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坂道狂詩曲 第16楽章
本屋の店長の一言で、
部屋の空気が凍りつく。
俺がみんなを横目で見ると、
遥香さんと目が合う。
店長の資料は全て
正しいのかもしれない、
鵜呑みにしても良いのかもしれない。
でも俺も遥香さんは少なくとも、
店長を完璧に信じてるわけじゃない。
遥香:丹生ちゃん、上で本読んでて良いよ?良いですよね、店長さん。
店長:ん?あ、うん、もちろん良いよ。
明里:本当ですか!?やったぁ〜っ!
店長:楽しんでね〜。
そう言うと丹生ちゃんは、
階段を駆け上っていった。
さくら:◯◯、良いの?
俺は菜緒さんに小声で、
あることを伝えた。
◯◯:上で丹生ちゃん見てて?…それと、俺の頭を能力使って読み取ってて欲しい。
菜緒:…分かった。
菜緒さんが丹生ちゃんを追いかけて、
上に上がった頃、
◯◯:何故そう思うんですか?
店長:急に怖いなぁ〜、ただの勘だよ勘。それに目の前に「正義」をもった君が居ることが、何よりの証拠じゃないか。
聖来:◯◯の他にも、誰かおるんですか?四元徳が。
店長:それは僕は分からないなぁ。ただ最近、さっき言った"魂の地"に、誰かが立ち入ったっていう情報もあったりなかったり。
遥香:その情報はどこからですか?
店長:統治機構には"観測所"っていう所があってね、色々な地点の調査に行くことが仕事の場所があるんだ。
さくら:そういう機関があるのは、少しだけ知ってました。
店長:僕は昔そこに勤めててさ、たまにその時の部下から連絡があるんだ。その他にも、ある町が焼け落ちたなんて話とかもね。
遥香:"町"が焼け落ちた、ですか。
◯◯:そうですか…
ーーーーーー
そして、少し経って、
俺たちは店を出ることにした。
◯◯:今日は急に押し掛けたにも関わらず、本当にありがとうございました。
店長:いやいやとんでもない。いい歳のおじさんができることは、若者に活躍してもらうために一生懸命になることだからね〜。
◯◯:今度こそは、普通に本を買いに来ますので。
店長:うん、待ってるよ。良かったらあっちで騒いでる女の子の連れたちも、一緒に来てね。
俺と店長が見た先には、
少し離れた場所で
ワイワイ話すみんなの姿がある。
店長:あぁ、それと…望むなら"魂の地"に行ってみるといい。優秀な先生に引率してもらえば、行けないこともないと思うよ。
◯◯:分かりました、では。
店長と別れて、
みんなの方に向かう。
聖来:あ、やっと来た。
◯◯:ごめん、待たせちゃって。
遥香:何か言われた?
◯◯:いや…ただの世間話だよ。
遥香:そっか。
さくら:今ね、みんなでスイーツ食べに行こうって話してたんだ〜。
明里:お腹空いたぁっ!!
◯◯:んー、じゃあみんなで食べに行くか。俺が奢るよ。
菜緒:…良いの?
聖来:良いに決まっとるやろ?行くでぇっ!!
ーーーーーー
聖来さんと丹生ちゃんが謎の嗅覚で
突撃したカフェに入り、
各々食べたいものを食べた。
反転世界出身のメンバーたちも、
あっちでは珍しいスイーツとかを
美味しそうに食べてくれていた。
まぁその代わり、
俺の財布は寂しくなったけど。
そして帰り道。
人気のない路地裏で、
反転世界へつづく魔法陣を展開する。
◯◯:じゃあ、今日はみんなありがとう。
遥香:奢ってもらってごめんね?
明里:美味しかったよ!ありがと!
◯◯:お礼なんか要らないよ、みんながちょっとこっちの世界も気に入ってくれたら良いかなって思っただけだから。
菜緒:◯◯くんは、いつも優しいですね。
◯◯:あ、いや、そんなことは…
さくら:また照れてるし。
聖来:帰りもさくちゃんと菜緒ちゃんのこと、頼んだで〜
◯◯:はいはい、分かったよ。
そう言うと、3人は
魔法陣の中に入っていった。
ーーーーーー
改札を通り、
家に戻る方面の電車へ向かう。
菜緒:あの、私の実家は逆方面なので。
◯◯:じゃあ送っていこうか?
さくら:私も全然着いて行くよ。
菜緒:ううん、大丈夫。
◯◯:そっか、じゃあまた学校で。
さくら:菜緒ちゃん、じゃあね!
菜緒:うん、じゃあね。
菜緒さんは
別のホームに向かっていった。
◯◯:さて、どうしようか。
さくら:久しぶりに◯◯の家行こうかな〜。
◯◯:来ても何もねぇぞ?
さくら:だって、◯◯ずっと構ってくれなかったし…
むすっとした表情のさくら。
◯◯:いや…だってさ、今日は色々放っとくと危なそうだったしさ、しょうがないって。
さくら:ふーん、じゃあそういうことにしといてあげる。
ーーーーーー
私は家に帰り、今日の本屋での出来事を
メモ帳にメモしていた。
すると、部屋のドアがノックされたから
慌ててメモ帳の上に参考書を広げる。
遥香母:入るわね、そろそろ夕飯出来上がりから、降りてきなさい。
遥香:分かったよ、もうちょっとで終わるから。
遥香母:勉強はどう?次のテストも、また学年1位目指して頑張りなさいね。
遥香:うん…
遥香母:今は何が好きなの?
遥香:うーん、魔法薬学かな。
遥香母:それママも好きだったわ、懐かしいなぁ。あ、邪魔しちゃったわね。じゃあキリのいいところで終わらせて、降りてきてね。
遥香:分かった。
それだけ言うと、ママは
部屋を出ていった。
私の家は、聖来の家ほど
裕福な訳ではない。
でも私がやりたいと言ったことは、
何でもさせてくれた。
魔法の勉強や習い事など、
何不自由なく。
そうだけど、"調査隊"の活動は
少し言い難い。
危ないし、
心配させそうで。
罪悪感は感じつつも、
あのメンバーと居るのが楽しいという
自分がいるのも事実。
今はこれに集中したい。
そしてメモを見返す。
ーーーーーー
まず、店長は魔術師で
私たちのことを瞬時に見破った。
四元徳に関する伝承を収集し、
あれほどの情報を持っていた。
そこから四元徳の発現者が存在することを
突き止めている…
魂の地なんて
聞いたことないし、
あの伝承そのものも
何を示しているのかサッパリ分からない。
そして気になる点がある。
西野先生や白石先生が探しても見つからない情報を、
なぜあの人が持っていたのか。
統治機構の観測所に知り合いがいて、
情報が回ってきたと言っていた。
でも、観測所が内密且つ独自に
調査をするとは考え難い。
更に、あの人は
菜緒ちゃんの能力をいとも簡単に拒絶した。
怪しい…
簡単に、
今日の情報を信じていいのかな。
明日の会議が終わったら、
また考えよう。
私は、モヤモヤした気持ちをもったまま、
ご飯を食べるために、階段を降りた。
ーーーーーー
続く。