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坂道狂詩曲 第25楽章
知恵と向かい合う史緒里。
史緒里:美月さんには、この私が触れさせません。
知恵:ならば、殺すまでだ。
知恵の周りに浮遊する剣は
史緒里の方へ刃先を向け、
独立した意思を持つように
それぞれが暴れ回る。
史緒里:なかなか厳しいですね…
全ての剣をいなせるはずはなく、
史緒里は手や顔に傷をつけられる。
知恵:逃げてばかりでは、自分の死を近づけるだけだぞ。
史緒里:舐められては困ります。"防御魔法〈焼尽〉"
史緒里は自分の周りに、
波動を拡散する。
その波動に触れた剣は、
全て砂塵となって消えてしまった。
史緒里:絶対に、負けません。
史緒里は知恵との距離を詰め、
華麗で素早い足技を仕掛ける。
知恵は連撃を軽く避け、
余裕の表情をみせる。
史緒里:妖霊の動きも、読めますか?
知恵:当たり前だ、お前のような妖霊に屈する我ではない。
史緒里:では、あなた自身の未来は見えますか?
その瞬間、知恵の足は
灰の山に取られ体制を崩す。
知恵:…何だと?
史緒里はその隙を逃さず、
容赦なく知恵の腹に
素早く蹴りを3回食らわせる。
知恵:ぐっ…!?
とてつもない衝撃に、
知恵は後退する。
史緒里:では、終わりにしましょう。
史緒里は地面を強く蹴り、
脚を大きく振り上げる。
ーーーーーー
史緒里:はあっ!!
知恵:…なぜ、勝ったと思ったのだ?"暗黒魔法〈磔〉"
その瞬間
史緒里は地面に叩きつけられ、
周囲の影が取り囲むように
体を拘束する。
史緒里:こんな魔法、見たことない。
知恵:それは残念だったな、"砂塵魔法〈礫弾〉"
すると知恵の展開する魔法陣から
土塊の巨大な弾丸が発射され、
まともに食らった史緒里は
なす術なく吹っ飛ばされる。
史緒里:がはっ…
妖霊特有の赤黒い血を吐き、
その場に倒れる史緒里。
◯◯:史緒里さんっ!…ぐっ!?
レオン:あの野郎…許せねぇ。
◯◯とレオンは知恵による
拘束魔法と格子で動けず、
ただその光景を何も出来ず
見ることしかできない。
知恵:「正義」の発現者"神代◯◯"。これがお前の偽善に満ちた、正義の導く結論だ。自己満足の刃を向けるのみ、誰も守れはしない。
知恵は焼けた板を拾うと、
純白の短剣に変形させた。
史緒里:ここまで、ですかね。
◯◯:史緒里さん…逃げて…
知恵:その刃が仲間を傷つける様を、見ているが良い。
◯◯とレオンを拘束する
魔法と格子が解かれた瞬間、
知恵は史緒里に向かって、
短剣を勢いよく投げる。
◯◯:やめろぉっっ…!!
レオン:クソッ、間に合わねぇ!
2人が駆け出すも、間に合うはずはない。
しかし、
美月:史緒里っ!!
ザクッ…
◯◯:な!?
レオン:おいおい、嘘だろ…
ーーーーーー
遥香に薙刀の刃先を突きつける
セイレーンの右腕は、
蓮加の銃弾とさくらの突きを食らい
機能を失っているようで、
赤黒い血が滴り
力無く垂れ下がっている。
セイレーン:まず君からだよ、じゃあね。
遥香:っっ…
セイレーンは目を瞑る遥香に対し、
薙刀を振り上げる。
さくら:やめ…て…
さくらのか弱い声が聞こえると、
セイレーンは刃先を止める。
セイレーン:ちょっと勘弁してよ、良いところなのに。
さくら:かっきーを、傷つけないでっ
セイレーン:う〜ん、じゃあボロボロの君から死んでもらうけど。いいかな?
さくら:誰も傷つけさせない…
遥香:さくちゃん…
セイレーン:もうさぁ、最近の子はずっと理想の戯言ばっかりだよ。
蓮加:クッソ…無理だよ、さくらちゃん…
セイレーン:君たちがどうこうできることじゃないんだってば。
セイレーンはため息をつき、
めんどくさそうに薙刀を放り投げる。
セイレーン:4つの石碑には、文字が刻んであるだろ?あれはおそらく四元徳が死んだ後、その活躍を尊敬した人が掘ったんだろうね。
澄んだ空を見ながら、
話を続ける。
セイレーン:僕は四元徳の奴らを尊敬なんかしてないけど、崇拝される人がいて、崇拝する人がいる。崇拝される人はやがて王となり、神となる。
遥香:何が…言いたいの?
セイレーン:その王や神は、いつの時代もただ1人。それがたまたま「知恵」だったわけ。なぜ君たちはそれを受け入れないんだ?もう僕に歯向かうのは辞めなよ。
さくら:私は、◯◯と約束したの…
セイレーン:は?
ーーーーーー
セイレーンは何度目かの
大きなため息をつく。
セイレーン:ここに居る全員バカだな。僕の隣に転がるこの氷の子も、あっちでくたばってる銃の子も、意味分からない事言ってる君も。
さくら:バカじゃないです…私たちは負けるわけにはいかない。
セイレーン:でもさ、君弱いじゃん。
さくら:弱くても良いです、でも…◯◯と約束したのっ!私が◯◯を助けるって…
さくらは、俯いて
拳を強く握りしめる。
さくら:かっきーの言った通り、私は◯◯のことが好き…
セイレーン:おいおい、今そんな話すんのか?冗談じゃないよ。
さくら:だから、私たちは…こんなところで死ぬわけにはいきませんっ!!
「愛すべきを愛せ」
さくらはまた聞こえてきた
謎の声と共に、
何かに突き動かされたように
気持ちを1つに決める。
さくら:◯◯を止めるのは私…だから、邪魔しないでっ!!
その瞬間、さくらの周囲から
複数の魔法陣が展開され、
無数の鎖が現れ
セイレーンに向かって飛び出す。
セイレーン:何!?
遥香:…え?
セイレーンは咄嗟に高く飛び上がるも
鎖はどこまでも追跡し、
四肢や首に巻きつき
セイレーンを叩き落とす。
セイレーン:ぐあぁぁぁぁっっ!?
そしてセイレーンは
力を抜き取られるように平伏し、
なす術なく拘束される。
さくら:かっきー、蓮加さん、チャンスです!
遥香:りょ、了解!
蓮加:もう準備できてるよ!
遥香は何とか立ち上がると
セイレーンの周りに冷気を発生させ、
下半身を瞬時に凍結させる。
セイレーン:クソがぁっ…
遥香:蓮加さん!
蓮加:遥香ちゃん耐えて!「新星〈Nova〉」…
蓮加がトリガーを引くと、
セイレーンを中心に大爆発が起こる。
遥香は出来るだけ離れ、
盾を作成し爆風を凌いだ。
ーーーーーー
史緒里の目の前には
倒れたはずの美月が立っていて、
防御魔法を前方に
展開していた。
しかしその脇腹には
短剣が突き刺さっていて、
鮮やかな赤色の血が
溢れ出している。
史緒里:美月さん…何で…?
美月:えへへ…ちょっと遅かったかな。
美月はそのまま
史緒里に体を預けるように倒れる。
史緒里:美月さん、しっかりして下さい!
美月:ううん…もうダメみたい…
拘束から解放された
◯◯とレオンが、
2人の元に駆けつける。
レオン:知恵の野郎、マジでやりやがった…
◯◯:美月さん…
美月:ゴメンね、何も抵抗出来なかった…
史緒里は一層強く、
美月の身体を抱き締める。
史緒里:何故…何故、私のためにこんな事を!!私は"妖霊"ですよっ!?
美月の頬には、
涙が伝い始める。
美月:違うよ…
史緒里:え?
美月:あなたは私の"妖霊"…でも私にとっては"史緒里"だもん…
史緒里は血が溢れて止まらない
脇腹の傷口を懸命に押さえる。
美月:私の大切な…たった1人の"史緒里"そのものだもん…
◯◯:…
美月:もう…失いたくないよ…
美月は◯◯を見つめる。
美月:◯◯くん…みんなを、頼んだよ。
すると美月は意識を失い、
体から力が抜け切る。
史緒里:美月さん…"美月"っ!?
知恵:ははは…まだ青いな、お前たちは。
レオン:てめぇ、よくも!
◯◯:許さねぇ…お前は絶対に許さない!!
知恵:これで分かっただろう、お前の無力さが。
史緒里:美月…美月っ…
史緒里は涙を流し、
美月の身体を揺すっている。
レオン:でもどうする?…あいつの強さはホンモノだ。
◯◯:クソッ…そんな事分かってる!!
すると
◯◯の前にゲートが開き、
一筋の光のようなものが
知恵に向かって伸びる。
そして優しい温もりを感じるような
波動が拡散し、
知恵は大きな衝撃を受け
抵抗する余地もなく吹き飛ばされた。
◯◯:…え?
全て、一瞬の出来事だった。
そして◯◯たちの前には、
手の付近に魔法陣を展開する
菜緒の姿があった。
ーーーーーー
続く。