坂道狂詩曲 第5楽章
選手名簿を見る小坂さん。
菜緒:"丹生ちゃん"だ!
◯◯:"丹生ちゃん"?
ここから小坂さんの早口解説が始まったので、
…要点を俺がまとめて話します。
2年A組の5番手、いわゆる"大将"の
"丹生明里"さん。
ラプソディは「力(Force)」で
日本刀「虎徹」を召喚し、
獅子奮迅のパワープレーで相手を捩じ伏せる。
魔術師の家系に生まれ、
先天的発現者(プライム)らしい。
実力は学年トップクラスであり、
丹生さんの他、2人の強者と合わせて
"3強"と称される。
…そんな人と当たらなくて良かった。
いくらバーチャル空間で光子の実体と
リンクして戦うとはいえ、
現実でも死んじゃうよ。
それからも小坂さんと話していると、
スタッフ:神代さん、試合開始5分前になりましたので、スタンバイお願いします。
ドアの向こうから、そう指示が聞こえてきた。
◯◯:分かりました、今行きます。
菜緒: 初戦、頑張ってね。ここから応援してます!
◯◯:うん、ありがと。行ってくるよ。
俺は前室を後にした。
ーーーーーー
俺はある部屋へと連れられてきた。
スタッフ:こちらが"リンクルーム"になります。では、これを首に装着させていただきます。
首にシールのようなものを装着される。
スタッフ:では心を落ち着かせて下さい。
俺は目を閉じて深呼吸をする。
すると、少しの浮遊感と共に
「同期完了」の声がかかる。
スタッフ:では、試合開始2分前となりましたので、モデルへの"転送"を開始します。
◯◯:お願いします。
その瞬間、俺の意識は違う場所にあった。
どうやらバーチャル空間試合場の、選手入場口のようだ。
試しに体を動かしてみると、
本当に自分の体のように動かせる。
…何もかもが"自分"だ。
スタッフ:それでは神代さん、入場お願いします。
入場口を出ると、生徒達の大歓声が聞こえてくる。
試合場はサッカーコート一面分ぐらいだろうか。
逆側から相手の男子生徒が入場してきた。
…いよいよ初戦。
ーーーーーー
私は観客席で、周りの歓声を聞きながら
入場してきた◯◯を見ていた。
??:あれなん?さくが片想い中の"神代くん"ってのは。
背後から、私がサポーターをしている
"聖来"の声が聞こえてきた。
さくら:そんなんじゃないってば…//
聖来:照れとるし。さくちゃんは可愛えなぁ、そう思うやろ?"ベレちゃん"も。
聖来はそう言いながら私の隣の席に座り、
抱いているぬいぐるみを撫でる。
でも、正直心配だ。
◯◯に何かあったら、
私までどうにかなってしまいそうで…
聖来:そんな顔で応援したもんやないで?別に死にはせんから、大丈夫。
さくら:そうだけど…
聖来:あ!"かっきー"こっちやで〜。
さくら:"かっきー"も観戦?
遥香:まぁね、さくの好きな人がどんなか見てみたいし。
さくら:2人してイジワル…
かっきーは、聖来の隣に座る。
すると、この光景に辺りがざわつく。
それもそのはず。
この2人"早川聖来"ちゃんと"賀喜遥香"ちゃんは、
2年で"3強"と呼ばれる実力者達。
この2人と同じクラスってだけでも、
何だか誇らしい気分。
聖来:お、そろそろ始まるで?
ーーーーーー
俺と対戦相手は、開始線に足を進め向かい合う。
審判:2年A組対2年B組、第1回戦。制限時間は15分、始めっ!!
先程までの歓声が止んだ会場。
…こうして、初戦が始まった。
選手:先手必勝っ!!
相手は"雷撃魔法"を真っ直ぐ放ってくる。
◯◯:おっと…
概ね読めてはいて横に回避はしたが、
素早い攻撃にのけぞってしまう。
緊迫した空気が解け会場は盛り上がり、
歓声が沸き始める。
試合場には障害物などは何もなく、
15分間の真っ向勝負を強いられる。
名簿によれば相手のラプソディは「塔(Tower)」、
まだ"能力"は使わず様子見といったところか。
続く火炎魔法も、ギリギリのところで躱す。
今更だが、どう戦えば良いんだ…
俺はマトモに"能力"も使えない。
選手:どうした!…お前がその気なら、さっさとケリつけてやる。「塔〈災拳〉」っ!!
すると、相手の手足は紫の稲妻に包まれる。
選手:覚悟しとけ?
相手は俺との20メートルほどの距離を瞬時に詰め、
接近戦を仕掛けてくる。
連撃を何とかいなす俺。
拳や足が体の付近を通過するたび
電流が空気を引き裂く轟音が聞こえ、
肌は少し静電気のようなものを感じる。
…
…
その頃、
聖来:なぁ、さくの"彼氏"はビビリなんか?
さくら:彼氏じゃないし…そんなこともないと思うけど。
遥香:このまま防戦一方だと、追い詰められるのは時間の問題ね。
躱し続ける◯◯だったが、
連携パターンを変えた相手の回し蹴りが炸裂。
さくら:◯◯っ…!?
聖来:うわぁ、あれはアカンなぁ。
遥香:…
更に盛り上がりを見せる会場。
さくら:◯◯…頑張って…っ。
ーーーーーー
何とか脇腹を押さえ、立ち上がる俺。
本当の俺じゃないとはいえ、しっかり痛い。
息も上手く出来ない。
??:おい!何やってんだお前ぇっ!!
その瞬間、脳内に響き渡る
俺だけに聞こえる"アイツ"の声。
◯◯:黙れ…
途切れ途切れ、小声で返事をする。
レオン:お前がしょーもない試合するから、会場冷めっ冷めじゃねえか。
選手:何モタついてんだよっ!
更に距離を詰められ、拳が飛んでくる。
◯◯:くっ…"防御魔法"っ!
防御魔法は間に合ったが、
言うことを聞かない体は
衝撃を吸収しきれず、また吹っ飛ぶ。
レオン:あぁ〜クソッ。俺の"囲い"がヤラレるのは生涯の恥だっての。
◯◯:うぐ…悪いな…
レオン:お前を助ける訳じゃねぇ、俺のためだからな!?…体寄こせっ!
すると少し体が軽く、楽になった気がする。
選手:これで終わりだぁっっ!!
相手は高く飛び上がると、両手を合わせて振り下ろす。
◯◯:「正義〈匡正〉」…
俺はそれを"純白のレイピア"で受け止める。
ーーーーーー
突然の出来事に騒然とする会場。
対戦相手も驚きを隠せず、飛び退く。
聖来:あれが、神代くんの"能力"か?
さくら:わ、私も初めて見た…
俺は先程までが嘘のように、
スッと起き上がりレイピアを構える。
選手:やっと戦う気になったか?
相手は距離を詰め、拳を突き出す。
俺はそれを間一髪で躱し、
すれ違いざまに逆手に持ち替えた
レイピアで斬りつける。
勢いそのままに地面に倒れる相手の脇腹からは、
光子が漏れ出している。
選手:こ…この野郎っ…
雄叫びと共に起き上がった相手は、
再度殴りかかってくるが…
"疾風魔法"により相手の背後に周り、
レイピアを突き刺す。
選手:ぐはぁっ…!?
レイピアを引き抜くと光子が勢いよく飛び散り、
力なく相手は倒れた。
◯◯:対戦、ありがとうございました。。
審判:A組代表、戦闘不能!勝者B組、神代◯◯っ!!
審判の判定が下されると、
会場からは今日1番の歓声が沸き起こった。
その頃、立見席の端にて。
??:ふ〜ん、あの子面白そうじゃん?ねぇ"蓮加"。
蓮加:あんまり興味ないし、そう思ってるの"美月"だけじゃない?
美月:そうかなぁ…
ーーーーーー
結局、
B組は勝ち点1対3で負けてしまった。
しかし、ここは良い伝統で、
たとえ負けたとしてもクラスメイト達は、
俺たち選手を温かく教室へ迎えてくれた。
男1:ごめんな、最後、俺のせいで負けて。
男2:しょうがないって、"丹生さん"が強すぎた。お前は良くやったよ。しかし神代、たった2発で倒しちまうなんてな!
◯◯:たまたまだよ…本当に。
すると、小坂さんに肩を叩かれる。
◯◯:ん?…何?
菜緒:勝利おめでとう!…カッコ良かったよ?
◯◯:…//…ありがと。
さくら:◯◯〜っ!凄かったよ!!
さくが教室に入ってきて、俺たちは談笑した。
明日は第2回戦、
更に気を引き締めなければいけない。
ーーーーーー
続く。