坂道狂詩曲 第3楽章
魔法陣の中には、
アレゴリアの制服を着て、
あぐらをかいて頬杖をつく"さく"の姿があった。
レオン:何だよ、これでも気に食わねぇのか?
声までさくだ…
妖霊は基本的に変身できるらしいが、これほどとは。
レオン:俺くらいの妖霊になれば声だって真似れるし、仕草とか話し方も真似できるぞ?まぁお前の意識の中のイメージを借りてるけどな。
そう言うと、レオンは咳払いをし、
レオン:私ぃ…みたらし団子がぁ…好き♡
さくら:ちょっと…やめて…!//
レオン:お、とうとう喋る気になったか。
◯◯:ちょっと見直したが、さっさと"能力"について話してもらおうか。
レオン:はいはい分かったよ。結論を言うと、お前に譲ったラプソディは…「正義(Justice)」だ。
◯◯:「正義」?…そんなラプソディ聞いたことがない。さくは?
さくら:私もない。
◯◯:だよな、まだ嘘つく気か?
レオン:嘘じゃねぇって。逆にお前ら知らねぇのか?「四元徳」を。
◯◯:…古い書物で見たことがあるようなないような。
レオン:ほぉ、今の"学校"とやらはそんなことも教えねぇんだな。
さくら:「四元徳」って?
レオン:ラプソディは「アルカナ」と「四元徳」に分類できてね。四元徳ってのは、「勇気」「節制」「正義」「知恵」の4つのラプソディのことだ。それ以外は「アルカナ」。
依然として、さくの声で喋るレオン。
レオン:そしてお前は「四元徳」、立派な"発現者"の仲間入りって訳だ。俺もそこまで詳しいことは分かんね。
◯◯:「正義」の能力は?
レオン:お前が召喚した"純白のレイピア"だろうよ、さっきは"光"といったが、正式名称はそうだった気がするぞ。
◯◯:概要は把握した。じゃあ何故、お前が「正義」のラプソディを保有していたんだ?
レオン:知らねぇ。お前が持ってるその"本"、それに俺を封印した奴に聞くしかねぇな。うっすら何千年前の話だけども。
さくら:どこでその"本"を拾ったの?
◯◯:現実世界の古本屋で、たまたま見つけたんだ。そして本に記載してあるまま、コイツを召喚した。
レオン:"現実世界"か、なーんでそんなところに捨てられちまったかねぇ。
◯◯:とにかく、俺はお前と契約して「正義」のラプソディを発現した…ってことで信じて良いんだな?
レオン:この期に及んで嘘はつかねぇ。お前面白そうな野郎だしな、せいぜい俺を楽しませてくれよ?
◯◯:黙れ、もう帰っていい。
レオン:じゃあな〜。
嬉しそうにレオンは姿を消した。
ーーーーーー
結界を解くと、辺りはもう暗くなっていた。
◯◯:じゃあ、帰ろうか。
さくら:…待って!
俺が歩き出そうとすると、さくが手を握ってきた。
さくら:どうして、私に言ってくれなかったの…?
◯◯:何が?
さくら:"妖霊"を召喚すること!
◯◯:これはただ、俺がやってみたかっただけで…
さくら:それで死んじゃったらどうするの!?私…◯◯がいなくなるの…嫌だよ…
◯◯:ごめん、心配かけて。
俺は空いている手で、さくの頭を撫でた。
さくら:怖かったんだから…
◯◯:ああいう"さく"も、新鮮で面白かったけどね。
さくら:どういう?
◯◯:あぐらかいて口が悪いさく。
さくら:イジワル。
◯◯:ふふ…帰ろ?
その後俺達は、手を繋いだまま帰宅した。
ーーーーーー
翌日の朝のホームルーム、
七瀬:"模擬戦"の選抜者の発表をします。
非発現者の選抜者女子2名、
発現者の選抜者男子2名が呼ばれ…
七瀬:最後、発現者"神代◯◯"くん。
…
最悪だ…
七瀬:以上5名は、クラスメイトの分まで全力を尽くしてください。そして"サポーター"については各自好きに決めて構いません。
"サポーター"
大会当日、選手にはそれぞれ"前室"と言われる
待機所みたいなものが与えられるのだが、
1人じゃ心苦しいだろうから"付き添い人"を、
必要ならばクラスメイトから選出できる。
しかもそこは個室ときたもんで、
年頃の輩が考えそうなことと言えば、
まぁ一つに決まってくる。
男子は、気になる異性を選出することが伝統となっているのだ。
これぞ"悪しき風習"というもの。
そういう訳で、
色んな意味で毎年の"模擬戦"というのは
生徒にとって一大イベントなのだ。
学校中を装飾し、有名な飲食店の出店が並び、
恋も生まれ、広いバーチャル空間で試合を観戦し。
おまけに1年〜3年の全9試合分の9日間は授業もゼロ。
そりゃ、生徒はみんな騒ぐわな。
ーーーーーー
放課後、いつも通りさくと下校。
◯◯:はぁ…
さくら:どうしたの?
◯◯:選ばれちゃったよ…"選手"に。
さくら:本当に!?…すごいよ◯◯!応援するねっ!!
◯◯:出たくないよ…
さくら:そう言わずにさ、頑張りなよ!
◯◯:何でそんなに盛り上がってんだよ…
さくら:だってカッコいいよ?真剣に戦う姿見たら、誰だってそう思うもん。
◯◯:そういうもんかね。
さくら:"サポーター"はどうするの?…いないなら…私がなってあげてもいいけど…
◯◯:そうしてくれれば1番気楽だけど、クラス違うし。
さくら:…//
◯◯:さくはどうなんだよ。
さくら:選手には選ばれなかったけど、"聖来"にサポーターに選んでもらったの!
◯◯:"聖来"って、あのトップクラスの実力者の?
さくら:そう!とっても強いんだよ!!
そんなバケモノと戦うかもしれない
俺の気持ちを考えてくれ。
ーーーーーー
時は流れ、
模擬戦開会の前日のある授業。
先生:じゃあ今までの説明を元に、隣の席の人に"心的治癒魔法"をやってみようか。
生徒たちが隣の席の人と向かい合う中、
俺は小坂さんと向かい合う。
◯◯:あの、じゃあ、行きますね。
菜緒:…はい。
俺は小坂さんの額に手を当て、
意識を集中させる。
◯◯:…えっと、どう?
菜緒:う〜ん、特に変化は。
"心的治癒魔法"は、
外傷を治す魔法"外的治癒魔法"とは違い、
メンタルケアのような効果を持つ。
ただ、これがかなり難しい。
◯◯:ダメか…じゃあ、小坂さんどうぞ。
菜緒:分かりました。
その瞬間、小坂さんの左手の中指には、
赤い石がはめ込まれた指輪が現れる。
これが小坂さんの"能力"か。
そしてその左手で、俺の額に優しく触れる。
すると…
模擬戦の事についての不安や緊張が、
少しずつ解れていく気がする。
いや、完全に失うではない。
良い意味での緊張感に変わっていくというか。
◯◯:すごい。何か、気持ちが楽になります。
菜緒:そうですか、良かった。
そう言って、微笑む小坂さん。
不覚にも、ちょっとドキッとしてしまった。
◯◯:"治癒魔法"、得意なんですか?
菜緒:えぇ、まぁ…ちょっとだけですけど。
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放課後、
俺は"西野先生"に呼び出された。
七瀬:準備の方はどうですか?
◯◯:いや、どう練習したら良いかも…
七瀬:"サポーター"は必要ありませんか?まだ登録してないようですけど。
◯◯:それも、分からなくて。
七瀬:意外と1人っていうのは心細いものです。特に"模擬戦"のようなイベントでは、支えになる存在は重要ですよ。
◯◯:まぁ、確かに。
七瀬:2学年の大会が始まるまでエントリーできるので、考えてみてくださいね。
◯◯:分かりました、わざわざありがとうございます。
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続く。