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坂道狂詩曲 第2楽章

…"剣"が消滅する。

◯◯:あ…い、以上です…

空気に耐えられなくなった俺は、

クラスメイトの視線を浴びながら
自分の席に戻る。

七瀬:…はい、次。

先生は顔色1つ変えずに、選抜を続行している。

席に着くと、

俺の隣の席の生徒も例外ではなく、
不思議そうに俺を見つめる。

◯◯:…何か?

??:あ、いえ…

言葉を濁し俯くこの人は、

"小坂菜緒"さん。

第2楽章 菜緒

2年で初めてクラスが一緒になり
隣の席だが、話したのはこれが初めてだ。

"小坂さん"はいつも無口で、
他の生徒と話している姿を見たことがない。

うろ覚えだが、
新学期最初のホームルームの自己紹介で、
"発現者"だと言っていた気が。

七瀬:これで全員ですかね、じゃあ今日は帰って良いですよ、お疲れ様でした。

クラスメイトが帰りの支度を始める。




ーーーーーー




あの"声"は何だったのか、
聞き覚えがある気がする。

…まさか!!

あの"妖霊"か?
確か「一方的に意識に介入できる」
みたいなことを言っていた。

クソッ…あの野郎…俺を操りやがって!!

帰りの準備もせずそんな事を考えていた俺。
辺りを見渡すと、クラスメイトは既に帰っていた。

しかし隣の席には、
本を読んでいる小坂さんの姿があった。

◯◯:あの…小坂さん、帰らないんですか?

菜緒:いつも放課後は本を読んでいるので…

教室に2人きり。

流石に居づらくなり、急いで帰りの支度を始める。

菜緒:神代さん、"発現者"だったんですね。

◯◯:え?…いや、あれは違くて…

菜緒:違うなら、"武器"を召喚できませんよ。

そう、魔法の杖以外の武器を召喚できるのは
発現者だけだ。

◯◯:小坂さんこそ、"発現者"でしたっけ。

菜緒:…はい、一応。

◯◯:どんな"能力"なんですか?

菜緒:……教えられません…ごめんなさい。

◯◯:…そうですか。俺は自分の"能力"がまだハッキリ分からなくて。そもそも"能力"なのかも定かではなく…小坂さんは模擬戦、出たいですか?

菜緒:私、争い事に関わるのは好きじゃなくて。

◯◯:あ、そうなんですね。

菜緒:あの、"誰か"とお帰りになるんじゃないんですか?

◯◯:"誰か"?……あっ!!

しまった…完全に"さく"の事忘れてた。

◯◯:そ、そうでした!…ありがとうございます!じゃ、また。

俺は急いで教室を出ていった。




ーーーーーー




校門前、

さくら:遅ーーーーーーーいっ!!!!

第2楽章 さくら

◯◯:ごめんっ!

頬を膨らませたさくが仁王立ちしていた。

さくら:女の子を待たせるとは何事か!!

◯◯:ごめんって!

何度も頭を下げる俺。

さくら:ふんっ…もういいから帰ろ!

そして歩き出す2人。

歩き始めてからちょっと経って、

◯◯:さくは模擬戦出れそう?

さくら:出れないよ…私より全然強い人いっぱいいるし。

実はさくは、"発現者"だ。

しかも生まれつき発現した、いわゆる
先天的発現者「プライム」である。

人間かつ「プライム」というのは中々珍しいらしく、
学校内でもそれほど聞いたことがない存在だ。

「ラプソディ」とは、
発現者が保有する、一般的な魔術とは一線を画した強力な魔術能力のことである。

そして「ラプソディ」は以下のように分類されている。
・愚者
・魔術師
・女教皇
・女帝
・皇帝
・教皇
・恋人
・戦車
・隠者
・運命の輪
・力
・吊された男
・死神
・悪魔
・塔
・星
・月
・太陽
・審判
・世界

分類こそされているものの、
同じ分類でも発現者により"能力"は様々である。

そして、

さくは「教皇(Hierophant)」の発現者。

さくら:◯◯は?

◯◯:その事で気がかりがあって、ちょっと今から付き合ってよ。

さくら:ん?…良いけど。




ーーーーーー




そして、前と同じ空き地にきた俺達。

◯◯:一緒に結界張ってくれない?

さくら:結界って、そんなの張って何するの?

◯◯:"妖霊"を召喚する。

さくら:えっ!?…◯◯、本気なの?危ないよ!!

さくの言う通り、
"妖霊"の召喚は極めて危険な行為である。

"召喚術"自体が高度な魔術で
完璧に魔法陣を描き適切に呪文を詠唱した上で、
魔法陣内に妖霊を拘束しないと、

召喚者の命はない。

アイツらも好きで召喚されている訳ではなく、
魔術師が隙を見せれば殺しにくる。

妖霊たちは基本的に強大な魔力を持ち、
学生如きが勝てる相手ではない。

ただ、適切に召喚された妖霊は、
召喚者の願いを叶える・保有している能力を与えることで"契約"、

そして"服従"する義務を負う。

それに従わなければ妖霊は死ぬ。

一度"契約"してしまえば、
簡略魔法を唱えることにより瞬時に召喚できる。

また、召喚者か妖霊のどちらかが死亡・召喚者が契約を解除・魔法による拘束不良などの事由によって
妖霊の拘束が解除されるまで、召喚者の戦力となる。

俺は勉強の一環と興味だけで召喚したのだが、
その行為は称賛されるべきでないことは理解している。

◯◯:一度成功した、大丈夫。

さくら:"成功した"!?…もうそれが大丈夫じゃないって!!

◯◯:俺を信じてくれ、頼む。

さくら:……




ーーーーーー




結界を張り、召喚の準備はできた。

◯◯:"召喚「レオン」"

魔法陣が展開され、翼を持つライオンが現れる。

さくら:これが…"妖霊"…

レオン:何だよ〜、また呼び出しやがって。ってか、観客が増えてんじゃねぇか。

さくに向かって、吠えるレオン。

さくら:ひいっっ!!?

さくは俺の背中の後ろに隠れる。

レオン:おぉ〜、可愛いねぇ。どこから来たの?お嬢ちゃん。

◯◯:ふざけるな、さくに手を出すな。

レオン:へいへい。

すると、背後からさくの小声が聞こえる。

さくら:何でこの妖霊、こんなに陽気なの?

◯◯:知らないよ。

レオン:で、要件は。

◯◯:今日のあの"出来事"は何だ。

レオン:し、知〜らね〜。

自分の爪を弄り始めるレオン。

◯◯:確かに、お前の声が聞こえてきた。

レオン:幻聴じゃね?お前らの年頃ならあるだろ、「魂の声が聞こえる」みてぇなの。何つぅの?厨二b…

◯◯:とぼけるな!!…お前、俺に何をした!

レオン:ちょちょいっと"能力"を発動させてやっただーけ。

◯◯:嘘つくな、俺は「ラプソディ」なんか持ってない。

レオン:昨日やっただろうが。お前、あの"光のレイピア"見ても信じねぇのか?

さくら:ねぇ、◯◯、どういうこと…?

◯◯:…

レオン:はぁ…込み入った話になるだろうし、隠れてる奴がビビってるみてぇだから、しょうがねぇなぁ。お嬢ちゃん、好きなものは?

さくら:…みたらし…団子…

レオン:みたらし団子…食いもんか、ちょっと違ぇな。じゃ、"お前"でいいよ。

そう言うと、レオンは瞬時に姿を変え…

"さく"の姿になった。

第2楽章 レオン

◯◯さく:えっ!?

レオン:こっちの方が、話しやすいだろ?




ーーーーーー


続く。

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