
坂道狂詩曲 第18楽章
美月は素早い剣捌きで、
的確に◯◯の攻撃を受け流す。
触れ合う武器は、
戦いの激しさを表すように、
轟音を辺りに発する。
菜緒:凄い…
さくら:こんな戦い、見たことない。
史帆:だね〜、どっちもあり得ない動きしてるもんね。
地面を抉りながら鎌を振るう◯◯、
無駄な動きなく華麗にいなす美月。
美月は得体の知れない「四元徳」の力と
互角以上に渡り合っている。
そして鍔迫り合いになる2人。
◯◯:はぁ…うぐっ…
美月:どうしたの、◯◯くん。まだ勝負始まったばかりだけど。
◯◯:ぐあぁっ!!
◯◯は腕に力を込め鎌を強引に振り、
美月をそのまま弾き飛ばす。
美月:うおっと…
そして瞬時に鎌を地面に突き刺し、
勢いよく上にかち上げ
衝撃波を放つ。
美月:ヤバっ…!?
咄嗟の判断で、
刀で波動を受ける美月。
しかし空中に浮かされていたため、
上手く力を逃しきれず
後方に吹き飛ばされる。
明里:あ!美月さんが危ないっ!!
史帆:やっぱブラック◯◯くんもやりますなぁ〜。
菜緒:ブラックって…史帆さんもうちょっと良いあだ名つけましょ?
聖来:でも、本当に危ないんちゃうんですか?
蓮加:手出し無用、美月なりの考えがあって勝負してるハズだから。
遥香:確かに、美月さんが攻撃出来るチャンスはかなりあったけど、一切ここまで自分から攻めてない。
さくら:じゃあ、何かを試してるのかな?
ーーーーーー
美月:痛てて…やっぱり強いね、〈報復〉。
居着く暇もなく、
◯◯は距離を詰めてくる。
美月:でも負けてられないんだよね〜、あともう少しだから。
突然、美月は◯◯に向かって
長刀を投げた。
しかし、それはいとも簡単に
◯◯に避けられてしまう。
そしてそのまま◯◯は
獣の咆哮のような声を上げながら、
美月に対して鎌を振り上げる。
美月:◯◯くん、狙うのは私じゃないよ?
すると、◯◯の背後に
史緒里が現れる。
史緒里:僭越ながら、私の技をお見せしましょう。
その瞬間、
史緒里が前に突き出した手から、
白色の光を放つ、
極太のレーザービームが放たれた。
◯◯は軸足に力を込めて、
ギリギリのところでビームを躱す。
先程まで◯◯と美月がいた場所は、
一直線に大きく地面が抉れている。
◯◯:ぐっ…
体制を立て直しながら、
◯◯は史緒里を睨む。
史緒里:私がお相手致します。
史緒里は◯◯に対して、
インファイトを仕掛ける。
素早くそして重い拳と足の連撃を、
鎌の柄で何とか受けきっている◯◯。
史緒里:素晴らしい防御です、隙が少ないですね。
そう言いながらも、史緒里は華麗に回し蹴りを
◯◯の首筋にヒットさせる。
◯◯:う…ぐぅ…っ
しかし、◯◯は少しのけぞるのみで、
すぐに反撃を開始する。
史緒里:…やはり効きませんか。
鎌の猛攻を何とか防ぐが、
妖霊の史緒里であっても
四元徳の力は一筋縄ではいかない。
勢いよく薙ぎ払われた鎌を避けるが、
足がもつれて居着いてしまう史緒里。
史緒里:はぁ…私もまだまだ鍛錬が必要なようですね。
その好機を逃さず、
◯◯は鎌を力一杯振り上げる。
史緒里:でも次は、狙うべきものは私ではありません。
最後の一振りは確実に
史緒里の脳天を両断する、
はずだった。
史緒里は瞬時に黒い霧となり、
鎌は空を斬り地面に突き刺さった。
美月:は〜い、こっちだよん。
その瞬間、霧を押しのけ
◯◯の目の前に現れた美月は、
◯◯の腹に
痛烈な飛び蹴りを当てる。
◯◯:ぐはぁっっ!?
不意打ちに対応できず
吹っ飛ばされた◯◯は、
そのまま地面に
伏してしまった。
ーーーーーー
史帆:うわぁ~、容赦ないね~。
明里:美月さんも、◯◯くんも凄い!
蓮加:あれが美月の強さ、単体でも強く連携も利く。
聖来:でも、◯◯がやばくなっていってる気ぃするんやけど。
菜緒:◯◯くん、苦しんでる…
遥香:今の◯◯くんの、心が読めるの?
菜緒:うん、微かだけど。心が読めるということは、"報復"を使うことによって我を忘れてるわけではないと思う。
さくら:となると、今の◯◯はどういう状態なんだろう。
菜緒:「正義」の力の影響で、◯◯くんの理性や感情がどこかに押し込まれてる気がするんだ。
遥香:無理矢理に操られてる、ということ?
菜緒:多分。模擬戦の時も、こんな感覚を感じたんだ。
聖来:あの時、確か"マズイかも"みたいなこと言ってたなぁ。
菜緒:うん。
蓮加:"押し込まれる"。そうか、なるほど…
美月の隣に、
史緒里が現れる。
史緒里:質問なのですが、あなたは何を検証したかったのですか?
美月:今戦ってみて、史緒里は何を感じた?
史緒里:時間経過とともに、力が増幅しているように感じました。
美月:そう感じたでしょ。確かにあの能力は、私たちでも手が付けられないくらい強い。でも◯◯くん自身コントロールができていないし、それに…
すると、倒れている◯◯が
ゆっくりと立ち上がり、
鎌を美月に向けて構える。しかし…
美月:もって、3分。そんで今、ちょうど3分くらいかな。
◯◯:ぐぅっ!?…うぅっ…
◯◯はその場に再び倒れ、
意識を失った。
ーーーーーー
その後、蓮加は
七瀬と話をしていた。
七瀬:あなたたち、今までそんなことしてたの?
蓮加:すみません。でも現在は◯◯くんは保健室で寝ていますし、怪我はしていないようです。それに、美月も◯◯くんのために知りたいことがあって、わざと"報復"を引き出したんです。
七瀬:今回は大目に見てあげるわ。
蓮加:あの、次の調査の方はどのように計画していますか?
七瀬:さっき美月にも言ったけど、私たちの方から先行して準備できることはしていくつもりよ。
蓮加:それについて、私から1つ提案があります。
七瀬:提案?
蓮加:はい。私の父には内緒で、お願いします。
ーーーーーー
俺は、保健室のベッドの上で
目を覚ました。
さくら:◯◯?…起きた?
◯◯:…はぁ、またこういうパターンか。
上半身を起こし
あたりを見回すと、
保健室には、蓮加さん以外の
メンバーのみんなが居た。
美月:ごめんね?◯◯くんの"報復"について知りたかったから、ちょっと手荒な真似しちゃった。
◯◯:〈報復〉…俺の能力の名前ですか、何か分かりましたか?
明里:美月さんと互角に戦ってたよ!
美月:そうね、あなたの能力は本当に強力。でもどんどん力が増していって、あなたの身体的な限度を超える約3分の間しかもたない。
遥香:だから私と戦った時も、活動限界に達して意識を失ったってことですかね。
史帆:でも結局コントロールできないのなら、止まってくれた方がありがたくない?
◯◯:確かにそうとも言えますね。
聖来:あんな状態で、◯◯に暴れられたら困るもんなぁ。
さくら:能力を使ってる最中の、記憶はあるの?
◯◯:記憶?どうだろう…最初は少しだけ、何かに動かされているような、動物的な殺意のようなものを感じるんだ。あとはサッパリ。
菜緒:瞬間的に人格が変わってないということは、力の増大と関係あるのでしょうか。
美月:うん、私はあると思ってる。◯◯くん、今日はありがとう。
◯◯:わざわざ俺のために、こちらこそありがとうございます。で、蓮加さんは?
史帆:蓮加なら、七瀬せんせーと話に行ってるよ〜
◯◯:そうですか。
明里:なんかお腹減ったな〜
聖来:私もぉ。
遥香:言われてみれば私も。
美月:ふふっ。じゃあ蓮加来るの待って、みんなでご飯食べに行く?
菜緒:良いんですか?
史帆:いぇーーーい!
さくら:ほら、◯◯も行くよ!
◯◯:分かったよ。
「正義〈報復〉」
これが俺の未知の能力。
その能力を持つものとして、
本質を知る責任がある。
このメンバーとなら解明できる、
そんな気がした。
ーーーーーー
続く。