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2020/11/13の星の声
妖星と餅、乱れ舞う。
色とりどりの木の葉が舞う地上の様子を真似て、惑星たちが見たことのない動きを始めるのを眺めていると、尋常ではない事態であることがすぐにわかる。入り乱れた星の軌道を観測する別の銀河の人々は、何らかの兆しを察知した。
一見すると惑星たちが、半狂乱に陥っているようにも見えるが、どうやらそうではない。惑星たちの意識ははっきりしている。意図してそのように動いているわけではなく、不可思議な流れに、ただ心地よく身を委ねているだけのようだ。
からっぽになった月には、もう月ウサギの一族しか残っていない。つきたての餅を振る舞おうにも、誰に差し出したらいいのか、ウサギたちは誰もわからなかった。ただ、ウサギたちは、惑星の動きが変わったことには気がついていた。そんな中、子ウサギ一羽が、小さな餅を乱れ舞う星に向かって放り上げてみた。
すると、餅は餅で、八の字を描きながら各惑星の周りを大きく旋回して、ある位置に達すると、どういうわけか地球に向かって落っこちていった。子ウサギは面白がって、あちこちにばら撒くように餅を放り続けたが、結局、そのある位置に集まった餅は、もれなく地球へ向かった。もう1羽の子ウサギも、父さんウサギも、母さんウサギも、ばあさんウサギも、じいさんウサギも、ひいばあウサギも、月ウサギの一族の誰がやっても同じことになった。
月ウサギの一族はそうやって、餅をついては、放り続けた。惑星と、餅の乱舞は、地上のあらゆる場所が、紅葉や花吹雪、紙吹雪でいっぱいになるようで、別の銀河で観察を続ける人々の中からは、少しずつ拍手が起こった。彼らも、どうして自分たちが手を叩いているのかわからなかった。星と餅が乱れ舞う光景に効果音をつけるような気持ちになったのか、次第に愉快な表情を浮かべて歓声を上げ始めた。
別の銀河から響く声は、地球に届いた。地球は偏頭痛のように周期的に起こる鈍い痛みと微熱が続き、少しずつ疲弊していたところで、その歓声はどういうわけか励みになった。それと同時に、長らく続いた極端な綱引きがもうすぐ幕を下ろすことを悟って、ずいぶんと気が楽になった。
そこに現れたのは、「許されざる者」と呼ばれる一団だった。
実体のない彼らは、地上で尽きることのない惨状の原因とみなされているが、実像は、すべての人類が毎日の夕焼けで燃やしそびれた残存する想念の集積体で、土にも星にも還れずに虚しく汚れていく生命活動資源なのだ。
もうじき、許されざる者たちは天赦を迎える。それは、宇宙創生からの天運により決まっている。別銀河から地球を観察し続ける人々は、惑星と餅の乱舞は、そのことと何か関係があるような気がしてならなかった。観察者のうちの一人が言った。
「あのように動く惑星、つまり妖星の出現は、あらゆる災いの前兆とされてきたが、妖星群に加えて、月から生まれた餅の乱舞は、天地がひっくり返るような出来事に起因するものとなるだろう。地球上の人々は、前例のない感染症に見舞われ大きく騒めいているが、引き続き、私たちは地下、海底からの動きをよく見届けることにしよう。特に、夜明け前、宵の口が重要だ」
するとまた、別の一人が言った。
「この時期、南十字のミモザから引き立つ香りには、なおざりにした営みを完調させる成分が含まれています。それに、オリオンの三つ目の前では、どんな隠し事もできません。ああ、うっとりしてしまいますね」
星と餅が乱れ舞う太陽系を眺める別銀河の人々は、白鳥の心臓、デネブに目を向けた。
空気椅子が並ぶ透明屋敷にかかった、段なし梯子をせっせと上り下りするデネブの人々の暮らしは、相変わらず全宇宙の誰もが理解できないままだ。スラム街に似た地域で、贅沢に露天ジャグジーを楽しむ子どもたちのほとんどが3000歳を超えていて、早くから成熟を放棄している。その隣で、星イチゴのスイーツセットを楽しむ大人たちは、年齢逆行の選択をして、シワひとつない肌をテカテカと輝かせながら、空一面の超巨大スクリーンを通して、地球上で繰り広げられる全宇宙参加型即興劇に見入っていた。
風をつかんで滑るように移動する「風歩き」を赤子の頃に会得するデネブの人々は皆、自らの手足を自在に使って、ほとんど力を使わずに、地上地中、空中、宇宙問わず、あらゆる空間を一足飛びで移動していくが、遊び心に溢れた彼らにとっても最近の星と餅の乱舞は注目に値する出来事のようで、星と餅の奇妙な動きをつかもうとして、必死になって模倣を続けているようだ。
そのうち、彼らは何としてでもその流れを掴むだろう。そうなってようやく、白鳥のように優雅に風をまとうデネブの人々が、全宇宙参加型即興演劇に本格参加することになる。役者が揃うまで、あと少し。
今は、妖星と餅が乱れ舞う様子を、あらゆるところから観察してみるのがいいのかもしれない。
今週は、そんなキンボです。
こじょうゆうや
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