ゲノム編集(1/n) 技術概覧

ゲノム編集とは

最近話題に上ることもあるゲノム編集。
特に昨年末には中国でゲノム編集技術を使われた双子の出産が話題でしたね。
しかし「つーかゲノム編集って何?」って思う方もいらっしゃるでしょう。
ゲノム編集とは遺伝子を操作する技術のひとつです。

なぜ注目されているのか

遺伝子操作技術というと何を思い浮かべますか?
大豆やトウモロコシの遺伝子組み換え表記とかでしょうか。
もちろんそれらも遺伝子操作技術のひとつです。
しかし遺伝子を操作しようとする試みは太古にまでさかのぼります。
なぜなら品種改良という行為は遺伝子操作技術であるからです。
より好ましい品種、つまりより好ましい遺伝子を持った品種をかけ合わせることでさらに好ましい遺伝子を持った品種を得る行為、それこそが品種改良なのです。
ひるがえって遺伝子操作技術のひとつであるゲノム編集とは、この品種改良を高速・高効率的に行う技術です。

そもそもなんで同じ種の生物なのにより好ましいものとそうでないものが生じるのか。
それが遺伝子が違うということです。
自然界では遺伝子は一定確率でブレが生じ、その上振れ下振れによって個体差が生じるのです。このブレを専門用語的には変異ともいいます。
ゲノム編集技術はこのブレを操作しようとする技術です。

遺伝子のブレ(個体差)を操作するのがゲノム編集技術

交配でその遺伝子を引き継ぐかどうか、つまり遺伝子のブレを品種として固定化できるかどうかは運に左右されます。
そのため例えばある植物の1つの品種を作るのに10年かかったりします。
単なる市販用の野菜や家畜・魚などだけでなく、研究・実験に使う生物の品種の作製は研究者を悩ませてきました。
ゲノム編集技術では遺伝子のブレを操作することで最小の操作・最短の時間で必要とする品種を手に入れることができます。

ゲノム編集技術にはメジャーなものにZFN, TALEN, CRISPR/Cas9とあります。
が、今とりあえず覚えておけばいいのはCRISPR/Cas9です。
ゲノム編集に関する報道が10あったら6はCRISPR/Cas9のこと, 3は全体のこと, 1でその他のゲノム編集のことについて報道しています(感覚的に)。
またゲノム編集を引き起こす原理としては3つとも同じです。

この程度は覚えておきたい、ゲノム編集の原理

細胞内のDNAは切断・損傷されると修復機構がはたらきます。
特に切断ではそのダメージの大きさからたとえ雑でも生存に必要な修復機構となります。
例えばDNA配列の一部を欠損させてでも元の状態に戻ろうとします。
そのため切断が起きた遺伝子にブレつまり変異が入ります。
ブレの入り方によってはその遺伝子の発現や遺伝子の機能を止めることができます。

生物には切れたDNAを直そうとする力がある
ただしDNAを直すとブレが起きることもある
特定のDNAを切って直させブレを起こさせるのがゲノム編集の基本原理
ゲノム編集技術はCRISPR/Cas9だけ覚えておけばいい

原理がわかったところで、CRISPR/Cas9とはどのような技術でしょうか。

CRISPR/Cas9とは

CRISPR/Cas9のうち、CRISPRがシステムの名前であり、そのシステムで使用するタンパク質がCas9です。
生物では主にタンパク質が、まるで機械のように生体機能を働かせています。
つまり、Cas9は生体内で働く機械の名前と想像してもいいです。
Cas9はDNA配列を認識しDNAを切断します。
正確にはCas9と結合したRNA(gRNA)によって複合体を形成し、Cas9複合体がDNA配列を認識して切断します。

専門用語がいくつか出たので整理しましょう。

まずDNA配列、これはご存知の通り、DNAは生命の設計図ともいわれるゲノム(遺伝子)を記載しています。
このDNA配列が読み取られてタンパク質(生体内で動く機械)が作られます。
DNA→タンパク質の変換の間にRNAという物質が存在します。
RNAはDNAをコピーしたものです。
つまりDNAからタンパク質ができるまでの情報伝達のプロセスは
DNA → RNA → タンパク質
となっています。

DNAからコピーして作られるRNAによってDNAの配列を認識、そしてCas9でDNAを切断。
このRNAでのDNA認識できるシステムが画期的だったためCRISPR/Cas9はゲノム編集技術の顔となり、またゲノム編集技術が実用化できた理由です。

発展:CRISPR/Cas9の分類

CRISPR/Cas9には、より良いCRISPR/Cas9や別の役割・能力を模索したCRISPR/Cas9が存在し、ver1.0, 2.0, 3.0の3種類があります。

CRISPR 1.0
CRISPR 1.0は原理通り、切断-修復機構を利用したゲノム編集技術です。
修復機構には切断された場所を均して修復する削除的機構(delution)と、切断されたDNAの近くにあった配列や似ている配列を入れて修復する挿入的機構(insertion)があります。
そのため、どちらかを高頻度で起こさせるCRISPR/Cas9の開発が行われています。
またゲノム編集の標的とした配列に似ている配列が存在するとそちらもCas9複合体が認識してゲノム編集することがあります。
そういう標的外の配列(off-target)を認識しないようにするための技術開発も行われています。
ゲノム編集で新しい何かが出ると「off-targetはどうなっているか」は頻出かつoff-target自体が専門用語的であるため、マウントを取るのに最適です。

CRISPR 2.0
CRISPR 2.0はDNAを切断できないよう変異させたCas9を利用した技術です。

正確にはDNA二本鎖を切断するCas9を改造して作った
1. 一本鎖切断Cas9...nCas9
2. 切断活性のないCas9...dCas9
を利用した技術です。

Cas9がDNAを切断できなくなるとどうなるか。
DNAを切断できないCas9(複合体)はDNA配列を認識できるタンパク質, 分子となります。
この性質は遺伝子治療やゲノム解析で有用な技術です。
具体例としてはDNAを切断できないCas9に緑色に光るタンパク質(eGFP)を結合させたものがあります。
これによって特定のDNA配列が細胞でどの位置にあるのか、細胞活動中にどう動くのかが可視化されます。
またCRISPR 2.0を使って遺伝子発現を調節する技術として、タンパク質の発現を調節するタンパク質を切断活性のないCas9に結合させたものなどがあります。

さらにDNA切断活性のないCasを利用した技術として一塩基編集があります。CRISPR 3.0とも呼ばれることがある技術です。
切断活性のないCas9を使って、DNAの一文字(一塩基)を置き換える技術です。
「DNA一文字」という方に対して簡単に説明すると、DNAはA, C, G, Tと略して表現できる分子が連なってできた巨大分子です。
DNA一文字とは、そのA, C, G, Tの一文字を指します。
現在、CをTにする技術と、AをGにする技術が発表・実用されています。


まとめ

CRISPR 1.0はCRISPR/Cas9そのもの
CRISPR 2.0はDNAを切らないCas9を使った配列認識技術の応用
2.0の知見を活かしてDNAの一文字を書き換える, 一塩基編集がある

発展:現在行われているCRISPR/Cas9自体の研究

1. オフターゲットを減らす

オフターゲットとは前述したように標的としていないDNA配列のことです。
CRISPR/Cas9では標的としていないDNA配列や似ているDNA配列を切断する可能性があります。そのため医療利用などでは問題視されています。
ゲノム全体を解析して目的外の変異のあるなしを調べるのは結構コストが高いため、大抵はオフターゲットになりやすい配列のみを調べますが医療となるとそうはいきません。
技術開発として、このオフターゲットを減らす技術が研究されています。

2. Cas9が認識できる配列を広げる

最近の例でいえば、インパクト強く発表されたSpCas9-NGと呼ばれるものの研究です。
元々のCas9が認識できるDNA配列は先頭にNGG(NはA, C, G, Tのいずれか)という配列を持っていなければなりません。
単純計算で1/16の配列しか認識できないということです。
それがNG配列のみが必要となり、認識できる配列が単純計算で4倍になりました。
このようなCas9が認識できる配列を広げる研究や、他のCasを利用し元々のCas9では認識できなかった配列をカバーする研究が行われています。

3. Casの種類を増やす

2. で述べたような認識できる配列を広げる研究のほかに、サイズを小さくする研究であったり、CRISPR 2.0のようにCas9の性質を変える研究が行われています。

4. Cas9に結合させるものの研究

CRISPR 2.0や3.0でも紹介したようにCas9はDNA配列を高精度で認識でき簡単に開発できるタンパク質としても考えられています。
そのためDNA切断活性のないCas9に何をつけようかという研究がおこなわれています。
例えば蛍光タンパク質などですね。

5. Cas9の代わりになるものの研究

Cas9周りの研究や技術の特許はアメリカに抑えられているため、日本では国産のゲノム編集技術というものが必要視されています。

まとめ

研究・開発としては
・Cas9の改良
・Cas9の改造
・Another Cas9の作成

規制の話とか書いていたら飽きてきたのでここでいったん区切ります。

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