坂道狂詩曲 前奏曲(Prelude)
深夜、
誰も居ない空き地の真ん中で、
俺は"ある本"を元に魔法陣を描き、
"召喚術"を詠唱した。
程なくして、
赤黒い血のような液体が魔法陣から湧き出て、
ある形をかたどっていく。
そしてそれは
2対の翼が生えたライオンの姿となり、
"妖霊"が現れた。
妖霊:チッ…誰だよ、俺様を召喚した奴は。
◯◯:俺だ。
俺は妖霊の鋭い目を直視しながら言う。
妖霊:あ?どこだ?どこにいるぅ?
妖霊はわざとらしく辺りをキョロキョロする。そしてわざとらしく俺を見て驚く。
妖霊:お、見つけた!チビだったからよぉ、見つけられなかったわ!フハハァッ!!
◯◯:黙れ"悪魔"。
妖霊:…悪魔だぁ?テメェふざけてんのか!?俺は"悪魔"じゃなくて"妖霊"であってだな、「レオン」っつー名前があんだよ!!
◯◯:じゃあ「レオン」と呼べと?
妖霊:おうおう、もちろんそうして欲しいねぇ。
妖霊は魔法陣内をグルグルと歩いている。
妖霊:クソッ、魔法陣もちゃんと書けてんじゃねぇか。
◯◯:粗探ししても無駄だ、"お前"を完璧に拘束してる。
妖霊:"レオン"だ!…いいな?
観念したようで、
"レオン"は魔法陣内に座り込み、
恐ろしく尖った爪で鼻をかく。
レオン:こんな"ガキ"に召喚されるほど、俺様も落ちぶれちまったかぁ…はぁ、やってらんねぇなぁ。
◯◯:チビとかガキとかうるさい。俺のことも"◯◯"と呼んでもらおうか。
レオン:へぇへぇ。で、"◯◯"よ、"望み"は何だ?
◯◯:望みは…
レオン:お?シンキングタイム要るか?じゃよ〜い、スタート!
そう言うとレオンは鼻歌を歌いながら、
変なダンスを踊り始めた。
◯◯:望みは…無い。
レオン:…は?
ーーーーーー
大きいライオンの口が驚きで閉まらないようだ。
◯◯:だから、望みは無い。
レオン:本当に言ってんのか!?ちょっと待て待て!!…え、嘘…本気?
◯◯:ライオンなんだから静かにしろよ、叫び声がうるせぇんだよ。
レオン:別に騒いだって良いだろ?外から見えないように、お利口さんに"結界"も張ってんじゃねぇか。
◯◯:興味本位で召喚してみただけだ、お前に用はない。
レオン:"興味本位"で妖霊を召喚した?…底抜けの身の程知らずだな。
◯◯:それじゃ、解放するから失せろ。
レオン:待てって。こちとら召喚されたら、望みを叶えるか"能力"を与える"義務"があってだな。そうしないと死んじまうのよ。
◯◯:そこまで自信あるなら、何があるか言ってみろよ。
レオン:何でもあるぜぇ?変身に爆発魔法に男女をくっつける魔法に…
◯◯:要らね、じゃあな。
レオン:おい待ていっ!…ん〜何?お前は"発現者"じゃねぇみたいだな。
◯◯:なっ!?…何で分かるんだよ…
レオン: 悪いな、俺様は召喚者の意識に一方的に入り込める。大事なことだからもう一回言うぞ?"一方的に"!…お前の思考を読み取れる。
◯◯:その能力よこせよ。
レオン:あぁこれはダメだ、俺の"巧みな"話術の根源だからな。
◯◯:死ね。
レオン:せっかちだねぇ。じゃあ"非発現者"のお前に、良い手土産があるぞ?
◯◯:何だよ。
レオン:"ラプソディ(Rhapsody)"だ。
◯◯:は?
レオン:嬉しいみたいだなぁ?じゃあコレに決定〜っ!
レオンはそう言うと、
ライオンのように猛々しく雄叫びをあげた。
すると俺の右手の掌に、
紋章が刻まれ、すぐに消えてなくなった。
◯◯:ちょ…お前、勝手に…!
レオン:よぉし、"契約成立"だな。お前なかなか面白そうなヤツじゃねぇか、今後どうなってくか楽しみだ。
◯◯:どういう意味だよ。
レオン:ちょっとは、お前の力になってやるよ。
レオンは姿を消し、
魔法陣の妖しい輝きも失せた。
ーーーーーー
続く。