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坂道狂詩曲 第1楽章
何の変哲もないある春の日、
「行ってきます」
そう言えば、キッチンの方から必ず母親の
「行ってらっしゃい」が聞こえる。
学ランを纏いリュックを担ぎ、
玄関のドアのレバーに手をかける。
"反転"
心で唱えドアを開けると、そこには…
"現実世界"ではない、
"反転世界"が広がっている。
この世界には"魔術師"が存在する。
現実世界で暮らす"人間"、
反転世界で暮らす"魔術師"。
違いは、魔力を感知・使用できるか否か。
俺たち魔術師は"魔法"を使うことができる、
魔法で白い制服に着替え"学校"に向かっていると、
いつも通り声をかけられた。
??:おはよ、◯◯。
◯◯:おはよう、"さく"。
小走りで俺の横に並んできたのは、
幼馴染の"遠藤さくら"。
俺と同じく"人間"の魔術師。
魔術師にも代々魔術師の家系に生まれた者、
人間だが魔力を感知できる者がいる。
俺達は後者の方、
人間なのに感じなくていいものを感知できてしまう。
昔はかなり苦労したっけな。
さくら:何かクマできてるけど、大丈夫?
◯◯:ちょっとまぁ、色々あって。
昨日はそりゃ大変だった。
空き地で外から見えないように結界を張り、
魔法陣を描いて召喚術を詠唱して。
そして召喚した妖霊が、
あんなに頭のイカれた野郎だったとは。
しかも「ラプソディ」を与えるなんて、
クソみたいな嘘言いやがって。
さくら:今日、何の授業あるの?
◯◯:ん?別に大した授業ないけど。
俺達が向かっているのは"魔術学校"。
反転世界にあって、
魔術師が魔法・魔術を学ぶために通う学校。
現実世界の学校と同じく、小中高と存在する。
基本的には何も変わらない。
人間の家庭に生まれた魔術師でも、
現実世界と辻褄が合うように魔法が働き、
親に魔術師であるとバレることなく安心して通える。
俺達の学校は"アレゴリア魔術高等学校"だ。
魔術学校の中でも割と頭が良く、
名門校と評価されている。
そのため、優秀な魔術師の学生が多い。
さくら:"大した授業ない"って…いいなぁ
◯◯は頭が良くて。
◯◯:さくだって優秀だろ。
そうこうしてる間に、学校に到着した。
ーーーーーー
さくら:じゃあ、今日も一緒帰ろ?
◯◯:分かった。
さくらはそう言うと、
2年C組の教室に入っていった。
そして俺は2年B組に入る。
そして、特に面白みもない1日が終了し、
クラスごとのミーティングの時間となった。
担任の"西野七瀬"先生が喋り始める。
七瀬:今日もお疲れ様。みんな知ってるだろうけど、1週間後に"模擬戦"があります。
"模擬戦"とは、
生徒同士がクラス対抗で魔術を使って争うイベントだ。
七瀬:夏休みに入る前に"学校対抗魔法・魔術大会"があって、それに向けて模擬戦を2回行う予定です。なので、これからこのクラスの"選抜者"を決めようと思います。
勝手に決めてくれよ…
七瀬:じゃあみんな並んで、1人ずつ魔法を見せて下さい。
男1:せんせー、全員ですか〜?
七瀬:全員。"発現者"も"非発現者"も。
…魔術師には"発現者"と
"非発現者"がいる。
"発現者"とは、
ある能力「ラプソディ(Rhapsody)」を身につけた魔術師のこと。
先天的に能力をもつ
先天的発現者「プライム(Prime)」と、
様々な事由により後天的に能力を獲得した
後天的発現者「オブテイン(Obtain)」に分かれる。
「ラプソディ」については今後解説するとして、
あの妖霊は、俺に「ラプソディ」を与えるという分かりきった嘘をついてきたのだ。
…そんな訳ない。
つまり、雑魚の俺には縁のないイベントってことだ。
観戦してるだけで十分。
七瀬:では、大会のルールを発表します。
ーーーーーー
〈模擬戦試合要項〉
・A、B、C各クラスはそれぞれ5人のチームを選抜する。その内2人を非発現者、3人を発現者とする。
・総当たり戦とし、対戦順はA対B、B対C、A対Cの順番とする。
・出場順を各チームで決定しそれぞれ一対一で試合を行う。奇数番手を発現者、偶数番手を非発現者とする。条件を満たしていれば出場の順番を変更することができる。
・選手の欠場によるチームメンバーの補完は認めない。
・試合は戦闘用バーチャル空間で行い、光子で構成した実体と意識をリンクし対戦を行う。
・各選手は同クラスの選手以外の生徒から、1人のサポーターを選出することができ、前日までの付き添いをさせることができる。
〜勝敗に関して〜
・制限時間は1試合15分、延長はない。
・勝敗は、各チームの"勝ち点"が多い方を勝利とする。
・どちらかが戦闘不能または戦闘続行不能になった時に判定を行い、勝者のチームに勝ち点1を与える。
・制限時間ないに勝敗が決まらなかった場合、引き分けとして両チーム共に勝ち点は与えられない。
・対戦相手が欠場した場合、出場した方のチームに勝ち点1を与え、直ちにその番手の試合を終了する。
・5番手の試合の終了後、両クラスの勝ち点が同点だった場合、各チームから1名ずつ選抜し代表戦を行い、その勝敗でクラスの勝敗を決定する。
・代表戦に制限時間はなく、勝敗が決するまで試合を行う。
・3クラスの勝敗の数が同じだった場合、各クラスの合計の勝ち点数で勝敗を決する。
・合計勝ち点も同点だった場合、各クラスの代表者3名による同時代表戦を行い、そこでの勝敗で、チームの勝敗を決する。
ーーーーーー
一列に並んだ生徒達が、
順番に魔術でデコイに攻撃をしていく。
特に"発現者"の男子は相当張り切っている。
発現者同士の戦闘は、
模擬戦の醍醐味と言っていいだろう。
模擬戦は、意識とリンクさせ自分の体のように扱える、
光子で構成された実体を用いて戦う。
つまり、バーチャル空間で頭が吹っ飛び腕が千切れて
戦闘不能になっても、実際に死にはしない。
選手は死ぬことを恐れず、
持てる全ての力を出し尽くし試合に挑める。
その姿は、正直、とても見応えがある。
…そんな"死なない"戦闘経験が、
実際の戦闘の役に立つのかは、言わないお約束。
どのクラスも発現者と非発現者の割合は半々くらいで、
実力がモノを言うこのイベントに選抜され出場することは、相当名誉らしい。
しかも"サポーター"として、
意中の異性を指名できるなんてきたら…
もう男子は黙っちゃいない。
ほら、いっつも寝てる野郎共もここぞとばかりに
自慢の魔法を放っている。
終わった後のドヤ顔ときたら、本当にムカつく
…頭お花畑の変態共め。
非発現者も出場の機会はあるのだが、
俺は別に戦いたくもないし。
…勉強だけさせてくれ。
人を傷つけるために、
魔術師になりたいんじゃないんだよ。
俺の前の男子生徒が流水の魔法を発動し、
見事デコイを破壊する。
そしてガッツポーズをしながら、
自分の席へ戻っていく。
次は俺の番…
ーーーーーー
七瀬:次、"神代◯◯"くん。
◯◯:…はい。
選ばれたくないから、デコイからわざと外すか?
でも先生は一流の魔術師、
そんな小細工すぐにバレる。
叱られたりやり直しなんかさせられる方が、
めんどくさい。
ここは、平凡な火炎魔法でさっさと終わらせよう。
俺はデコイに向けて、手の平を出す。
そして魔法陣を展開する。
◯◯:はぁ…"火炎魔h…
??:おい!何フツーの魔法撃とうとしてんだよっ!!
…ん?
聞こえてはいけない"声"が聞こえた気がする。
??:お前には"コレ"があるだろうよ、ほら、お手を拝借っと!
すると、
魔法陣から出たのは炎なんてものではなく。
…純白に輝く"剣"だった。
そして勝手に、俺の手はそれを掴む。
◯◯:……は?
クラス:……!?
次いで、俺の体はその"剣"を縦に振るう。
その結果が生み出したものは…
音もなく真っ二つになるデコイと、
全員が息をするのを忘れたかのような静寂。
そして、剣を振り下ろしたまま固まる俺と、
??:良くできましたぁ〜っ!!
俺の脳内に響き渡る、忌々しい声。
ーーーーーー
続く。