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坂道狂詩曲 第17楽章
次の日の放課後、
調査隊の会議が始まった。
七瀬:みんな、調査お疲れ様。今日はその報告をしてもらって、今後の方針を決めたいと思います。
麻衣:じゃあ、2年生から。
◯◯:はい、俺が報告します。最初に言っておくと、俺が本を購入した本屋の店長が魔術師でした。
七瀬:本当に?
◯◯:話を聞いた限り、嘘ではないかと。
麻衣:どんな話だった?
◯◯:まずは、四元徳の能力についての伝承を揃えていました。
美月:これで◯◯くんの能力について、何か分かるかもね。
聖来:そこが問題なんです~、言ってる意味が全然理解できひんかったんです。
菜緒:「正義」すなわち理想。"匡正"は他を生かすべし、それ表すはこの世の理なり。真の力を追い求めんとき"報復"を与える…
蓮加:真の力と"報復"か…
七瀬:確かにいろいろな解釈ができそうな、曖昧な文ね。
◯◯:やはりその"報復"というものが、みんなの言う俺の暴走した能力なのでしょうか。
麻衣:断定はできないけど、そうと見ても悪くはなさそうね。
◯◯:そして「節制」が自らを全ての四元徳と共に封印した場所が、"魂の地"であることを突き止めていました。
史帆:へ?…"魂の地"!?
さくら:史帆さん、何でそんなに驚くんですか?
七瀬:3年生たちにはその"魂の地"について、調査をしてきてもらっていたのよ。
遥香:そうなんですか…?
美月:うん、七瀬さんがある人物からその話題を聞いたらしくて、私たちはその人物に会っていたの。
麻衣:まだあまり詳しい情報は無いし下手に動けないけど、いずれその場所に行くことにはなると思う。
明里:じゃあ、店長はやっぱり正しかったんだね!すごい!
遥香:…そうかもね。
七瀬:確かに、その店長さんの言ってることは、かなり正しい情報なのかもしれない。
麻衣:あとは何か分かったことは?
◯◯:自身が調べた結果から、四元徳の発言者の存在を予見し、炎の村が襲撃されたことを知っていました。
蓮加:神代くんも実際に居るわけだし、その予見は正しかったと、その人も思ったわけね。
史帆:でも、◯◯くんに会う前からそう思ってたんだよね?そんなの想像できるかなぁ。
七瀬:炎の村が焼かれた事実を知っている限り、誰かから情報を得ていることは確かそうね。
◯◯:魂の地に、誰かが侵入したことは、3年生の皆さんの調査で把握していますか?
美月:えぇ。最近、そこに1人の女の子が入り込んだらしくて…
聖来:女の子!?
遥香:女の子…か。
七瀬:特に何もせずに帰って行ったみたいで、炎の村の襲撃と関連づけることは難しいかも。
さくら:ただ、迷い込んだんですかね。
菜緒:でも、やっぱり「知恵」の関連を否定するにはまだ早いかなって。
麻衣:そうね、新たな情報が入り次第、また後日調査の検討をします。
ーーーーーー
それから約1週間が経過。
ある放課後、
美月と七瀬、麻衣は
考古学研究室にいた。
七瀬:美月、ごめんね急に来てもらって。
美月:別に構いませんよ~、それでご用件は?
七瀬:それがね…
麻衣:1週間私たちで調査を続けても、あれから何も新しい情報が出てこないの。
美月:つまり、「知恵」が急に活動を辞めたということですか。
七瀬:何か不可解。1週間もしないうちに村を焼き払い、魂の地に足を踏み入れたと思ったら、次は1週間も沈黙してる。
美月:やっぱり、魂の地に来た女の子は「知恵」の可能性が高いとみているんですか?
麻衣:恐らく、そうだと思うわ。
七瀬:とはいえ、あなたたちを確証もないのに調査に行かせることは危険だし、私たちも下手に動けない。
美月:なら少し待ってみましょ。あちらから絶対にアクションがあるハズです、私も今日に確認したいことがありますし、良い準備期間じゃないですか。
七瀬:そうやな、私たちも考え得る先手は打ってみる。
美月:分かりました。
ーーーーーー
そして放課後。
◯◯と美月・史緒里は丘のふもとで向かい合い、
他のメンバーは離れた丘の上にいる。
聖来:美月さんは何するつもりなんやろ。
菜緒:試合ですかね?
さくら:◯◯が死んじゃう…
遥香:さくちゃん。試合だとしても、そんなことないから安心して。
明里:史帆さんは何か知ってますか?
史帆:ん?私は何も知らないよん。
蓮加:…
美月:◯◯くん、確認したいことがあるの。
◯◯:何でしょうか。
美月:あなたの、真の"能力"を見せて欲しい。
◯◯:…え?…模擬戦の時の、ですか?
美月:そう。
◯◯:無理です。そもそも使い方も知りませんし、使えたとしても美月さんのことを、制御しきれない力で傷つけたくありません。
美月:どうしても?
◯◯:はい、嫌です…すみません。
美月:…◯◯くんなら、そう言うと思ってたよ。でも、ゴメンね。
美月は右手を高く挙げる。
蓮加:…「新星〈Nova〉」
すると、さくら達の後ろにいた
蓮加の狙撃銃から放たれた火球は、
◯◯を的確に捉え、◯◯を中心に
大爆発を引き起こした。
菜緒:…えっ?
明里:えっ、ヤバ!!
史帆:わお。
さくら:蓮加…さん?
聖来:ちょっと、蓮加さん!?…アカンって、これじゃ◯◯が死んでまうやんか!!
蓮加:これが、美月の命令なの。これも◯◯くんのためよ。
遥香:!?…みんな、ちょっと…あれ!
遥香が人差し指で示した方向には、
抉れた地面に立つ◯◯の姿があった。
ーーーーーー
◯◯は地面から這い上がってくる。
その手は確かに、黒い鎌を握っている。
美月:あれが「正義〈報復〉」か。
史緒里:何故このようなことを?
美月: 「真の力を追い求めんとき"報復"を与える」、この意味をずっと考えてたの。私の考えでは、◯◯くんが能力を本当に必要とした時、あの"力"が解き放たれると思った。そうすることが、本人の意思に反しててもね。
史緒里:なるほど、だからわざと◯◯さんを危険にさらしたと。
美月:◯◯くんの能力、「四元徳」について知ることは、私たちにとっての大きな課題。だから、無理矢理にでも確認するしかない。
すると、◯◯は獣のような
雄叫びをあげる。
史緒里:…来ます、ご注意を。
鎌を振り下ろしながら
瞬時に距離を詰める◯◯に対し、
史緒里は美月を守るように前へ出て、
素手で鎌を受け止める。
そしてそのまま鎌を押し出し、
◯◯ごと吹き飛ばす。
美月:史緒里、大丈夫?
史緒里の手の平からは、
赤黒い液体が滲み出ている。
史緒里:なかなかのものですね、気を抜くと私たちが殺されるでしょう。
美月:分かってる、舐めてなんかないわよ。
吹き飛ばされた◯◯は体を起こし、
禍々しい鎌を構え直す。
美月:行くよ、史緒里。
史緒里:かしこまりました。
美月:「月蝕〈Blood Moon〉」
史緒里は黒い霧状に離散し、
その霧は美月の手の平に集合する。
そしてそれは
美月の身長以上の刃を持つ、
刀へと変形した。
ーーーーーー
菜緒:あれが、◯◯くんと美月さんの"能力"…
蓮加:美月は、あなた達の持ち帰ってきた伝承の言葉から、◯◯くんの能力の引き出し方を見つけたの。
遥香:"真の力を追い求める"とき、ですか。
さくら:だから、あんなとんでもない技を出したんですね。
聖来:何やぁ〜、心配して損したなぁ。
明里:明里もすっごいビックリしたよ!
史帆:切り替え早いね〜、2人とも。
蓮加:遥香ちゃんが模擬戦で目の当たりにした、あの◯◯くんの能力は伝承の通りなら、「正義〈報復〉」。
遥香:それじゃあ、美月さんが危ない…
蓮加:心配しないで良いよ、美月は何とかやってくれるよ。
明里:でも凄いですね!史緒里ちゃんが刀になっちゃったよ!
蓮加:あれが史緒里の特異な所なんだよね、自身が武器になって美月の身体能力とリンクする。
史帆:へぇ〜、凄いな。
蓮加:だから、あの能力を解放した美月は、もはや"妖霊"レベル。
ーーーーーー
美月:さぁ、◯◯くん。私が相手をしてあげる。
◯◯:…うあぁぁっっ!!
◯◯の鎌と美月の長刀。
互いにぶつかり合い、
甲高い音を響かせる。
ーーーーーー
続く。