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坂道狂詩曲 第26楽章
周りの木々諸共
粉砕した大爆発の中心には、
妖霊の姿はもう無く
球形に抉れた地面のみが残っていた。
蓮加:やったか…?
さくら:はぁ…はぁ…
さくらの周りの魔法陣は収束し
鎖は全て消え去る。
そしてさくら自身は、
その場にへたり込む。
遥香:さく!
遥香はさくらに駆け寄り、
体を支えるように抱きつく。
遥香:生きてて良かった…
さくら:えへへ…
続いて蓮加もフラフラと
2人に近づく。
蓮加:2人とも、ありがとう。あなたたちが居なかったら、私は死んでた。
遥香:あの、さっきのって…何なんでしょう?
蓮加:さくらちゃん、何か身に覚えはある?
さくら:節制さんに聞いてみたんです、どうすれば良いか…そしたら声が聞こえました…"愛すべきを愛せ"って…
遥香:◯◯くんのこと?
さくら:違うし…//
蓮加:"愛"、"鎖"…さくらちゃん、もしかして石碑に触ったりした?
さくら:はい。
蓮加:手を見せて、"顕現魔法"
蓮加はさくらの手を取り、
手のひらの能力の紋章を浮き上がらせる。
その紋章は、鎖を巻き付けられたような
擦り傷のようなものだった。
蓮加:「節制」だ。
さくら:…え?
ーーーーーー
遥香:「節制」って、四元徳のことですか!?
蓮加は石碑に駆け寄り、
彫られた文字を詠唱する。
蓮加:「節制」、"慈愛"の心にて生み出されん。その鎖で"高潔"成らざるものを制す。すなわち、愛ある心に宿りたり。…間違いない。
さくら:私が…「節制」の発現者…?
蓮加:そうだとしたら、◯◯くんの力を制御できるかもしれない。セイレーンは鎖に繋がれた瞬間、魔力が急激に低下してた。
遥香:確かにすぐに凍結したから、魔力が落ちていた可能性はありますけど、それを◯◯くんに使うとなると…
さくら:◯◯…
蓮加:でもやるしかない、私たちの手札はそれしかないの。
蓮加はさくらの肩を掴み、
目をまっすぐ見つめる。
蓮加:あなたがその鎖で、◯◯くんの"報復"を制御するの。
さくら:でも…
遥香:約束したんでしょ?◯◯くんと。
さくら:うん…
遥香:◯◯くんの事が大事で、好きなんでしょ?
さくら:……うん。
蓮加:なら約束を果たしなさい、これが「節制」があなたにくれたアンサーなんだと思う。
さくら:…はい、やってみます。
遥香:でも史帆さんも居ないのに、どうやって◯◯くんのところまで行くんですか?
蓮加:それは、これを使う。
蓮加は、錆びれた方位磁石を取り出した。
蓮加:これは七瀬先生の指示のもと、史帆が見つけてくれた"ポータル"。これを互いに持っていれば、遠隔で能力を発揮できる。
遥香:じゃあ、史帆さんの「異次元〈Beyond〉」が、これで使えるって事ですか?
蓮加:そう。もし離れ離れになった時に対応するために、七瀬先生が事前に備えておいたの。七瀬先生は、知恵との戦いがこれから始まると予想してたわけ。
さくら:もう始まっちゃいましたよ。
蓮加:そこが問題。誰一人、こんなに早く知恵が仕掛けてくるとは思ってなかった。知恵に私たちの行動を予知されていたなんて、分からなかったからね。
蓮加:あとは史帆を信じて、待つしかない。私たちで、みんなを救いましょう。
さく遥香:はい!!
その瞬間、方位磁石が起動し、
3人の前にゲートが現れた。
ーーーーーー
炎の村に颯爽と現れた菜緒。
◯◯:菜緒…さん?
菜緒:◯◯くん、久しぶりだね。
すると、上空から
史帆が何かを抱えて落ちてくる。
史帆:ヨイショ、お待た〜。
レオン:おいお前、何で知恵を抱えてやがる!
史帆が抱えているものは
ぐったりと力を預ける、
知恵に乗っ取られた
女の子の身体だった。
史帆:成功したみたいだよ〜、嬉しい。
すると、遠くから
男の呻き声が聞こえてくる。
その男は老人の見た目で、
今にも消えゆく炎のような
ぼやけた霊体の姿をしていた。
菜緒:私が「乖離魔法〈超脱〉」という魔法で、分離させました。
レオン:ということは、あの老いぼれオバケが「知恵」ってわけか。
◯◯:でも、そんな事が…
史帆:あのおじいちゃんには未来が見えるんでしょ?でも体は人間と同じ、光の速さには反応できないよん。
レオン:読まれない速度で接近し、乗っ取られた体と奴の魂を分離したのか…頭良いなぁ!
知恵:おのれぇ…っ
知恵は力を奪われ、
立っているのがやっとの状態。
史帆:美月は?
◯◯:それが…
◯◯は倒れる美月と
支える史緒里の方を見る。
史帆:え?…ヤバ!!
菜緒:史帆さん、どうしますか?
史帆:えっと、えっと…とりあえずこの子と美月を病院に連れてく!そんで、聖来ちゃんと丹生ちゃんは?
レオン:知恵のせいで、どっかに飛ばされちまったよ。
それを聞いて、菜緒は目を閉じる。
菜緒:…アレゴリア近くの商店街かと。でも辺りが炎に包まれていて、酷い状況です。
◯◯:今、能力で見たの?
菜緒:うん、おばあさんに特訓してもらってたの。
史帆:よし、じゃあ病院経由で助けに行くよ!じゃあ◯◯くん置き土産置いてくから、あのおじいちゃんをやっつけちゃって!
史帆がゲートを展開すると、
さくら、遥香、蓮加が現れる。
◯◯:みんな…
さくら:◯◯っ!!
さくらは◯◯を見た瞬間、
◯◯に勢いよく抱きつく。
蓮加と遥香は、美月の姿を見る。
蓮加:クソ…遅かったか…
遥香:美月さん…
史帆:蓮加は私たちと一緒に来て!聖来ちゃんたちが危ないの!
蓮加:了解!
◯◯:史緒里さんも、美月さんのそばに居てあげて下さい。
史緒里:しかし…◯◯さんたちが…
◯◯:ここは俺とさく、遥香さんに任せて下さい!!
史帆:史緒里ちゃん。美月にはあなたが必要なの。
史緒里:…仰せのままに。
史帆たちは、美月と女の子の体と共に
戦車に搭乗する。
菜緒:◯◯くん…みんなを助けてっ
◯◯:分かってる。
史帆:◯◯くん、これ方位磁石。持っててね〜
史帆は方位磁石を◯◯に手渡す。
◯◯:方位磁石ですか?分かりました。
史帆:じゃ、レッツゴー
戦車は瞬く間に加速し、
空高く駆けていった。
ーーーーーー
知恵:生意気なぁっ…!
知恵は虚な目で、
俺たちのことを睨む。
遥香:◯◯くん。"報復"を使って、美月さんの仇を取って!
遥香さんは俺を見つめると、
覚悟を決めた目で訴えてきた。
◯◯:でも…ここで使ったら、遥香さんたちだって危ない。
さくら:◯◯、私に任せて。
さくはそう言うと、
そっと俺の手を握ってきた。
レオン:おいお前、まさか…やりやがったな?
レオンはさくを見ながら、
興奮した様子で話す。
さくら:うん、私…発現したみたい、「節制」を。
◯◯:え?
知恵:ふははは!…面白い…正義の他に、節制までも現れたか!
レオン:なんかあそこでジジイが盛り上がってるが…節制の力で、◯◯を制御しようって事か。なるほどなぁ。
遥香:そういうこと。
さくら:だから安心して?…◯◯のことは私が止めるから。
◯◯:さく…
遥香:あなたが、この戦いを終わらせるの。
俺は覚悟を決めた。
…これが今の俺の「正義」だ。
◯◯:分かった。
レオン:とはいえ、使い方もろくに知らない節制の力だけじゃ、制御するのは無理だろう。俺が意識の中から補助してみる。
◯◯:頼む。
レオン:"報復"は、お前が真に力を求めた時に生み出される本能だ。自分だけの意思で、引き出してみろ。
そう言うと、
レオンは魔法陣の中に消えていった。
遥香:援護は私に任せて、◯◯くんは好きに暴れて良いよ?
◯◯:うん、ありがと。
ーーーーーー
俺は拳を強く握り締める。
今なら、
使うのを躊躇していたこの力を、
自分のものに
できる気がする。
レオン:今だ…◯◯、全て解き放て。
◯◯:美月さん…必ず俺が仇を取ります。「正義〈報復〉」っ!!
俺の体は
黒く揺らめくオーラに包まれる。
動物的な殺意が湧き出し、
強大な何かに覆い尽くされるこの感覚。
◯◯:うああぁぁぁぁぁっっっ!!!
さくら:◯◯、私が守るからね。
さくは魔法陣から鎖を出現させ、
鎖は手を繋ぐ俺の左腕に巻き付く。
すると、禍々しいものに
覆われたはずの俺の理性が、
少しずつ戻っていくような
俺のものに出来たような
そんな感覚が伝わる。
◯◯:はぁ…はぁ…
遥香:◯◯、大丈夫?
俺が願えば、
漆黒の鎌が俺の手に納まる。
俺が願えば、
身体はいつも通り動く。
左手首に巻き付いた鎖に触れれば、
さくの温もりを感じる。
レオン:よし。やったな、◯◯。
◯◯:うん…いける、これなら!!
遥香:そうこなくちゃね。
さくら:みんなで、終わらせよう!!
知恵:その場しのぎの付け焼き刃か…良いだろう、かかってこい若造ども!!
◯◯:覚悟しろ!原始の魔術師っ!!
俺は鎌を担ぎ、
知恵に向かって走り出した。
ーーーーーー
続く。