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始めて人前でMPCを使って演奏した日

突然の話だが、アコースティックライブでDJをする事になった。

「は?」と思うのが普通だと思うし、色々ツッコミがあると思うので順を追って説明する。

きっかけは以前通っていた音楽教室で仲良くさせて頂いている先輩のMさんから「今度、下北沢で自主制作のライブをやるから、遠藤君なんか出てよ!」と声を貰った。嬉しい。
ただ、問題があってアコースティック要素の楽器を持ってないのである。困った...。

アコースティックギターもベースもカホンさえなく、手元にはシンセサイザー、電子ピアノ、そして修理から返ってきたMPCがあるだけで、どう見ても電源が落ちたらただの部品になってしまう。

そんな事をお話をしたら、「MPCでも何でも良いよ。せっかくならDJで出てみなよ」と声をかけてもらった。
嬉しい。
ただ、これも問題があってDJをやった経験がないのである。めちゃ困った...。というかターンテーブルもなければ、MPCでDJをやっている事例を調べても出てこない。

どう考えても失敗すると考えていたが、こういうのは飛び込んで泳ぎながら覚えるのが一番速い事を直感で学んでいたので、「まぁ15分失敗したからと言って、僕の音楽の人生は終わる訳ではない」というスタンスで「MPCで出てみます!」と返事を返した。

そこから肝心のMPCが故障するトラブルもあったが、MPCから音楽を流して、そこにRolandのFA-06でピアノを載せたり、シンセサイザーでアレンジを加える「ライブセッション式DJ(?)」ならアコースティックライブでウケるのでは?と思って、Mさんにもスタジオで見ていただき、曲と曲の繋ぎなどのアドバイスを貰いながら3日前に演目がようやく決まる。

ちなみに自分が人生で始めてDJで曲をかけたのはこの3つです。

TheWhiteStripes /「Seven Nation Army 」

FosterThePeople  / 「Call It What You Want」

Two Door Cinema Club  / 「I Can Talk」

どれも10年前以上なので世代がバレてしまいそうだが、高校時代~大学時代にめちゃくちゃ聞いていた曲だ。

ライブ本番、BGMが徐々に下がってフェードアウトする。
MPCのPAD1を押して「Seven Nation Army 」の静かで凶暴なベースから僕の音楽が始まる。

そこからはもう無我夢中でMPCを叩いたり、FA-06のシンセサイザーをかき鳴らしていた。
「これはDJなのか?」とか「あいつは何をしているんだ?」みたいな視線も感じたが全てがどうでもよくなっていた。

もうただただ、俺が好きな音楽を聞いてくれ。

DJなんだから俺の音楽はみずに、自由に会話でも食事でもしてくれ。
邪魔をしないでくれ。

そんな演奏だった気がする。
最後の「I Can Talk」が終わって、シンセサイザーをかき鳴らして頭を上げた時、会場から溢れんばかりの拍手が出て「あぁ、終わった。良かった...」と思った。その後は急に申し訳ない気持ちが出て深くお辞儀を5秒程した。
その間も拍手は止まらなかった。

「えー、この後もまだまだ続くので是非楽しんでください!」と精一杯の笑顔で発言をしてステージを降りた。
右指に違和感があって見ると人差し指の爪が割れていた。血はでてなかったが、明らかに服にひっかけると爪が剥がれると思ったので絆創膏を貰って応急処置をした。

爪が割れる程にMPCのパッドを叩いた事と、それに気づかなかったこと、最後に拍手。全てが終わって「あぁ~怖かった」と言ってようやくお酒を飲んだ。これが始めてのDJだった。そして始めて人前でMPCを披露した瞬間でもあった。ライブが終わって見に来てくれた知人からも「めちゃ良かった」と言ってもらい凄い嬉しかった。

終了後は別の予定が夜から入っていたので、打ち上げには参加せずにそのまま下北沢駅に向かった。

下北沢駅に向かう時、Spotifyを取り出して「Seven Nation Army 」をかけていた。

帰り道を歩きながら「全てが偶然すぎる」とぼんやり考えていた。
そもそもこのライブ自体も音楽教室に通っていなかったら実現しなかった。

そしてシンセサイザーのFA-06も別に音楽教室で教えている楽器ではなく僕がコピーバンドや作曲で必要だから買った楽器である。MPCなんかそもそも知名度がなくて「それはなにをするの?」みたいな人が大多数だ。
でも結果的にはMPCとFA-06がなければ今回の初DJは成功できなかったし、MPCでライブセッションしやすいように調整するのだって熊井吾郎さんから中級者向けレッスンを受けてなかったら間に合わなかった

どれか1つでもかけていたら、こうはならなかった。
もっと普通のDJで、皆ご飯やお酒を楽しく飲んだり体をゆらしていたとおもう。でもそれだけだと嫌だと思って初期衝動だけの音楽をやろうとプレイしてみたが、結果的に無事に終わってよかった。

1990年に出版された「ポール・オースター」の長編小説で「偶然の音楽」という名書がある。大学時代に1回だけ読んでみたが凄い小説だったのを覚えている。

話の最後の着地点が衝撃的だった。
ただ、タイトルに入っている「偶然」というキーワードは出てくるが、読み進めてくると「必然」に感じたストーリーだった。

自分がその時に考えていたのは今日の音楽もそれに近くて「偶然なんてものは後からしか気付けない。」だった。
最初から偶然の出来事を、偶然の音楽を期待して生きるなんて事はできなくて、目の前の出来事に精一杯向き合って生きるしかできない。

And I'm bleeding, and I'm bleeding, and I'm bleeding
Right before the Lord

All the words are gonna bleed from me
And I will sing no more

And the stains coming from my blood
Tell me, "Go back home"
ref: https://aanii.net/seven-nation-army/

なんてどうでも良すぎる、どうでも良い事を考えて、「Seven Nation Army」リピートしながら電車でフラフラになりがら、帰路についた。

帰宅後は爪を切って、シャワー浴びて、1時間程仮眠を取った。
夜は夜で今度は別件があって、また家を出たので寝たのが22:00とかだった気がする。

その間も耳の奥にはずっと今日の演奏で鳴り響いていたTheWhiteStripes の「Seven Nation Army 」のベースと、音が散らかった自分のピアノやシンセサイザーの音と、よれまくった3歳児叩くようなMPCのキックが賛美歌のように漂っていた。

良い日でした。


20230422_mpcdj_ SevenNationArmy🪖

20230422_mpcdj_ CallItWhatYouWant 📣

20230422_mpcdj_ ICanTalk🗣️


おわり

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