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坂道狂詩曲 第24楽章
ベヒーモスの放つ業火によって、
一面が炎に包まれた商店街。
聖来は瓦礫の中から這い出る。
聖来:あの野郎…ホンマに許さへん…
それに続いて、
ベレトも勢いよく飛び出す。
ベレト:近くに、隠れられる建物があって助かったな。そうじゃなきゃ、俺たち丸焦げだったぞ。
聖来:なぁ、丹生ちゃんはどこ?
ベレト:おい聖来、あそこだ!
ベレトが指差す方向の遠くに、
横たわる明里の姿が見える。
その時、ベヒーモスの咆哮が
鳴り響く。
ベレト:俺が奴の相手をする、聖来は早く行ってやれ!
聖来:頼むで。せーらが行くまで、絶対死んだらあかんで?
ベレト:ふん…任せろ。
ベレトは羽を展開し、
ベヒーモスの居場所を目指して
飛び立っていった。
ーーーーーー
聖来は慌てて、
明里の元へ駆け寄る。
聖来:丹生ちゃん!大丈夫か!?
明里:聖来ちゃん…う、うん…大丈夫だよぉ
聖来が明里の脚を見ると
広範囲に火傷を負っていて、
さらに木片が太腿に
突き刺さっている。
聖来:は?…全然大丈夫じゃないやんか!?
明里:ふふ…ちょっと、脚が動かなくなっちゃった…
こんな状態でもなお、
笑顔を見せて明るく振る舞う明里。
聖来:まずこれ抜くで?
自分のブラウスの袖をちぎった聖来は、
明里の腿に刺さる木片を取り除く。
明里:いっ…!?
そしてすぐに、
血の吹き出す傷口をブラウスで縛る。
聖来:ゴメンな、痛いけど我慢してや。"治癒魔法"
明里:明里こそごめん、聖来ちゃんの足引っ張っちゃってるよ…
聖来:丹生ちゃんのせいやないから、心配せんでええよ。奴にはせーらとベレちゃんが仇を取る、だから…ここでじっとしといてね。
明里:ん…分かったよっ
聖来は明里に微笑み、
その場を離れベレトと合流しに行く。
その途中、聖来は
血のついた右手を握りしめる。
聖来:神が何や…絶対許さへん。
ーーーーーー
魂の地、
呑気に鼻歌を歌うセイレーンの元に、
3人が集合する。
セイレーン:あれ、君たちまだ生きてたんだ。でも、1人減ったね?
蓮加:"お遣い"に行ってもらっただけだ。
セイレーン:さっき空に何か見えたな〜と思ったけど、そういうことか。まぁ1人くらい逃してやっても良いけどね。
遥香:もう容赦しない。
さくら:私たちは、負けるわけにはいきません!
さくらと遥香は、
セイレーンに向かって走り出す。
セイレーン:だからさぁ、もう諦めなって。"雷撃魔法〈打〉"
セイレーンの腕は帯電し、
高速の打撃で遥香に襲い掛かる。
遥香:流石に、キツいか…
連打を何とか受ける遥香だが、
体にダメージが残る状況では、ジリ貧で追い詰められている。
しかし、さくらの横槍と蓮加の狙撃により、思うようにトドメをさせない。
セイレーン:嫌がらせのような動きばっか上手くなっちゃって…これだから…ぁっ!?
その瞬間、セイレーンの脚に
蓮加の銃弾がヒットする。
さくら:逃がさないっ!
さくらの突きは
セイレーンの胸板から切り込み、
肩を貫通して静止する。
セイレーン:うぁぁぁっ…!?
その場に膝を突くセイレーン。
セイレーン:でもねぇ…僕もねぇ…負けたくなんか無いんだよ!
セイレーンはさくらの薙刀を掴み、
さくらごと地面に思い切り叩きつける。
さくら:っっ…!?
更に、うずくまるさくらの
横腹に重い蹴りを浴びせる。
さくら:がはぁっ…
水平に吹っ飛ぶさくらは、
木の幹に勢いよく激突し倒れる。
蓮加:さくらちゃん!
セイレーン:自分の心配しといたほうが…良いと思うけど?"風魔法〈残像〉"
距離を詰める蓮加に、
セイレーンは魔法を唱え対応し
2体に分身する。
蓮加:何?
瞬時に蓮加の前に現れたセイレーンは、
腹にアッパーを決める。
蓮加:ぐぅっ…
のけぞる蓮加に対し、
首を掴み持ち上げる。
蓮加:ク…ソォっ…
セイレーン:勝負アリだね、じゃあ君はまた後で。
セイレーンは乱暴に
蓮加を振り落とすと、分身を解除した。
そして先ほどの連打に耐えられず
思うように動けない遥香の前に、
さくらが落とした薙刀を持って
堂々と立つ。
遥香:まだ、終わってない…
セイレーン:いや、終わりにしようね。
ーーーーーー
レオン:チッ…◯◯、今すぐ退けっ!!
◯◯:お、おう…
それでも対応は既に遅く、
レオンが咄嗟に放つ防御魔法は、知恵の意のままに動く無数の剣により簡単に破られる。
史緒里:2人とも逃げて!
史緒里は、白色のレーザーを放つ。
知恵:時間稼ぎにもならないな。
しかし無数の剣は瞬時に変形し、
鉄の壁となってレーザーを反射する。
史緒里:くっ…!
反射されたレーザーを躱すが、
瓦礫に足を取られ体制を崩される史緒里。
レオン:◯◯の前に、俺が相手だよ。
知恵:黙れ…"暗黒魔法〈歪曲〉"
知恵は◯◯とレオンの間に
空間の裂け目を展開し、
2人の体を容易く引き寄せる。
◯◯:こんなのアリかよ!?
レオン:やべぇな、流石だなぁ!
そして鉄の壁は鉄の格子に変形し、
◯◯とレオンを取り囲む。
知恵:"拘束魔法・改"
その瞬間、◯◯の体に電撃が走り、
立てるほどの力も消耗させられる。
◯◯:うあぁぁぁっっ!?
レオン:おい、◯◯!…あいつ、人間相手に拘束魔法とかアリかよ…
知恵:そこでじっとしていろ、仲間とやらを殺して絶望を知るが良い。善意だらけの"正義"とやらは、誰も助けることなどできん。
◯◯:待てぇっ…っ
知恵は史緒里の方へ向き直る。
史緒里:美月さんには、この私が触れさせません。
知恵:ならば、殺すまでだ。
ーーーーーー
史帆は、蓮加の祖母の家に到着した。
史帆:うわぁ、すごい豪邸〜。
蓮加の祖母の家は、街から離れた山を
切り開いた広大な土地に建てられている。
戦車を引くユニコーンは、
芽実の姿に変身する。
芽実:ほら、菜緒ちゃん忘れてる?
史帆:忘れてないよ〜、菜緒ちゃん探さないとね〜。お邪魔しまーす。
芽実:しまーす!
そのまま史帆たちは家に上がり、
とりあえず中庭に行ってみる。
史帆:あ、菜緒ちゃんとおばあちゃんはっけ〜ん。
中庭には、菜緒と
蓮加の祖母の姿があった。
史帆:菜緒ちゃ…ん?
しかし史帆が見た菜緒の姿は、
離れたところにいる祖母に対して
真剣な表情で掌を向けていた。
菜緒:「乖離魔法〈超脱〉」
すると菜緒の前に魔法陣が展開され、
瞬間的に波動が拡散する。
その波動は何故か心が温かくなるような、
まるで菜緒の心情を反映するような
優しい雰囲気だった。
そして、蓮加の祖母は
微動だにせず受け止める。
祖母:ふほほ、良い出来だこと。それで、お前さんに客が来たようだね。
菜緒:客、ですか?
史帆:お、お邪魔してます〜。
芽実:してます〜!
菜緒:史帆さんに芽実ちゃん、どうしてここが?
史帆:菜緒ちゃんがここに居るって、蓮加が言ってさ〜。
祖母:では、始まったか…戦いが。
史帆:そうです。菜緒ちゃんが必要なんです〜。でも、さっきの魔法って?
祖母:「乖離魔法〈超脱〉」…対象を呪う魔術を消し去る、光の秘術。
菜緒:あの、戦いって何ですか?
祖母:蓮加が言っていた、「知恵」が襲来すると。
菜緒:「知恵」!?…じゃあ調査隊のメンバーが危ないってことですか!?
史帆:うん、ヤバイ。
祖母:だから菜緒、お前にこの光の魔法を伝授したのだ。では私は要らないようだな、ババア要らずで話すが良い。
菜緒:短い間でしたが、ありがとうございました!
祖母:おう、たまにはその調査隊とやらも連れてこい。
蓮加の祖母はそう言うと、
家の中へと入って行ってしまった。
ーーーーーー
史帆:菜緒ちゃんは、ここでずっと稽古してもらってたのぉ?
菜緒:はい。蓮加さんと西野先生に、放課後はここに来るように言われたので。あの、それでみなさんの様子は?
史帆:今、蓮加とさくちゃんかっきーが妖霊と戦ってて、多分美月チームの方は「知恵」と戦ってるかもぉ。
菜緒:そんな…
史帆:助けに行こうにも、どこにいるか分からないんだよね〜。
菜緒:じゃあ、見てみます。「共感〈Empathy〉」
史帆:えぇ!?そんなことできるの?
菜緒:おばあさんに秘術を教わっているときに、制御がもっと上手くできるようになったんです…◯◯くんの心に入ってみます。
菜緒は目を閉じて、
精神を集中させた。
史帆:どう?何か分かったぁ?
菜緒:何かが焼けている匂いと、灰や瓦礫が積み上がってる様子が見えます。
史帆:んー、炎の村かも知れないね〜。でも何でそんなとこに居るんだろ…え?炎の村!?
芽実:みんな本屋さん行ったんだよね!
菜緒:それで◯◯くんの目には、女の子が写っています。
史帆"女の子"か、そういえば妖霊が言ってたな〜。女の子が「知恵」なんだって〜。
菜緒:不思議と、この女の子の意思力を感じません。◯◯くんの時とは違う…何も読めない。
史帆:蓮加とせんせーは、何を菜緒ちゃんに託したんだろう。
芽実:でもさ、知恵って昔の人でしょ?何で女の子?
史帆:…あ、それだ。
菜緒:何か作戦が浮かびましたか?
史帆:女の子がもし〜、知恵に乗っ取られていたとしたら?
菜緒:意思力を感じないことは、辻褄が合います。
史帆:蓮加とおばあちゃんは、そのために菜緒ちゃんに託したんだよ!その力を!
菜緒:私の力で乗っ取られた女の子の体と、中の知恵の魂を引き剥がす、ということですか…
史帆は菜緒の肩を勢い良く掴む。
史帆:菜緒ちゃんにしかできないっ!!
菜緒:私が助けになるなら、私は何だってやります!
芽実:でも、知恵は未来が見えるんでしょ?これも読まれてたとしたらどうすんの?
菜緒:え、そうなんですか…?
史帆:バレないと願うしかないっ!!行くよぉ〜!!
菜緒:ふふ、史帆さんらしいですね。
芽実はユニコーンの姿に戻り、
戦車の前に立つ。
それに続いて、史帆と菜緒は
戦車に搭乗する。
ーーーーーー
祖母:お前たちのやるべきことが、分かったみたいだね。
その時、中庭の入り口から
蓮加の祖母の声が聞こえた。
菜緒:はい、私のこの力で…◯◯くんやメンバーを助けたいんです。
祖母:では行け、武運を願う。
史帆:じゃあ芽実、光速で炎の街に直接行くよ〜。
芽実:りょか〜い。
史帆:チャンスは一瞬。知恵に接近するから、菜緒ちゃんは知恵から女の子を救ってあげて!
菜緒:分かりました、「乖離魔法〈超脱〉」!
史帆:じゃ行くよ〜、「異次元〈Beyond〉」
菜緒が魔法陣を展開し
史帆がゲートを開くと、
耀の戦車は
ゲートに向かって駆け出した。
ーーーーーー
続く。