新しい論文"Non-Smooth Integrability Theory"が出ました
あの……誤植、ちゃんと直せって言ったのに、直ってないんですが……
一応言うと、補題1のところで`every'が一箇所`ever"'とかいう謎の記号になってるのと、その後の24ページの証明内部でt_2^+(y',z')とすべきところがt_2^+(y',c^*z)ってなってます。
それ以外は……たぶん合ってるかと……たぶん……
あ、一応内容についても触れておきますと、積分可能性です。問題としては、需要関数の候補f(p,m)が与えられたときに、どういうときに需要関数と見なせて、その場合の効用関数はどうやって構築できるか、という内容(これが命題1)をやってます。なんですが、これだけ言うとHosoya (2017, J. Math. Econ)という以前の論文と変わらない感じがするので、なにが変わったかを言うと、fが微分可能であると仮定してません。代わりに、局所リプシッツであると仮定してます。
この点もうちょっと言うと、僕は積分可能性を効用関数の統計的推定の問題に応用しようと考えていました。つまり、uに対応するデータはないけどfには購買データが対応しているので、fからuが計算できれば、fの推定値からuの推定値が得られるという話です。これを念頭に置いて、いままでの仮定を整理していたんですが、いろいろと問題がありまして……ということ。
まず、fが連続微分可能だとスルツキー行列が定義できて、それを使っていろんな解析ができます。しかし、fに連続微分可能性を保証する条件を入れた推定の問題はとても難しいらしく、これを扱っている計量経済学の論文はほぼ存在しないようです。なので、この仮定は実用的とは言えません。
一方、fが連続でしかないと、f=f^u=f^vとなるような、違う順序を表す二つの連続な効用関数u,vが存在する場合があります。これは、fからuを計算できないということなので、やはりuの推定問題に使えなくなります。この問題はfがmについて局所リプシッツであるときにはなくなります。この仮定で議論できればよかったのですが、どうしても難しすぎて……上の論文の、定理1の証明のステップ4に当たる部分が、その仮定だと示せなかったんですよね。なので、妥協してそもそも局所リプシッツを仮定してしまえ、というのが、今回の論文です。
局所リプシッツを仮定すると、ラーデマッハーの定理という定理が使えて、ほとんどすべての点でfは全微分可能になります。したがってスルツキー行列もほとんどすべての点で定義できます。こいつを使ってなんとかしようというのが上の論文の主旨。結論としては、まずfが需要関数であることと、スルツキー行列の「ほとんどすべての点での」対称性+半負値定符号性が同値。さらに、シェパードの補題に対応する次の偏微分方程式
∇E(q)=f(q,E(q)), E(p)=m
に必ず大域凹解が存在することも同値。後者が重要で、これを利用して、局所リプシッツな需要関数の列の広義一様収束極限がもし局所リプシッツであれば、それもまた需要関数であることを証明できます。つまり、需要関数の集合はある種の閉性を持つということです。もうちょっと進めて、任意のコンパクト集合上に一様リプシッツ定数を与えた需要関数の空間を構築すると、この集合はコンパクトになります。
……コンパクト? と思うかもしれないけど、コンパクトです。最初は完備であることまでしか出ないと思ってたんだけど……コンパクトでした。だって一様リプシッツ定数があるってことは、同程度連続だってことだからね……アスコリ=アルゼラの定理を使って簡単に示せました。
で、さらにもうちょい仮定を追加すると、この需要関数の列について、対応する効用関数の列が極限の需要関数に対応する効用関数に収束するということが言えます。というわけで、一様収束という比較的マシな位相で需要関数の推定値が十分真の値に近ければ、対応する効用関数の推定値も十分真の値に近いことがわかりました。めでたしめでたし。
……この程度で満足できる?
だってコンパクトが出てるんだよ、ということで追加結果。各点収束している需要関数の列を考えましょう。コンパクト性から、部分列を取ると一様収束していますね。これを利用することで、需要関数の列が各点収束してさえいれば、対応する効用関数の列は広義一様収束しているという、どえらい結果が出てきました。びっくり。
他、まあ大量に例や反例を含んでいるので、興味があったらまあ見てやってください。たぶん間違いなく、ここ数年で僕のミクロの論文では最大の自信作なんで!
以上、宣伝でした。