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ドジで理系のくせに可愛い君がムカつくので、解らせてみます。 プロローグ

好きな人がいる。


…好きになってしまった人がいる。


「恋は盲目」とよく言うものだけれども、

異議を唱えたいと思っている。


教員:じゃあこの問題、"中西"。黒板に解答書いて。


??:はい。


盲目どころか「全盲」である、と。


感じてしまったら最後、

想い人の顔をまじまじと見ることはない。


もはや真正面から見れない程に、

恋は人の心を狂わせてくる。




女子生徒が黒板に向き合い始めて、

ようやく俺はその後ろ姿を見た。


…"中西"さん。


ちょい長め黒髪ボブ

ちゃんと膝丈のスカート、


独特で繊細な声色。


いわゆる"自称進"なウチの

この"理系"クラス内において、


彼女は飛び抜けて頭が良い。


クラス内とも言わず、

校内、いや理数科含めても上位。


あ、またこちら側を向く、

恥ずかしくなって咄嗟に目を伏せた。


教員:よし、解説まで頼むな。


アルノ:この問題は、図から欲しい情報を数式に当てはめる問題です。


中西さんの丁寧で分かりやすい解説が、

研ぎ澄まされた耳に伝わってくる。


…中西さんとは、

このクラスで出会った。


高2からの文理選択で、

運良く同じクラスになった。


それまでは存在すら知らなかったが、

すごく、すごく


…可愛い。


可愛すぎるのだ。


愛しの中西さんは、

地味めな"リケジョ"という感じ。


重めの前髪と

目元を隠す大きなメガネのせいで、


その御尊顔の全容を拝めることは

滅多にないのだけれども…


すごく可愛かったのである、

気づいたら撃ち抜かれていた。


一目惚れしたのは

ちょっと前に遡るけど、


その話は機会があれば

共有できるはずである。


…可愛いだけなら、

恋愛感情を抱かずに居られた。


ある"1点"がまた光を放ち、

俺には眩しく思えてしまった。


中西さんは、


…めちゃくちゃ"ドジ"。




ーーーーーー




それにあまり自覚がないという、

天然もびっくりの"ド天然"ドジ。


ある意味可哀想な光景は、

盗み見するだけで楽しい。


何もないところで躓いて

プリントを廊下にぶちまけたり、


弱々し過ぎる助走と飛ぶ気のない跳躍で

高跳びのバーに激突したり、


昼休みに友人から

ビリビリペンを喰らわされ、


情けない雑魚ボイスを出しながら

悶えているのは一興。


雑魚アルボイス、

好き。


それと、くしゃみを抑えようとして

耳にダメージを負っている姿や、


机に止まった虫を潰そうとして

空振り小指を強打する姿などなど。


紹介しきれない、

その他諸々。


…よく見てるじゃねぇかって、


いや、

一方的に見れる時は見るさ。


姿はおとなしいリケジョなのに

顔はめちゃめちゃに可愛くて、


しかも動きは全部ダサくてドジという

そんな彼女の魅力に気づいたら最後、


俺は"虜"になっていた。


そして羨望の感情はいつの日か

彼女のことを見るたびに、


どんどん「ムカつく」という

思考に変わっていった。


ドジで、


理系のくせに、


可愛いなんて、


…マジでムカつく。


ボコボコに虐めて

"解らせて"やりたい。


俺も一端の

思春期男子、


そろそろ色んなコトへの

興味が頂点に達する時期。


初めて自覚した俺の"癖"は、

中西さんそのものだった。


歪んだ一方的な愛情は、

俺の胸にしまっておこう。


そう思っていたのだけれど。




教員:ありがとう、拍手〜


高校生特有の

恥じらいが混ざる疎な拍手、


中西さんはチョークの粉を吸い込んだのか、

咽せながら自席に向かっている。


そして座ったのは、

俺の隣の席。


良い匂いがする、

理系陰キャのくせに。


…ムカつく。


スカートを翻して

静かに隣に座る彼女の姿は、


比喩ではなくて直視不可能なほど

美しくて心をひずませる。


全身が硬直して、

"恋"を拒絶しようとする。


だけど隣の席になってから

イヤでも彼女が目に入り、


ひとときも彼女のことを

忘れられない日々を送ってしまう。


アルノ:あの、


◯◯:…


アルノ:"山下"くん、


◯◯:は、はひっ!?


アルノ:ペン落ちてますよ。


聖女の澄んだ声が

俺に向けて発せられて、


いつの間にか手元から脱落していた

ペンを彼女が持っていた。


◯◯:あ、ありがとござます…


半袖ワイシャツの少し緩い胸元から

前屈みでチラッと見える綺麗な肌、


メガネの縁から外れてこちらを覗く

上目遣いの大きな瞳、


…ぶち◯してぇその身体。


俺は壊れていないと

信じたい今日この頃、


恋ってこんなに苦しいんだな、と

カッコつけてみたり。


◯◯:本当にありがとうございます本当に本当に


アルノ:…??


ラッキーイベントを

神様に感謝する俺のことを、


不思議そうに見る中西さんから

ペンを辿々しく受け取った。


教員:じゃあ次の問題は、山下。


◯◯:…え?…あ、はいっ!


声が裏返った俺のことを、

クラスの仲良い奴らが笑う。


中西さんが触れていたペンを

ありがたく握りしめて、


俺は意気揚々と問題を解き

無事に玉砕したのであった。




ーーーーーー




友人1:お前さぁ、中西さんのこと見過ぎ。


昼休み

1階のラウンジ、


口角が上がりきっている

友人たちに囲まれていた。


全員が俺の顔を見ながら、

弁当を食う姿は異常の一言。


◯◯:悪いかよ。


友人2:マジで、初恋ってやつだよな。


恋をしたいんじゃなくて、

"解らせたい"んだ。


清楚でおとなしい

リケジョの皮を被ってるくせに、


天然のドジっ子でどんくさくて

生意気なことに可愛くて…


こんな純粋な男子の思考をひん曲げる

最低で破廉恥な"メス"です、と。


◯◯:もう俺は、元に戻れないかもしれない。


友人1:…キッショ、


友人3:今更気づいたのかよ。


中西さんは恋愛なんか

興味なさそうな雰囲気だし、


俺のこんな"はじめて"の恋は

儚く散ってしまうかもしれない。


◯◯:…でもいい。


友人3:ブフッ!!…笑わせんなッ!


友人2:前言撤回。こいつ、思ったより遙かにキモいわ。


友人1:だよな。




これは多分、


こんなに気持ち悪い男が

活躍するであろう物語。


そして、


"中西アルノ"という女に

固執し続けるであろう物語。


気を悪くさせたら

申し訳ないが、


"分かってくれる人"は

分かってくれると思う。


良いんです、

そういう人が少しだけ居てくれれば。


分からない奴も

今のうちですよ、


心臓のカタチが変わるほど

ひん曲げてやる。




ーーーーーー




続く。

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