坂道狂詩曲 第15楽章
無事に目当ての駅で下車し、
俺たちは都心の街を歩き出す。
明里:うわぁ〜、人多いんだね!
遥香:ちょっと忙しない印象ね。
◯◯:日本の東京は、こういうところなんだよ。
さくら:菜緒ちゃん、大丈夫?
菜緒:ちょっと人混みが苦手で…
聖来:◯◯〜、菜緒のためにさっさと行こうや。
◯◯:分かってるよ、すぐ着く。
駅から歩いて5分ほど。
俺が、レオンを召喚するのに用いた本を
買った本屋の前に来た。
さくら:へぇ、こんなところあったんだ。
◯◯:俺もびっくりしたよ、都市の裏道にこんな古い本屋あったんだなって。
遥香:どうやってここを知ったの?
◯◯:あっちのほうにある雑貨屋に用事があってね、それで視界に入ったから。
菜緒:少し古そうだけど、良い本に出会えそうな感じがする。
聖来:早よ行こうや〜。
明里:お先っ!!
◯◯:あ、ちょっと待ってって…元気だなぁ。
ーーーーーー
ちょっと狭い本屋の中、
俺たち以外に客は誰もいない。
◯◯:あの、誰かいませんか?
呼びかけても返事はない。
さくら:ちょっと待ってみたら?
◯◯:そうだね、せっかくだし本でも見てるか。
急に大勢が店内に入ったため、
少し店内の温度が上昇した気がする。
そんな中、
俺たちは置いてある本を物色していた。
菜緒:その、レオンくんを召喚した本はどこにあったの?
◯◯:これは、あっちの棚の奥の方にあったんだ。何か魔力を感じてさ。
すると、店の奥から人が現れる。
??:いらっしゃ〜い…って、多いな。
おそらく50代くらいの
白髪混じりで眼鏡をかけた男性。
◯◯:あ、店員さんですか?
??:そうだよ、店長だけどね。
◯◯:そうでしたか。あの、この"本"をこの店で買ったんですけど…これってどこで仕入れたりとかって覚えてますか?
店長:見せてみ?
店長に本を差し出すと、
本と俺を往復しながら見始める。
店長:君だったか…
◯◯:どういう意味ですか?何か知ってるのであれば、教えて欲しいんです。
店長:君たち、"魔術師"だね?
ーーーーーー
遥香:意味が分かりません、私たちが魔術師なん…
明里:何で分かったんですかぁ!?
聖来:ちょっと丹生ちゃん!
さくら:菜緒ちゃん、"読める"?
菜緒:何でだろう、上手くいかない…
◯◯:あなた、何者ですか?
店長:困ったなぁ〜、悪者みたいな目で見ないでよぉ。僕も君たちと同じく魔術師なんだよ。
全員:えー!?
店長:"元"魔術師だけどね、僕は反転世界の暮らしがあんまり好きじゃなくってさ。こっちでこじんまりと本売ろうかなって。
◯◯:じゃあ、この本は反転世界から持ち出したものなんですか?
店長:詳しいことは後で。今日は閉店にしようか、あっちで話をしよう。
遥香:いくら何でも、信用できません。
店長:そうかい?でも、そこの子が僕の心を読めないのは、僕が魔法で阻害をしてるからなんだよ?
菜緒:そんなことが…
店長:頼むよ、僕が知ってることは全て教えてあげるからさ。
聖来:店長さんもああ言っとるんやし、悪い話ではないと思うで?
さくら:私も、店長さんは悪い人ではないと思う。
◯◯:遥香さん、ここは店長を信じよう。
遥香:…みんながそう言うなら、分かった。
店長:ありがとね、じゃあ外に結界を張ってくれるかな?
◯◯:了解です、みんな協力して。
全員:"結界、展開"。
ーーーーーー
店を取り囲むように結界を張る。
そして店の奥に進んでいく
店長に着いて行くと、
1つの扉の前に来た。
店長:ここは、僕の書庫だよ。"解錠魔法"〜
店長が手を叩くと、重そうな扉が開き、
下に続く階段が見えてきた。
店長:はーい、着いて来てね。
階段を降りた先の地下室には、
煩雑に大量の本や資料が
積み上げられていた。
店長:こいつらが、僕が反転世界から拝借したものさ。まぁこっちで暮らしてるとはいえ、たまーに恋しくてね〜。
◯◯:早速ですけど、この本について知ってることありませんか?
店長:それは妖霊が封印されていた本でしょ?
◯◯:その通りです。
店長:本当は誰にも売るつもりなかったんだけどさぁ。僕がうっかり棚に置いちゃったのを、バイトの子が売っちゃったみたいで。
◯◯:あの、高校生くらいの女の人ですか?
店長:そうそう、で、その本がどうかした?
聖来:◯◯は、それで妖霊をホンマに召喚したんですわ。
店長:本当に?なかなかやるね、君。それから?
◯◯:その妖霊から「〈四元徳〉正義」のラプソディを貰いまして…
店長:「四元徳」!?…さらにすごい話になってきたね。
さくら:レオンは、今いないの?
◯◯:前の調査で疲れちゃったみたいで、まだ返事がないんだよ。
店長:実は「四元徳」の伝説については、僕も興味があってね、資料は結構あるんだよ。
明里:本当ですか!?やったぁ!
菜緒:これで調査が進むね。
遥香:うん…
店長:あ、これこれ。このファイルは、僕が反転世界にいたときに集めてた、四元徳に関しての資料たちなんだけどね。
差し出されたファイルに、
目を通す俺たち。
店長:みんな、四元徳の伝説は知ってるかな?
遥香:「正義」と「知恵」が反乱を起こし、「勇気」と「節制」に鎮圧された…
店長:その通り。でも四元徳それぞれの能力についてとか、その後について記述された文書は少ないんだ。
菜緒:全て揉み消されるほど、禁忌のお話にされたってことでしょうか。
店長:そうかもね。そしてその資料は、僕が独自に集めた四元徳の"能力"についてのものだよ。
ーーーーーー
さくら:「節制」、"慈愛"の心にて生み出されん。その鎖で"高潔"成らざるものを制す。すなわち、愛ある心に宿りたり。
聖来:「知恵」それは元凶。森羅万象を見通したる"叡智"、物質の創造・破壊をしたる"賢慮"をもたらす。
◯◯:「正義」すなわち理想。"匡正"は他を生かすべし、それ表すはこの世の理なり。真の力を追い求めんとき"報復"を与える。
明里:「勇気」はどこに行っちゃったんですか〜?
店長:僕も身を粉にして調べたんだけどね、勇気に関しては何も情報が出てこなかったんだ。
遥香:だとしても、これだけの情報をどこで集めたんですか?
店長:反転世界は、君たちが思ってるよりずっと広い。この原始の魔術師と呼ばれた人たちのルーツを辿ることで、情報があったりしたんだよ。
遥香:そうですか…
店長:そして戦争の後のお話が記述されてあるんだけど、みんなは戦争の終わりは分かる?
菜緒:「節制」が、全ての四元徳を封印したと…
店長:そうだね、そして僕はその封印の地を突き止めたんだ。
◯◯:どこですか?
店長:えーとね、地図のここだよ。"魂の地"。
さくら:聞いたことありません…
店長:だろうね、ここは秘境のような場所だし、誰も立ち入ろうとすらしない深い森の奥地にあるんだよ。
明里:行ったんですか!?
店長:僕にはそんな勇気も力もなかったからね…残念ながら。
聖来:そりゃそうやろなぁ、森に入ることすら嫌なのに。
店長:でね。ここからは僕の考えで、その"魂の地"にはもっと記録が残ってるんじゃないかって。
◯◯:「節制」が本当にこの地で息絶えたなら、それもあり得ますね。
店長:あとは…僕がその場所を突き止めたあたりで思いついたことがあって。「勇気」に関する記述が無いのも、もしかしたら偶然ではないのかなってね。
遥香:どういう意味ですか?
店長:ん~、「勇気」は戦死したという伝説が残っているように、「勇気」の力はそこで失われたと思うんだ。でも「知恵」も「正義」も戦死したそうじゃないか。
さくら:そうだと、私たちも認識しています。
店長:そこで僕はこう思った。「勇気」以外の四元徳は、まだこの世に存在するってね。
ーーーーーー
続く。