hidekのエンジニアと長話 第10-2回【全文書き起こし】~ゲスト:LayerX 取締役 榎本悠介氏~
stand.fmで配信中の「hidekのエンジニアと長話」10人目のゲストは、LayerX 取締役 榎本悠介さんです。
「hidekのエンジニアと長話」は、メルペイVPoEのhidek(木村秀夫)さんをメインパーソナリティにお招きし、ゲストエンジニアとともに作っていくスペシャルトーク番組です。
第10-2回の今回は、LayerX 取締役 榎本悠介さんをお招きして、マイクロサービスとモノリスや事業につながる研究開発、CTOの苦労などについて語りました。
※本記事は、2021年10月15日にstand.fmで配信を開始した番組を書き起こしたものです。
ゲスト
榎本悠介 氏 @mosa_siru
株式会社LayerX 取締役
メインパーソナリティ
hidek(木村秀夫)氏 @hidek
株式会社メルペイ VPoE(Vice President of Engineering)
パーソナリティアシスタント
gami(池上)氏 @jumpei_ikegami
株式会社プレイド エンジニア
マイクロサービスとモノリス
hidekさん(以下、敬称略):それで、そのあとGunosyに。
榎本さん(以下、敬称略):そうです。
hidek:なんかきっかけとかあったの?
榎本:そうですね。代表の福島、fukkyyが大学時代から知り合いだったんですよね。で、当時、東大からWeb系行く人たちって今ほどそんなに多くなくて。みんな、メーカーに行くとか、とりあえず院に行く、みたいな人が多かったから、学部のころからWeb系行くって結構めずらしくて。そういう人はTwitterで大体友達みたいな感じだったんですよ。その中でfukkyyも友達で。僕ん家でハッカソンしたりとかもあったりして。学生時代に。
hidek:ふーん。
榎本:そういうのでつながってて、ちょいちょいお誘いいただいていて。で、僕としても「次のチャレンジしたいな」ってタイミングが噛み合って移らさせていただいた。で、Gunosyとしてもニュースアプリの、なんだろうな、本当に途中、僕、ひとりでサーバーサイドやってた時期とかもあったりしたので。てっきり、僕、Gunosyアプリとか、アド、広告のところやるかと思いきや、KDDIさんと新しいニュースアプリ作る、ニュースパスっていうアプリがあるんですけど。
hidek:あー。
榎本:そこの立ち上げをやらせていただいて。で、そこで、まさに「マイクロサービスを作れ」ってお達しが出て。「じゃあ見せてやるよ、俺の本気を」って言って10個くらいコンポーネントをひとりで作って(笑)。
hidek:(笑)。
榎本:「知らねーぞ」とか言いながら(笑)。
hidek:「マイクロサービスを作れ」ってお達しって、それ、どういうこと? そんなことあるんですか?
榎本:はい。Gunosyの、ある意味経験から、「逆ブレしすぎた」と言えばいいのかな。
hidek:なるほどね。
榎本:Gunosyが本当にいろいろなユースケースを一個のコンポーネント、モノリスにして、すごく後悔しているみたいな。
hidek:はい。
榎本:特に、なんだろう、「学習して個々人でパーソナライズして記事を届ける」だとか「そのために記事をクローリングする」とか、あらゆるところがひとつのモノリスになっていて。そこをうまく分解したい、みたいなところを言われて。で、当時のCTOの松本さんですね、今、LayerXのCTOでもあるんですけど。で、どっか、インフラの方とか、「絶対マイクロサービスがいい」って言われて、「じゃあわかったよ」って言って作ってすげーことになった、って感じですね(笑)。
hidek:なるほどね(笑)。この番組でも、ちょいちょいマイクロサービスのよさとつらみみたいな話も出てくるんですけど。マイクロサービスって基本的には、なんて言うのかな、組織論とのセット……。
榎本:そうですね。
hidek:なので、ひとりでやるんだったらモノリスの方がいいんじゃないかな、って(笑)。
榎本:思いますよ(笑)。もう、忙しいし、わけわかんなくなってきて、1日に同じコンポーネント2つ作っちゃったときがあって(笑)。
hidek:(笑)。
榎本:「あれ、俺、このコード書いた気がするな」って。「あ、書いてた、俺、今朝、これ」みたいに、もう、わけわかんなくなってるんですよ(笑)。
hidek:(笑)。マイクロサービスって、そんなに新しい思想・設計手法ではなくて。
榎本:うん。
hidek:なるべく機能をわけて、疎かにして、で、メンテナンス性を上げましょう、っていうところ。ざっくり言うと、たぶんそういう話だと思うんだけど。
榎本:うん。
hidek:ゼロから作るときに、あまり、なんていうのかな、マイクロにしすぎて、みたいな話が出てると思うんだけど。ある程度、やっぱり大きいものを作って、そこを「ストラングラーアプリケーションモデル」じゃないけど、切り分けていくっていう方が、なんか、シンプルというか素直というか。
榎本:そうですね。一応、ひとつ気持ちがあるとしたら、ニュースアプリって、ドメインについてはみんなすごく熟知してた、みたいなところ。適切なドメイン境界は間違いなく切れる状態であった、みたいなところは確実にあったかな、とは思ってて。なので、今後のチームのスケールに備える、っていう思いは結構あったのかな、みたいなので。ただ、何ごとにもやりすぎているところがあるよね、みたいな。ですかね(笑)。
hidek:マイクロサービスアーキテクチャって、僕、ベストプラクティスとしてはいいと思うんだけど、結構、トレードオフとして運用の難しさとか。
榎本:そうですね。
hidek:テスタビリティの難しさとか。
榎本:うん。
hidek:その辺があると思うので、何ごともやりすぎはよくないよね、って話だよね(笑)。
榎本:(笑)。なので、最初はモノリスで、ただ、ドメイン境界はコード上、すごく意識して作っておく、みたいな。で、いつでもインターフェースを切り替えれば切り離せるよね、くらいが、やっぱり、いい落としどころかな、とは思いますね。
hidek:プラシスのときも、一番最初のフィーチャーフォン用のやつって、ハーミットってゲートウェイ?
榎本:うん。
hidek:のAPIレイヤーと、あともう一個なんだっけ? なんかありましたよね。
榎本:チャリオットですね。
hidek:チャリオットか。チャリオットってなんだっけ? 全然覚えてねーや(笑)。
榎本:オープンAPIのやつでしたっけ?
hidek:あー。かな? なので、それくらいの大きなドメインで切って、で、そこからさらに分解していく、っていう方が、アプローチとしては、スタートアップとしてもいいんじゃないかな、と思いますね。
榎本:うん。
メルペイの場合
hidek:メルペイの場合は、よく「マイクロサービスネイティブで作りました」っていう言い方をしているんだけど、あれ自体も本当はね、メルカリのモノリスの仕組みから決済の部分を抜き出してから始めているので。ストラングラーアプリケーションモデルの延長ではあるので。「『マイクロサービスネイティブ』って幻想なのかな?」っていう、いまだに思ったりするんですけど。
榎本:はいはい。とはいえ、相当細かくわけてますよね、メルペイ。
hidek:めっちゃわかれてる。今、メルペイで50は超えてるね。
榎本:ひえー! 1チーム……。1コンポーネント10人以下とかで、って感じですか?
hidek:持ち方を、メンテナンスとか運用とかやらなきゃいけないので、オンコールとかやらなきゃいけないので、1チームで、たとえば「5人で3つ持つ」とかそんなイメージ。
榎本:5人で3つ。3コンポーネント?
hidek:そう。コンポーネント。マイクロサービス。イメージね。そういうイメージ。
榎本:結構細いですね。えー。
hidek:それくらい。だから、チームめっちゃある。
榎本:うーん。
hidek:ただ、結構ドメインはしっかりわかれてて。
榎本:はいはい。
hidek:たとえば、本当に決済ど真ん中のところで、それでも4つくらいかな。いわゆる「残高を扱うところ」と「トランザクションを扱うところ」と「履歴・ヒストリーみたいなのを残すところ」みたいな。ざっくり言うとそんな感じになってて。で、それ以外のところだと、僕らクレジットスコアみたいなところをやっているので、そこはそこで別のコンポーネントで、そこもいくつかわかれてる、みたいな。
榎本:はいはい。
hidek:フィンテックって言っても、結構事業ドメインが広いから、結果、増えちゃいました、って感じかな。
榎本:たしかに。トランザクション境界やばそうですね。特に決済になると。
hidek:そうなんだよ。なんだけど、そこも、結構ベストプラクティスはできてて。ステートマシンでちゃんと管理する。
榎本:はい。
hidek:みたいなところは、アーキテクトの人は、一応、最初に作ってくれてて。基本的にはそのフレームワークでやっていく。やっぱり、べき等性の担保をしなきゃいけないので、それを各リアルタイムでやる、っていうよりは、べき等性を担保できる仕組みっていうのをやっていく、っていう感じかな。設計思想としては。
榎本:結果、整合的になっている?
hidek:そうそう。っていうのは、設計思想としてはあるかな。
榎本:はいはい。
hidek:マイクロサービスって、結構難しいよね。
榎本:難しいです。
hidek:(笑)。
認証・認可のドメインは切るのが鉄則
榎本:結局、なんだかんだで今も、今のLayerXとインボイス・ワークフローって2プロダクト持ってて、そこは別のコンポーネントでやっていて。
hidek:はい。
榎本:で、ただ、裏側でデータ連携あるけど別のコンポーネントにしちゃってて、自分の首を絞めてる、みたいなところがあったりしますね。
hidek:あー。データベースも全部バラバラにしてるんだ?
榎本:ふたつわけてますね。
hidek:なるほどね。
榎本:結構、いやー、すごく悩ましい決断でした。そこも。で、かつ、認証基盤もさらに切り出してわけてて。
hidek:はいはい。
榎本:っていう3コンポーネントでやってて。モノリスにしても良かったし、ただ、実際触るチームは全然別なんだよな、みたいな。そのふたつを。
hidek:それくらいのレイヤーだったら、ドメインだったら、わけてもいいんじゃないかな。
榎本:うん。ただ、ワークフローで申請した情報がインボイスプロダクトに入ってくる、みたいなところを、データのコピー、マスタースレーブ的にコピーしてて、今。「おいおい」みたいな気持ちにもなったりする、みたいな感じです。いやー。
hidek:なるほど。なんかデータプラットフォーム的なところはレイヤーはないんだ?
榎本:そうですね。今は、結果、整合的にワーカーに連携して、それがデータのコピーみたいなの作って、みたいな。っていう単純な仕組みですね。
hidek:認証・認可だけは、僕は、ドメイン切る、っていうのは、もう、これ結構鉄則だな、って。
榎本:うんうん。
hidek:特に、LayerXみたいにいろいろ、このあとも似たような、似たようなっていうか、この領域でサービスを増やしていくじゃないですか?
榎本:うん。
hidek:そうすると、そこの認証・認可っていうのは、一方でわけておく、っていうのはすごく合理的だし。メルカリも今はそういう風な流れだし。
榎本:うん。結構、周りのSaaSとか見てると、最初はモノリスだけど「やっぱりわけたい」みたい気持ちが強いのかな、っていうのは見えますねー。
hidek:悩ましいのが、最初モノリスで作るのは全然いいんだけど、認証・認可とIDプラットフォームと、あと決済のところは、個人的には、そこはわけておくのがなんかいい気がする。
榎本:はいはい。うんうん。
hidek:大体、そこのマイクロサービス化でみんな詰んでる気がするんで。モバゲーもそうだったじゃないですか?(笑)
榎本:(笑)。freeeさんとかマネフォさんとか、各サービスでログアウトしたときの動きとか、やっぱり微妙にちげーな、みたいな。とかあったりしますね。
hidek:そうそう。あの辺の振る舞いを見てると、やっぱりそこは……。しかも、決済のところはいろいろあるかもしれないけど、認証・認可のところって、ちゃんとベストプラクティスとしてOIDCみたいなものがあるじゃないですか?
榎本:うんうん。
hidek:だから、ああいうのを使えばいいと思うし。そういうなんかあれば、自分の中で作っていく、っていうのは、別にしておく、っていうのは、すごく合理的だなと思います。
榎本:うん。いやー、認証・認可、結構いろいろ、巨人の方に乗れるかな、と思って調べたんですけど。CognitoとかAuth0とか、いろいろ調べた結果、いろいろあって自前認証にしましたね(笑)。
hidek:そうなんだ。へー。Auth0とか、結構、今、使っているところ多いし、使いやすそうなイメージありますけど。
榎本:ディスりとかじゃ全くないですけど、マルチテナントSaaSに使うには、少し、「そんなに楽なんだっけ?」って気持ちになる局面が多かった。
hidek:あー、そうなんだ。
榎本:とか。そうですね。あとは、料金的にもSAMLとかを入れると……。で、SaaSの場合、各企業ごとにSAMLを入れる必要があって。
hidek:あー、そっか。
榎本:で、「1SAMLいくら」みたいな話になると、「おうおうおう」みたいな気持ちになったりとか。
hidek:toBだと、そっか。そこがあるのか。
榎本:そうなんですよ。
hidek:なるほど。
榎本:全然、マルチテナントSaaSで使われている事例もありますから、全然、使うのもありだとは思いますけど。僕らの場合は、一旦、自前で作るか、って決断をしましたね。
hidek:で、その最初の設計時に、認証基盤っていうのは、ドメインをわけて?
榎本:わけてます、最初から。うん。
LayerX立ち上げ当初の話
hidek:それは賢明ですね。なるほどなるほど。そんなこんなで、GunosyからこのLayerXというものを立ち上げていくわけですけど。
榎本:はい。
hidek:もともとR&D的なものをGunosyでやってたり、って感じですかね?
榎本:そうですね。新規事業をGunosyでやって、そこから、本当に次の収益の柱、「Gunosy、ニュースパスに続く柱はなんだ」みたいなので、fukkyyとか松本さんとかで話した感じ、なんか「ブロックチェーンじゃね?」みたいな話になり(笑)。
hidek:うん。
榎本:最初、「ブロックチェーンで事業作ろう。でも、何やるかはちょっとわかんないね」みたいな状態から(笑)。「とりあえずチームを組成するぞ」みたいなので、僕が切り込み隊長として選ばれて。で、何やるかわからないけど、「とりあえずブロックチェーンの採用力とか発信力とかを国内随一にしよう」というので、研究開発チームを立ち上げて、ひたすらマニアックなところを調べてブログで発信する、みたいなのから始めて。で、そこから結構レピュテーションが溜まっていって、そこから採用につながったりだとか。あとは事業の方向も見えてきて。最初はマイニングだったんですよね。
hidek:そうなんだ。
榎本:最初、Gunosyのころやってたのは、まさに「電気代の安いところを見つける旅に出る」みたいな。僕がモンゴルとかロシアに飛んで、よくわかんないけど「電気代安いところねーかな」って探す、みたいなのをやってたりとかしてて(笑)。
hidek:そうなんだー(笑)。
榎本:めちゃくちゃでしたね(笑)。
hidek:Gunosyってね、やっぱり、サービスレイヤー・アプリケーションレイヤーのところなので、逆にブロックチェーンを「使って」何かを考えているのかと思ったら、まさかのマイニング(笑)。
榎本:そうなんですよ(笑)。一番ブロックチェーンの上流をおさえる、みたいな思想が、当時はあったりとかしたり。異様な儲けを出しているところもあったりとかして。マイニング事業で。
hidek:はいはい。でも、LayerX立ち上げのときっていうのは、その事業の柱っていうのは、ブロックチェーンコンサルみたいな話じゃなかったっけ?
榎本:そうですね。マイニングは、もろもろあって撤退して。最初は、いくつかあったんですけど、そのうち一個は「監査」っていうのをやってて。
hidek:はいはい。
榎本:スマートコントラクトっていう、ブロックチェーン上で動くプログラムって、一回デプロイ・リリースしちゃうと、改ざん・変更ができない、みたいな特性があるので、事前にバグがないかめちゃくちゃチェックする。バグがあると本当に取り返しがつかないので、「そこをチェックします」みたいな事業をやろうとしたりとかして。あとは、まさにコンサルティング的に、インドのブロックチェーンプロジェクトを手伝う、みたいなことをやっていたりした時期もあったし。で、最終的にはSTOっていうところにたどり着いて。Security Token Offeringsですね。証券をブロックチェーンで乗せて管理しよう、みたいな。で、そうすると配当とかもプログラム的に扱えるし、移転もプログラム的に扱えるし、譲渡制限みたいな、法律じゃなくてプログラム、プログラマブルに制御できるからいいことしかないじゃん、みたいな。
hidek:うん。
榎本:誰から見ても、誰がトークンを持っているか、誰がその権利を持っているか一目瞭然だし最高じゃん、みたいな。で、三菱UFJ信託銀行さんと一緒にプロジェクトをがっつり進めさせていただいたりしたときもあったし。あとは、三井物産さんとジョイントベンチャーを作って。今だと、アセットマネジメントのファンド運営のDX、っていう形にもしていたんですけど。結構、STOの文脈で、そういった取り組みが始まったりとかで。結構いろいろな事業を試したんですね、ブロックチェーンで。マイニングから監査。で、コンサル。で、最終的には証券周り、みたいなところにたどり着いた、って感じですね。ブロックチェーン事業については。
事業につながる研究開発
hidek:うんうん。その研究開発っていうか、なんだろう、ともすれば「研究すること」が目的になりがちじゃないですか?
榎本:うん。
hidek:なので、R&Dを嫌がるところって、結構あるはあると思ってるんだけど。ただ、それを事業価値につなげるのって、結構、意識的にやらないと、つい、うっかり「ひたすら研究しています」っていうところになりがちなんだけど。結構、mosa、昔から、ちゃんと「使われるもの」っていうところを意識していると思うんだけど。その辺、何か事業的に、ちゃんと事業につなげるために意識していること、なんかあったりします?
榎本:そうですね。今、ブロックチェーンのこと全然やってないですけど、LayerXで。当時は、意図的にふたつに会社を分割していて。
hidek:うんうん。
榎本:研究開発をひたすらやるチーム。短期的な売り上げとか一切考えなくてよくて、本当に数年後につながる研究をすればいいよ、っていう。本当に長期的に会社のレピュテーションを溜めればいいし、業界にコントリビュートだけしてればいいよ、っていうチームと。あとは、本当に短期的にでも売り上げを作っていくチーム、っていうふたつにわけていて。で、そこが、両輪がうまく回る、っていうのを意識していましたね。
hidek:なるほどね。
榎本:「生の課題」みたいなところを事業部、事業を作るところが吸い上げて、それをR&Dチームに「こういう課題がありそう」って話して。で、逆にR&Dチームが、そこを意識しつつ、ウオって溜めた知見を、また、事業部側にフィードバックして、みたいな。そういうのが回るのを意識して作っていました。
hidek:ちょっと意地悪な質問になっちゃうかもしれないんだけど、そういったときに、エンジニアの立場からすると、それこそ「あいつら研究ばっか、好きなことやってていいな」っていうのだとか、逆に「なんで、これ、俺ら、研究の、使えるものなのに、なんでお前ら使わんのや!」みたいな。結構対立構造になることって、まあまあ聞くんですよ。
榎本:あー。
hidek:特に大企業だとありがちなんですけど。一般論としてね。
榎本:はい。
hidek:そういうところって、そういう軋轢とかって苦しんだりとかしたのかな?
榎本:いや、全くなかったですね。
hidek:なかったんだ。
榎本:組織が小さかった、10人とか、20人もいない、みたいなチームだった、っていうのも大きいと思うんですけど。本当に、お互いにリスペクトしていましたね。「あいつらマジで頭いいな、なんなの」みたいな話と「ぜひ、自分たちの研究が実社会に使われてほしいな」って思う2チームと、みたいな形で。すごくいい関係でやれていましたね。
hidek:採用とかって難しそうじゃない?
榎本:採用は、おっしゃるとおりで(笑)。
hidek:そういうR&D部隊の採用も、それはそれで難しいと思うし。
榎本:うん。
hidek:というか、そっちかな。それって結構難しくないですか?
榎本:そうですね。R&Dの採用はめちゃくちゃ難しかったですね(笑)。そもそも、「ブロックチェーンに興味がある」って時点で、母数が死ぬほど限られていた、みたいなところがあったり。
hidek:そうなんですよ。
榎本:うん。その中で、純粋に技術に向き合える、言うなれば「論文をスラスラ読める」みたいな人たちじゃないと結構しんどいし。論文を読むだけじゃなくて、「グローバルに使われているプロダクト・コードを普通に読むよね」みたいな人とか、っていう人たちの採用は結構苦労して。
hidek:うん。
榎本:ただ、あんまり人をたくさんやればうまくいくか、っていうと、そういう分野でもないので、割とそこは少数精鋭の組織でやってた、みたいなところですね。
CTOの苦労
hidek:なるほど。その中で、今、mosa、CTOになったんだよね?
榎本:そうですね。最初、3年間、CTOでしたね。
hidek:へー。CTOって大変でしょ?(笑)
榎本:そうですね。っていうか、「最初の自己紹介で言えよ」って感じですけど(笑)。
hidek:(笑)。
榎本:CTOは大変でしたね(笑)。
hidek:僕、結構、CTOと仕事をするのがずっと続いていて。DeNAのときも、川崎さんっていうCTO的な人がいて、彼のできないところをやる、みたいな。
榎本:うん。
hidek:で、今も曾川さんって人がいて、彼ができないところをやる、みたいな。結構、役割分担をしているんだけど。小さい組織だと、CTOが全部やらなきゃいけないところもあったりとかして。
榎本:うん。
hidek:結構大変そう、っていう(笑)。
榎本:まさに、さっき話した、いろいろな事業の切り込み隊長をやりつつ、採用や広報につながる話をしつつ、社内にポコポコあるプロジェクトのリソース配分をしつつ、みたいな。で、経営的な話も考えつつ、みたいなのをずっとやっていましたね(笑)。
hidek:小さい組織のCTOって、よくも悪くも「なんでも屋」さんのような。
榎本:そうですね(笑)。でも、組織が大きくなっていくにつれて役割も変わっていったな、と思っていて。
hidek:変わっていくよね。
榎本:うん。自分のやっていた役割を、そのまま委譲できる人が採用できるようになっていって、みたいな。
hidek:うんうん。
榎本:まさに、石黒さんが来たときとかは、採用とか、すごく、採用・広報周りが、負担が、ある意味減ったりだとか。うん。ですね。今は、まさにCTOを松本勇気さんにお渡しして、で、「LayerX インボイス」ワークフローを作ってるDX事業部に死ぬほど専念させてもらってる、って感じですね。
hidek:時間軸で言うと、松本さんが来て、で、例の福島さんのnoteの「ブロックチェーンの会社じゃないです」っていう……。時間軸で言うと、そういう順番ですよね?
榎本:そうですそうです。今年の3月に松本さんがこちらに来てCTOに就任して。で、fukkyyが、あのnote、8月くらいかな、に出した、みたいな感じです。
hidek:それって、どこまで話せるかわかんないんだけど、松本さんが来た、っていうのは結構大きかったんですか? それともあまり関係ない?
榎本:意思決定において、って感じですか?
hidek:そうそう。
榎本:そこは割りと独立していますね。
hidek:そうなんだ。じゃあ、松本さんが来る前から、そういう事業の転換の方向性みたいなのは、もうついてて?
榎本:そうです。去年の8月の経営会議・ボードミーティングで決めた、って形ですね、それは。
hidek:なるほどね。それに対して、じゃあ、松本さんが共感してくれてジョインした形?
榎本:そうですね。
hidek:そうなんだ。へー。なるほどね。僕、松本さんとも話す機会がちょこちょこあるんだけど。彼もすごく幅広というか(笑)。
榎本:うん。
hidek:僕の知っているCTOの中で一番幅広かな? 組織設計もやるし、技術開発もやるし、R&Dもやるし。めちゃめちゃ幅広ですよね。
榎本:興味と関心が死ぬほど広いですね。
hidek:いやー。たまにいますよね、そういう人って。
榎本:核融合のこと話したら止まらないし、みたいな(笑)。
hidek:わかるわかる。僕が知ってる中で、Oku Kazuhoさん。
榎本:はいはい。
hidek:あの人はそんな感じなんだよね。あの人はマネジメント、絶対やらないけど。たぶん、やったらできるんじゃないかなー。それこそ「歴史の話をしたら止まらない」だとか、経済とか、「政治の話が止まらない」とか。なんかすごいよね。
榎本:うん。
hidek:なるほどなるほど。で、今、LeyerX。それこそ、さっき、ちょこっと話が出たんですけど、福島さんね。あれ、でも、今、話を聞いてると、1年前からLayerX インボイスってところで、「改めて」ってところ……。
榎本:そうですそうです。
hidek:あのタイミングで発信したのって、なんか狙いとかあったんですか?
榎本:いや、「なんでこんなに印象が変えられないんだろう?」って話をしていて(笑)。
hidek:あ、そういうことか。
榎本:僕らも1年前から、SaaSとかフィンテックとか、あと、研究開発のチームはまだあって、ただ、そこはブロックチェーンはほぼやってないんですけど。っていう3事業ですね、にわかれて1年前から動いてるんですけど、「全然、社会の認知、変わんねーな」みたいな、「LayerXってブロックチェーンでしょ」みたいなところの認知が全然変えられなくて。で、採用とかも、普通のWebエンジニアが採りたいのに全然来てくれない、みたいな。「僕が行くところじゃないんでしょ」って思われちゃう、みたいな。
hidek:はいはい。
榎本:ので、結構、抜本的に変える必要があるね、っていうので。で、ちょっと難しいところで、「ブロックチェーンを100%使ってないか」で言うと一部使っている場所もあった、みたいなところもあったりして。
hidek:うんうん。
榎本:「本当に言い切っていいのか」っていう葛藤もありつつ、「でも、この採用環境とかを考えたら言い切らざるを得ないよね」っていうので、あのタイミングで出したら、思った以上にすごくみんな読んでくれて、よかったー、みたいな感じですね。
hidek:たぶん、うちのメルペイのCEOの青柳さんかな、かなんかがちらっとツイートしたんだけど、結構、中に対するフェアネスみたいなところも、改めて発信することによって、中に対する発信みたいなところも狙っていたりとかもしたの? あんまりそんなことはない?
榎本:社内向けに、の整理として、って感じですか?
hidek:改めて、っていう。
榎本:でも、どうなんだろう。すでにもう浸透はしていましたね、完全に。
hidek:そうなんだ。
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