映画罪の声 感想
近年稀に見るたくさんの要素が詰まっており、かつどれもがおざなりになっていない映画。様々な切り口から沢山のことを考えさせられる。多分観る人によって一番重く受け取ることは違うんだろうな。すごく今の時代に合った、今の時代の人々が観るべき映画のように感じた。
子供が巻き込まれた事件。未解決事件として幕を閉じたけど、何一つ終わってなんかいない。メディアに切り取られた事件を見ている私たちを風刺するような独特な視点がすごく丁寧に映像化されていたように思う。
完成報告会で小栗旬さんがおっしゃられた「観終わった後に少し考える時間を作れるような映画になっている」という言葉。本当にその通り。映画を観ている途中も思考が停止せず寧ろどんどんフル回転していく。そして、観終わった後も、冒頭とラストの繋がりや伏線、印象的なシーンやメッセージについての思考がどんどん深まっていく。身体にじんわりと染み込むような、何度も味わえる深い深い映画だった。何度も観たくなる。
--------------------以下めちゃくちゃネタバレ注意--------------------
\まず!笑/
◯源さんの京都弁
本当にナチュラルで吃驚した。ちょっとしたニュアンスの柔らかさやイントネーションがしっかり京言葉で、ただの関西弁じゃなかったのがすごく感動。源さんの努力の賜物。
◯阿久津英士について
普通の男を演じる小栗旬を久し振りに見た気がした。「ギン萬事件」の真相を追う中で、阿久津自身の思想であったりメディアに関する考えだったりが変化していく。観ている私たちと一緒に変化していっているようだったのがすごく印象的だった。事件を追うことで自分自身良い方向に変化があったのが、昔の事件を追うなんて無駄だと言っていた阿久津だったというのが凄く感動した。
常にどこか他人事で冷めていた阿久津が沢山の人々の“声”に導かれて熱を持っていく様は本当に心が熱くなった。
◯曽根俊也について
事件に巻き込まれた人の中で、一番幸せに生きている人。だからこそ事件を調べるようになり、事件に関わっていたことに苦しみ、真実を知っていくうちに苦悩する。子供の頃も今も常にたくさん幸せの中にいる曽根は、自分の人生と事件に巻き込まれた他の人々の人生との相違に苦しんでいくことに。壮絶な人生を聞かされた後、貴方は?と聞き返されるシーンでの源さん演じる曽根の眼は本当に圧巻だった。様々な感情がぐちゃぐちゃに入り混じったあの表情を作れるのは本当に源さんの力。この事件を追う中で、沢山の人々の“罪”を知り、それに苦しめられた人々を知った。狭く小さな幸せな世界から一歩飛び出した先で、人間性が深く熟成していく様は見もの。
◯新聞社の人たち
事件当初、事件の力に動かされ情熱を持って、マスコミとして事件を人々に魅せた人々。マスコミの意義を問う上で欠かすことはできない人たち。
時たま出てくるコメディ的なやり取りは観ていてすごく面白かった。こういうシリアスな映画でいかに息抜きで力を抜けるかっていうのは結構重要だと思うんだけれども、本当に完璧でした。(じゅんさんのシーンもね)
◯望ちゃん
この物語の中で一番希望と夢を持っていた人。キラキラと輝く笑顔が失われていく様は本当に心が急速に冷えていった。望〜〜〜〜〜
特に犯人に見つかったところの、希望が完全に失われた眼と捕らわれる身になった絶望感は本当に心臓握られてるような気分になった。原ちゃんのキラキラ笑顔に泥を塗りたくられていくような不快感がお見事。望のシーンは全部泣けます。
◯聡一郎くん
結果的に一番長い間しんどい思いをした人ではなかろうか。最後、少しだけ未来に希望が持てていて本当に本当に良かった。たくさんの後悔を抱えて、沢山苦しんで、死んだように生きていた。主題歌のサビ部分、「毎日夢を見て 毎日目が覚めて 夢と現実の狭間で ぶら下がって足を浮かせたまんま」その他多くの歌詞が深くのしかかるような苦しい日々を過ごしていた。そんな聡一郎くんが少しでも前を向くきっかけになれたのが、曽根と阿久津が事件を追っていった結果だったことは、本当に大きな意味をもたらしていると思う。
◯野木亜紀子/脚本
バッドエンドは書かないという野木さん。本当に見事なラストの未来への描写。
原作が存在するものを脚本にするのはすごく難しいらしいけど、そんなこと全く考えさせないような素晴らしい流れ。矛盾を感じる点が全くないことに驚かされた。予告では象徴的なシーンを継ぎ接ぎしているから違和感があったけど、実際に観てみるとすごく滑らかに繋がっていて感動した。これからももっとこの人が関わった作品を見ていたいと思った。
◯Uru/振り子
Uruさんがコメントされた「今悪い方へ振っているその振り子は、次は必ず光の方角へ振る」という言葉。本当にこれが映画の全てだったと思う。多くの仄暗い罪を抱えながらも、それでも明日の日々に希望を見出していく。罪が消えることも楽になることもない。残酷で、それでも温かい歌詞。初めて曲を聴いた時も鮮烈な歌詞に泣きそうになったけど、劇場で聞くと本当にヤバかった。登場人物一人一人のこれまで、そしてこれからの人生を慰めるように優しく降り掛かる歌声は何とも言えない感動がありました。泣いた。
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