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坂道狂詩曲 第28楽章

まだ年齢は若そうで、
キリッとした顔立ちの謎の男。

様子を確認しようと
さくらと遥香も近寄ってくる。

男は、そのまま片手剣の剣先を
◯◯に向ける。

??:貴様ら、ここで何してるんだ。

聖来:それ以上◯◯に近づいたら、タダじゃ済まさんで?

◯◯:その前に、あなたが名乗ったらどうですか?

蓮加:"藤真隼輔"…統治機構の常備軍第2部隊「イェーガー(Jaeger)」第4分隊隊長。

聖来:常備軍の人!?隊長!?…凄い偉い人やんか。

藤真:間違ってはないな。で、俺の素性をペラペラ喋るその小娘は、"天晴さん"の娘か?

菜緒:天晴さん…?

藤真:"岩本天晴"、常備軍第1部隊「フェンサー(Fencer)」の司令官。

さくら遥香:え?

◯◯:え?

蓮加:…

全員:…えっ!?




ーーーーーー




蓮加:藤真さんこそ、何しに来たんですか?

藤真:治安の維持と事件の捜査は、俺たちの部隊の管轄だ。炎の村で騒ぎがあったと聞いて、仕事をしに来ただけだ。

さくら:でも、いきなり殺すなんて…

藤真:状況は把握済み、やつは四元徳の「知恵」だろ?…存在自体が害悪だ。統治機構常備軍の名の下、駆除したまで。

遥香:"駆除"って…言い方が酷すぎます。

藤真:貴様らも何故、「四元徳」のことを黙っていた。軍に対する反抗だとしたら、同様に駆除しても構わないぞ?

聖来:…あんな、ウチらは犠牲になった大勢の人たちのために…

藤真:黙れガキが。

聖来:はぁ!?

◯◯:聖来やめとけ、何言っても無駄だよ。

藤真:そして神代◯◯…「正義」を発現しているようだな、速やかに尋問に応答しろ。

??:拒否します。

その時、七瀬が姿を現し
メンバーと藤真に近づく。

藤真:誰だ。

七瀬:アレゴリア魔術高等学校の、西野です。その学生たちに、とある調査を手伝ってもらっています。

蓮加:七瀬先生…

藤真:高校の教員ですか。ではその調査とは、どのような目的で?

七瀬:「四元徳」についてです。統治機構の方々に知られると"無駄に"大ごとになってしまうので、内密に調査を行いました。

藤真:無駄ね…

藤真はため息をつくと、
片手剣と盾を送還する。

藤真:優秀な高校の、優秀な教員ともあろう方が、こんなガキどもをこき使って"戦争ごっこ"させているとは…残念です。

聖来:あんたなぁっ!!

◯◯:やめろって!

◯◯は暴れる聖来を羽交締めにする。

七瀬:どうあれ、彼らの行動の責任は私が取りますので、まず私及びアレゴリアの方に話を通して頂きたいです。

すると、藤真の隣に
同じ真紅のローブを着た男が現れる。

兵士:藤真隊長。アレゴリア付近の商店街の妖霊の件ですが、確認が取れましたので隊長もそちらへ。

藤真:分かった。では西野先生、この件に関してはまた後ほど。私は、彼らの尻拭いをしなければなりませんので…では。

藤真は男と共に、
炎の村を去っていった。




ーーーーーー




聖来:ムキイィぃぃっっ!!あの男ぉ、ちょっと顔が良いからって調子乗ってんちゃうかぁっ!?

菜緒:確かに、高圧的な態度だったね。

遥香:聖来は静かにしてなって。

遥香は氷の針で
聖来の腹をつつく。

聖来:痛っ!…何やねんかっきーまでぇ。

その光景を見ているさくらが、
鬼の形相で◯◯を睨む。

◯◯:どうした?さく。顔怖いけど…

さくら:◯◯はさ…いつまで聖来にハグしてる訳?

◯◯:え?ハグ?…うわっ!

◯◯は羽交締めにしたまま、
聖来を抱きしめていた。

◯◯:ご、ごめん…

◯◯はすぐに聖来から離れる。

聖来:やぁ〜ん、◯◯〜っ

さくら:◯◯、どういう事?

第28楽章 さくら

遥香:目が全然笑ってないよ?

菜緒:◯◯くん、後は頑張ってね。

そんな他愛もないやりとりを
蓮加と七瀬は少し離れた所で見ている。

蓮加:急ではありましたが、何とかなりましたね。

七瀬:そうね、あなたたちには迷惑をかけてしまったわ。

蓮加:病院に運ばれたメンバーたちは、大丈夫でしたか?

七瀬:美月は意識はまだ無いけど、命を取られたわけではないし、丹生さんと乗っ取られた子は安静にしてれば大丈夫。

蓮加:そうですか。

その時、

??:蓮加ぁぁぁぁっっ!!大丈夫かぁぁぁぁぁぁっっっ!!

男の野太い声が、
村中にこだました。

蓮加:あー、終わった…




ーーーーーー




聖来:次から次へと、誰やぁっ!!

男は、蓮加に爆速で駆け寄る。

??:蓮加っ!怪我はないかっ!?

蓮加:はぁ…

菜緒:あの、どういうご関係でしょう。

蓮加:私の…お父さん。

さくら:え、じゃあこの人が…統治機構の軍の司令官さんですか?

天晴:あぁ、取り乱してしまいました。私は常備軍第1部隊司令官、"岩本天晴"です。

天晴は深く頭を下げて、
挨拶をした。




ーーーーーー




◯◯:屈強だけど、藤真さんとは比べ物にならないほど謙虚な人だね。

遥香:これこそ、人の上に立つ人って感じだね。

七瀬:岩本さんは何をしに?

天晴:蓮加の学校の生徒が、何やら戦闘していると部下から聞きましてね。蓮加があまりにも心配だったので、仕事ほったらかして来ちゃいました。アハハ!

蓮加:ほんとバカ親…

第28楽章 蓮加

聖来:確かにそうやなぁ。

天晴:それよりも蓮加、何でパパにこのことを言ってくれなかったんだ?

天晴は蓮加の肩を掴み、
真っ直ぐ目を見つめる。

七瀬:それは私の指示です、親族にも他言しないようにと。

天晴:あ、そういうことでしたか。ならば全然構いません。

遥香:あの、天晴さんは…私たちのことを問い詰めたりしないんですか?

天晴:それは私の部隊の役目ではないですもの。それに、君たちが無事でいてくれただけで、十分ですよ。問い詰める理由もありません。

七瀬:ご迷惑をおかけしました。

天晴:いえいえ。こちらこそ蓮加のこと、ありがとうございました。では失礼します。

天晴は白のローブを靡かせ、
空高く飛び上がった。




ーーーーーー




数日後、

美月さんを除く調査隊のメンバーが
考古学研究室に集まった。

各々の傷はだいぶ治り、

丹生ちゃんは包帯を巻く程度で、
いつも通りのほほんとしている。

七瀬:まずは、みんなに謝らなきゃいけません。みんなを危険に晒してしまって、ごめんなさい。

麻衣:私からも、申し訳ありませんでした。

七瀬先生と白石先生は、
俺たちに向けて深く頭を下げた。

◯◯:顔上げて下さい、先生たちには何も落ち度はないです。寧ろ俺たちは助けられました。

蓮加:◯◯くんの言う通りです。

明里:うんうん!

メンバー全員が頷く。

七瀬:みんなありがとう。それで気づいてると思うけど、私たちと主に3年生だけで、内密に「知恵」との戦いのために準備をしていたの。

麻衣:まずは、史帆さんにこの"ポータル"という方位磁石を、私の叔父のところへ取りに行かせました。

第28楽章 麻衣

七瀬:高速移動に使えると思っていたけど、まさか本当に活躍するとは思わなかった。

七瀬先生は机に方位磁石を置き、
話を続ける。

七瀬:そして蓮加ちゃんの提案のもと、菜緒さんに「乖離魔法〈超脱〉」を習得してもらったの。

さくら:そうだったの?

菜緒:うん。

麻衣:調査の状況から知恵は女の子を乗っ取っていると考えた蓮加さんは、お婆様の能力を菜緒さんに伝承させ、何とか知恵と女の子を分離しようと思ったってわけです。




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七瀬:で、このことを内密にしようと進言したのは、美月自身よ。

遥香:美月さんが?

七瀬:えぇ。2年生にこれ以上、心配かけたくなかったみたい。

第28楽章 七瀬

史帆:今覚えば、美月っぽいよね〜。

七瀬:でも知恵の能力が未来予知だと分からない状態で踏み切って、あなたたちをより危険な状況に晒してしまった。

聖来:まぁでも、さくが「節制」を発現したんやし?色々せーらたちもええ経験になったから、結果オーライって感じやなぁ。

麻衣:その件に関して鑑定して見た結果、さくらさんのラプソディは「節制」で間違いないです。

七瀬:そしてさくらさんの鎖には、能力の過剰な放出を抑える力があるらしい。

◯◯:だから、俺の"報復"を制御できたと。

七瀬:能力の名前は、伝承から取れば「節制〈高潔〉」

史帆:でも〜、さくらちゃんは◯◯くんのことが好き過ぎて発現したんだし〜、〈慈愛〉の方がお似合いだと思うよぉ。

さくら:ちょっと…史帆さん//

蓮加:確かに。

聖来:賛成っ!!

遥香:私ももちろん賛成。

明里:ん〜何だかよく分からないけど、賛成!!

菜緒:丹生ちゃんは、急に動かないで安静にしててっ

七瀬:じゃ、「節制〈慈愛〉」ということで決定。

◯◯:え、何のこと…?




ーーーーーー




七瀬:ここからが今日の本題。知恵に乗っ取られていた子、"河田陽菜"さんについて。

白石先生が、
全員に新聞を配り出す。

麻衣:河田陽菜さんの、素性を調べてみました。その新聞記事が、出てきた結果です。

◯◯:"少女誘拐、未だ遺体見つからず"?

さくら:当時中3ってことは、私たちと同い年なんだね。

七瀬:そう。それは約2年前の、現実世界の新聞記事。知恵に体を乗っ取られた河田さんは、そのまま反転世界に身を移し消息不明。

麻衣:現実世界においては、誘拐被害の末に殺害された"死亡者"として、扱われているようです。




ーーーーーー


続く。

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