クロザピンという選択肢
私はクロザピンを実際に使ったことはない。そのため今回の記事は自分の経験に基づくものではなく、完全に知識に基づくものである。しかし非常に重要な選択肢のため紹介する。
統合失調症に対し薬物治療を行っても、良くならないことは時々ある。そんなときにどうしたら良いか?
クロザピン(クロザリル)を使うことは有力な選択肢の一つである。
クロザピンを検討したほうがよいとき
クロザピンを使うことを検討したほうがよいときには、治療抵抗性のときである。簡単に言えば2種類以上の抗精神病薬を十分量・十分期間使用しても良くならないときである。
具体的には、
・2種類以上で、クロルプロマジン換算値で600mg以上を4週間以上使用しても改善が不十分
・少なくとも片方は新規抗精神病薬(非定型抗精神病薬)
・常にGAFが40点以下(≒家でボーと過ごすのが精一杯レベル)
統合失調症の10-30%(約8-24万人)が治療抵抗性と言われており、クロザピン先進国の処方率は25-30%程度なのに対して日本ではまだ0.6%程度(村崎光邦 臨床精神薬理2018)とまだまだ低く、今後 積極的に使用されるようになるべきである。
治療抵抗性の場合は、他の抗精神病薬を併用したり気分安定薬などを併用したりするより、クロザピン(クロザリル)に変更するか、mECT(修正型電気けいれん療法)をするのが良い。また副作用が強く十分量の抗精神病薬を使えないときにもクロザピンの対象となりえるものの、その話は後日改めてしたい。
クロザピンのメリットとデメリット
クロザピンは(ノバルティスファーマDR's Netによる、適時改変)
・100か国以上で使用されている(2015年8月時)
・治療抵抗性でも60%前後の人は改善する
製造販売後調査でも 著明改善22%、中等度改善34%、軽度改善27%、悪化17%と非常に良好な成績である
・2年後70%以上が継続している
頻繁な採血など制限が大きいものの、満足し継続する人が多い
・重大な副作用が出ることがある
無顆粒球症(白血球が減る)1%
血糖値が急激に高くなる12%
・軽度の副作用はある
流涎、便秘、眠気、発熱など
発熱は9%とやや高いものの、それ以外は他の抗精神病薬(特に低力価)と大きな差は無
・入院し定期的な採血などの身体的チェックをする
基本的に18週間入院(例外あり)、6か月間は1週間に1回採血、その後も頻繁に採血
・条件が厳しく治療できる病院が限られている
クロザピンが使えない病院
現在 私が勤めている病院ではクロザピンが使えない。そのためクロザピンを使用するためには転院が必要で、説明してもクロザピンを希望する人はあまりいない。
人によっては、「『ここではもう面倒見れません』と言うことですか?」「『転院しろ』と言うことですか?」と不安がらせてしまうこともある。
しかし治療抵抗性の統合失調症の人に対して、特に今後の治療歴が長い若い人に対してはクロザピンによる治療という選択肢は、プロとして説明するべきだと思っている。説明しその上で治療を受ける・受けないという選択をすることが望ましい。しかし意外とクロザピンについては聞いたことがない人が多いので、是非 知っておいて欲しい。
ただ現時点ではクロザピンが効果があった人は、そのままその病院で治療を続けるしかないので、私が見ることができず、良くなった姿を見れないのは残念である。
クロザピンが使える病院は以下を参照してほしい。ただしクロザピンは主治医からの治療歴に対する紹介状が必ず必要なので、必ず主治医に相談をする必要がある。