俳ポ夢想 〜特選への道〜
死ぬまでに一度は、俳句ポストで特選を獲ってみたい。投句活動に対してかなり斜に構える自分にも、俳ポ特選への憧れがフツーにあります。しかも、具体的にどんな句で、という細かい願望まであるんです。
やはりですね、小難しい事を書き殴るよりは、誰もが分かることばで圧倒的なリアリティを伴う句が理想ですね。
それで、そういう句での入選を日々妄想しているのですが、結局リアリティというものは、自分の感覚を多くの他人に伝える為に必要な、いわゆる共感の土台というものを、たった17音で示せるのか、それがポイントなのだと思います。しかし自分の場合は、その土台の上に鳥が止まっている事が多く、鳥に対して関心のない他人と、強く共有できそうな景は、なかなか見つかりません。仮にそれを詩的に描き切れていたとしても、相対的に高い評価にはなりにくいのです。
だから、共感度を高めるには、せめてその鳥が身近な種類でなければなりません。鳥支部の統計によれば、日本国民の鳥知名度ランキングの上位ベスト3は、四半世紀に渡り変動していません。これはスズメ、ハト、カラスの3種です。異論は認めません。何故なら、例えばツバメとスズメを見誤る可能性はありますが、上記3種に限っては、どんなに予備知識が薄くとも、相互に見誤る可能性がないからです。つまり、鳥という得意分野で特選を狙おうとするなら、この3種のいずれかを詠み込む事が成功への近道と言えるのです。
鳥好きは珍しい鳥を詠み込んだり、細かい知識に溺れがちですが、誰もが知っている鳥であれば、共感の土台を広く設定でき、リアリティが伝わりやすくなります。あとは、どうやってオリジナリティを付与するか。ありふれた景色に細やかな驚きを見いだせるか否か。そこがポイントな気がします。
鳥とは関係ないのですが、俳ポの過去の特選句で、そういう意味で一番成功していると感じるのが、俳並連代表の、こちらの句です。
『積込みを終えて花冷だったのか』
ヒマラヤで平謝り
作者はここに、トラックドライバーとしての実感を込めましたが、ほとんどの読み手はそれを主観で経験した事がありません。しかし逆に言えば、ほとんどの人が客観的には立ち会った事のある景なのです。どこで何を積んだのか、という想像の幅こそあるものの、それは日常の至る所に存在している光景だからです。読み手は自分の記憶の中から、『積込み』に該当する場面を切り取り、作者のリアリティに重ねる事ができます。そして、想像の中で視点を主格に移したままで、作業を終えた後の汗ばんだ身体へ迫る『花冷』の肉体的感覚を実感できます。その瞬間、呟くように紡がれた『花冷だったのか』という措辞は、圧倒的な説得力を持って読み手の心を揺さぶります。これが、この句におけるリアリティの正体です。それを子供でも分かることばだけで紡いだ事、これこそがこの句の眼目と言えるのです。この句について、論文めいた記事を書いても良かったのですが、作者のトラックドライバーがニヤニヤして交通事故に繋がる懸念があるので、今回は自重しておきます。
さて、読者の皆さんは、何か得意分野をお持ちでしょうか。自分にとってはそれが鳥でしたが、動物、植物、食べ物など、色んな概念が俳句のエッセンスになり得ます。好きこそものの上手なれとは良く言うのですが、花冷の句を見ても分かる通り、作者は、作者にとっての日常である『トラック』を直接文字情報には乗せていない事が分かります。それを伏せたままで、花冷という、これ又それ自体には明確な映像のない時候の季語に、トラックに付随する動作の映像を展開する事で、背後にトラックそのものを忍ばせる事に成功しているのです。作者は他の誰よりもトラックを愛用しているのにも関わらず、それを脇役として、季節への実感を全面に押し出した詩を紡ぎ上げました。その結果この句は、誰もが共感し得るだけの、圧倒的なリアリティを纏う事になったのです。好きなものに突っ込んでいくのではなく、敢えて一歩引いて、客観的に描写できるか否か。ここが最大のポイントと言えるでしょう。
という事は、この記事で触れている鳥を例にした作戦は、兼題が時候の季語の時に最も効果的である、という結論が出てしまいました。
もしかして、というか、もしかしなくても、『冬暖か』は、時候の季語なのではないでしょうか。
と、言う事は…。
と、と、特選チャーンス!!
皆さん、まだ間に合いますよ!
まず、自分の『好き』を見つめ直して下さい!そして、その中で最も共感度の高い場面を切り取るのです!でもって、カメラアングルをスーっと引いて、客観的に場面展開をするのです!それを見せてから、オリジナリティとしてほんのひとつまみの、スパイスを振るのです!そして最後に、それを味見して感想を述べれば、特選句の完成です!!
これでもう、勝利は確実です!
誠におめでとうございます!!
やりましたね、いやーめでたい!!
…え?
特選獲ってから言えって…?
いや、まあ、でも、ほら。
冬暖かな感じの鳩の句を、もう送ってあるから。
もしかしたら、それが、ね?
自分としては、この記事を最後までお読み頂いた皆様からの、憐れみの『いいね』が頂ければ、それだけで充分でございますよ、ええ。
俳ポ夢想 〜特選への道〜
【了】
企画、執筆 … 恵勇
俳句出典 … 俳句ポスト365 兼題『花冷』より