
FIEAとPSAの概要と暗号資産における役割
この記事はDeep Researchをもとに作成しました。
1 概要
1 資金決済法(PSA)
決済システムの安全性・利便性向上を目的とする法律で、2017年の改正より暗号資産(当時は「仮想通貨」)を制度上認め、暗号資産交換業者の登録制など最低限の規制を導入しました
2 金融商品取引法(FIEA)
有価証券やデリバティブ取引などを規制する投資者保護のための包括的な法律です。
2019年の改正(2020年施行)で暗号資産に関連する一定の権利を**「電子記録移転権利(ERTR)」として有価証券の範疇に含め、暗号資産デリバティブ取引も規制対象に組み込みました。
2 各法律の適用範囲とその違い
1 PSAの適用範囲
PSAは主に「暗号資産」と「暗号資産交換業」を定義し規制します。
暗号資産の定義は「不特定の者に対して代価の弁済に使用でき、かつ不特定の者相互間で売買可能な財産的価値(日本円や外貨、電子マネー等を除く)で電子的に記録・移転できるもの」および「前記と相互に交換できる財産的価値」とされています。
2 FIEAの適用範囲
FIEAは、有価証券や金融商品取引全般に適用される包括法です。
暗号資産に関して言えば、証券的性質を持つトークンや暗号資産デリバティブ取引がその範疇に入ります。
2019年の法改正によって導入された「電子記録移転権利(ERTR)」とは、電子的に記録・移転される有価証券表示権利のことで、ブロックチェーン上のセキュリティトークン(株式、債券、集団投資スキーム持分などをトークン化したもの)がこれに該当します。
3 適用範囲の違いと重なり
PSAとFIEAは管轄や目的が異なるため、同じ暗号資産でもその機能によって適用法が変わります。
例えばビットコインやイーサリアムは支払い・交換手段として機能する暗号資産(PSA対象)であり、有価証券ではありません
3 暗号資産取引所や発行者に求められる規制要件
1 暗号資産交換業者(取引所)への規制要件
暗号資産の売買や保管サービスを提供する事業者は、PSAに基づき金融庁(財務局)への登録を受けた「暗号資産交換業者」として運営する必要があります
2 暗号資産の発行者(トークン発行体)への規制要件
暗号資産を発行(販売)して資金調達を図るケースとしては、大きくICO(イニシャル・コイン・オファリング)とSTO(セキュリティ・トークン・オファリング)に分けられます。
それぞれ性質が異なり、適用法令や発行体の守るべき規制も異なります。
2ー1 ICOトークン発行者
ICOとはブロックチェーン上で新規トークンを発行し、投資家から資金を募る手法です。
日本にはICO専用の法律はありませんが、発行されるトークンの性質に応じて既存のPSAまたはFIEAが適用されます
2ー2 STOトークン発行者
STOはトークンによる証券(セキュリティ)の発行形態であり、発行されるトークンは前述のERTRすなわち電子記録移転権利=有価証券に該当します
2ー3 ステーブルコイン発行者
発行体という観点では、法定通貨建てのステーブルコインについて近年新たな規制が整備されました。
2022年改正PSA(2023年施行)により、法定通貨建てのデジタル価値(EPI)の発行は銀行・信託会社・資金移動業者等の限られた業者にのみ許可されることが明確化されました。
2ー4 その他トークン発行者
上記以外にも、ゲーム内通貨やポイントのように発行者自身のサービス内のみで使えるトークンは「前払式支払手段」(プリペイドカード等)としてPSAの別規制が及ぶ場合があります。
4 STOやICOとの関係
1 ICOと法律の関係
ICO(Initial Coin Offering)は新規トークンの公開販売ですが、日本ではその法的扱いはトークンの性質次第です。
前述の通り、ICOで発行されるトークンが暗号資産(PSA上の定義を満たすもの)であれば、それ自体は有価証券ではないためFIEAの規制(有価証券届出書の提出等)は及びません。
2 STOと法律の関係
STO(Security Token Offering)は伝統的な証券のトークン化による発行です。
日本はこの分野で比較的早く制度整備を行い、2019年改正FIEAでセキュリティトークンを明確に規定しました。
3 JVCEAとJSTOAの役割
先述の通り、日本では業界の自主規制も重要な位置を占めています。
JVCEA(日本暗号資産取引業協会)は暗号資産交換業全般(ICO含む)の健全化に取り組んでいます。
JSTOA(日本STO協会)はセキュリティトークン市場の透明性向上に努めています。
5 DeFiやNFTへの影響
1 DeFi(分散型金融)への影響
DeFiとはブロックチェーン上で中央管理者を置かずに金融取引を行う仕組みです。
2 NFT(非代替性トークン)への影響
NFTは固有の価値や権利を表象するブロックチェーン上の唯一無二のトークンです。
日本の法律にNFTの定義規定はありませんが、その性質上、一般的なNFTはPSAの「暗号資産」にもFIEAの「有価証券」にも該当しないと解されています。
6 最新の法改正や政府の方針
1 2019~2020年の法改正(暗号資産規制の強化)
2018年のコインチェック事件など巨額流出事故を受け、暗号資産規制は大きく見直されました。
2 2022~2023年の法改正(ステーブルコイン法制の整備)
最近のトピックとして、ステーブルコインに関する世界初の包括的法制度が日本で整備されました。
3 税制・ビジネス環境の改善
日本の暗号資産産業育成のため、税制面の見直しも進んでいます。
暗号資産の個人利用については依然「雑所得」として総合課税(最大55%)の範疇ですが、法人税務面では2023年度税制改正で発行企業が自社発行トークンを保有する場合の期末時価評価課税を緩和(一定要件下で除外)する措置が講じられました。
4 政府のWeb3推進方針
日本政府は近年、暗号資産を含むブロックチェーン領域(いわゆる「Web3」領域)を経済成長戦略の柱の一つに掲げています。
5 最新の動向
2023年末から2024年にかけても、暗号資産を取り巻く政策・制度はアップデートが続いています。
金融庁は国内暗号資産交換業者による新規トークンの上場手続き簡略化を容認し、市場における新規銘柄流通の円滑化を支援しました(従来はJVCEAの審査に時間がかかっていたが、グリーンリスト制度の活用等で迅速化)。
また、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の実証実験が日本銀行で進行しており、民間のデジタル通貨との棲み分けも議論されています。
国際的にはFATFによるトラベルルールの遵守強化要請や、各国のMiCA(EU規制)動向などがあり、日本もそれらに対応すべく2023年10月には改正犯収法を国会可決し、暗号資産移転時の情報通知義務の法制化を行いました。
まとめると、日本の暗号資産規制はPSAとFIEAを両輪として、決済利用と投資利用の双方に目配りした包括的な枠組みとなっています。
近年は大規模ハッキング事件への対応や国際基準の取り入れによってユーザー保護・不正対策が一層強化される一方で、Web3時代に向けた制度整備や産業促進のための規制緩和も進められています。
暗号資産交換業者や発行体は高いコンプライアンスが要求されますが、その分日本市場は世界的にも法的安定性が高いと評価されており、今後もこのバランスの上で制度改正が続いていくでしょう。
規制当局は「イノベーション促進と投資者保護の両立」を掲げており、STOやDeFi、NFTなど新領域にも目を配りつつ、最新の方針では暗号資産を日本経済の新たな成長分野として育成していく姿勢が鮮明です。
References:
【1】グローバルリーガルインサイト『Blockchain & Cryptocurrency Laws and Regulations 2025 – Japan』政府の姿勢に関する記述(2025年版)
【2】同上『Definitions(定義)』における暗号資産と有価証券の関係に関する記述
【3】同上『Crypto Asset Exchange Services(暗号資産交換業)』定義に関する記述
【4】同上『Legal status of tokens(トークンの法的地位)』各種トークンの規制区分(Crypto Asset, EPI, Security Token, NFT)に関する記述
【5】金融庁パブリックコメント資料「Regulating the crypto assets landscape in Japan」(2022年12月)暗号資産規制の枠組み概要
【6】トムソン・ロイター『Cryptocurrency regulations by country – Japan』(2022年版)PSAとFIEAの役割分担に関する記述
【7】小西法律事務所コラム「暗号資産交換業者に対する資金決済法の規制について」(2023年9月)暗号資産交換業者の登録制・利用者保護策に関する解説
【8】グローバルリーガルインサイト『Blockchain & Cryptocurrency Laws and Regulations 2025 – Japan』ICO規制(JVCEAルール)に関する記述
【9】同上STO(ERTR・有価証券)に関する記述
【10】Chambers Fintech 2024 – JapanレポートよりNFTの規制適用可能性に関する言及
【11】金融庁FinTech Innovation Hub報告書(2021年7月)におけるDeFiに関する見解
【12】グローバルリーガルインサイト『Blockchain & Cryptocurrency Laws and Regulations 2025 – Japan』安定的な決済システムの構築に関する改正法(ステーブルコイン法制)記述
【13】同上NFTの法的整理に関する最新の言及
7 理解度チェック
【問題1】
日本において、暗号資産の現物取引を規制する法律は「____」である。
【解答】 資金決済法(PSA)
【解説】 資金決済法は、暗号資産の定義や交換業者の登録など、暗号資産の現物取引に関する最低限の規制を定めています。
【問題2】
暗号資産の証券的性質を有する場合、取引等は「____」の適用を受ける。
【解答】 金融商品取引法(FIEA)
【解説】 FIEAは、有価証券やデリバティブ取引など投資商品としての側面がある場合に適用され、セキュリティトークンなどが対象となります。
【問題3】
PSAにおいて、暗号資産は「法定通貨ではなく、電子的に記録・移転できる____」と定義される。
【解答】 財産的価値
【解説】 暗号資産は、法定通貨に裏打ちされないものの、財産的価値を持ち電子的に取引可能な資産として位置づけられています。
【問題4】
暗号資産交換業者は、金融庁に____を受ける必要がある。
【解答】 登録
【解説】 日本では、暗号資産の売買や保管サービスを提供する業者は、PSAに基づき金融庁への登録を必須とされています。
【問題5】
暗号資産に関連するデリバティブ取引は、主に「____」の規制対象となる。
【解答】 金融商品取引法(FIEA)
【解説】 暗号資産を原資産とした先物取引や差金決済取引は、投資商品としてFIEAの規制対象になります。
【問題6】
FIEAの改正により導入された、電子的に記録・移転される有価証券表示権利は「____」と呼ばれる。
【解答】 電子記録移転権利(ERTR)
【解説】 ERTRは、ブロックチェーン上で発行されるセキュリティトークンが有価証券として認定されるための仕組みです。
【問題7】
PSAでは、法定通貨建ての価値を持つトークンは「____」として区分される。
【解答】 電子決済手段(EPI)
【解説】 2022年改正以降、法定通貨に連動するステーブルコインは、暗号資産とは別に電子決済手段として扱われます。
【問題8】
暗号資産交換業者は、利用者の資産を守るため、預かり資産の____管理が義務付けられている。
【解答】 分別
【解説】 利用者資産と自己資産を分別管理することで、業者破綻時に利用者が保護される仕組みが確立されています。
【問題9】
ICOにおいて、発行されるトークンが単なるユーティリティトークンの場合、基本的にはPSAの対象となるが、直接FIEAの規制は____。
【解答】 及ばない
【解説】 ユーティリティトークンは投資契約的な性質がないため、FIEAの有価証券規制の対象とはなりません。
【問題10】
STOは、証券発行の一形態であり、発行されるトークンは____として扱われる。
【解答】 有価証券
【解説】 セキュリティトークンは、証券的性質を持つためFIEA上で有価証券として規制されます。
【問題11】
暗号資産交換業者は、AML/CFT対策として、厳格な____の実施が求められる。
【解答】 本人確認(KYC)
【解説】 マネーロンダリング対策の一環として、利用者の本人確認手続き(KYC)は重要な義務事項です。
【問題12】
JVCEAは、日本における暗号資産交換業者の____を促進するための自主規制団体である。
【解答】 自主規制
【解説】 JVCEAは、業界の健全な運営と利用者保護のために自主規制ルールを策定しています。
【問題13】
暗号資産の性質によって、決済手段としての側面はPSA、投資商品としての側面は____で規制される。
【解答】 FIEA
【解説】 この役割分担により、同じ暗号資産でも利用目的に応じた法律の適用が分かれます。
【問題14】
DeFiのプロトコル自体は中央の管理者が不在であるため、現行法では直接____が難しい。
【解答】 規制適用
【解説】 分散型金融は管理主体が存在しないため、既存の規制枠組み(PSA・FIEA)の適用対象になりにくい状況です。
【問題15】
一般的なNFTは、支払手段としての機能がなく、FIEA上での有価証券にも該当しないため、金融規制の対象____。
【解答】 外
【解説】 NFTは独自の性質を持ち、通常の暗号資産や証券の枠組みには含まれず、規制対象外とされる場合が多いです。
【問題16】
2022年改正PSAでは、ステーブルコインの発行主体として、銀行・信託会社・____等が定められている。
【解答】 資金移動業者
【解説】 発行主体が限定されることで、発行されるステーブルコインの安全性と信頼性が確保されます。
【問題17】
STOの実施に際し、発行体が自前で多数の一般投資家に売り込む場合、原則として第二種金融商品取引業の____が必要となる。
【解答】 登録
【解説】 一般投資家向けに証券的なトークンを販売する場合、発行体はFIEA上で適切な登録が求められます。
【問題18】
ICOの場合、国内でトークンを販売する際、発行体は既存の登録済み____を介することが一般的である。
【解答】 暗号資産交換業者
【解説】 発行体が直接取引を行うと交換業登録が必要となるため、登録済みの交換業者を通して行われることが多いです。
【問題19】
金融庁は、暗号資産分野における投資者保護と市場の透明性確保のため、従来の法令に加え、業界団体との____を進めている。
【解答】 協働
【解説】 政府とJVCEA、JSTOAなどの自主規制団体との連携により、規制体制の強化と市場の健全化が図られています。
【問題20】
政府は、Web3時代の産業育成のため、NFTや暗号資産関連の制度整備と____の両立を目指している。
【解答】 イノベーション促進
【解説】 投資者保護とともに、産業の発展や技術革新を推進するため、規制とイノベーション促進のバランスが重要視されています。
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