:総理…!!?
総理:どうやら質問に答えざるを得ないようです。
記者:そんな…まさか…!
総理:あなたがお金を欲しくなる理由は…
記者:いやだ、やめてくれ!!
総理:お金があなたを食べて生きているから。。
記者:官房長官ーーーーー!!
長官:落ち着いてください。どうかご安心を。
記者:…ですよね?エイプリルフールとか、そういうやつですよね?ね?
長官:いやいや。もう五月なので、そうではないんですけど、安心してもらって大丈夫ですよ。
記者:え……?
長官:お金があなたを食べ尽くすまでに、一生かかりますから。
ショートショート
シリーズ内閣記者室『お金』
【了】
企画、執筆 … 恵勇
※作中の登場人物は架空の設定であり、特定の人物を想定したものではございません。主たる三名には、一定の普遍性を持たせたつもりです。