坂道狂詩曲 第4楽章
"模擬戦"2学年の部、第1回戦当日。
前室にて。
菜緒:初戦、頑張ってね。ここから応援してます!
◯◯:うん、ありがと。
…俺と小坂さんが前室に2人っきり。
何故こんな状況になっているのか。
それは、模擬戦開会の初日に遡る。
ーーーーーー
"模擬戦"開会、初日。
学校中、さらには教室までも装飾され、
廊下や外のバザー会場は
生徒の楽しそうな声でガヤガヤしている。
まさに、イレギュラーな雰囲気の中、
…今年第1回目の"模擬戦"が始まった。
初日からの3日間は1学年の3試合が行われ、
大勢の生徒がそれを観戦している。
我々2年B組の選手達は、
屋上で作戦会議をしていた。
会議といっても、1回戦目の出場順や勝ち点の取り方などのシミュレーションをした後は、ただのお喋りタイム。
男1:なぁ神代は何のラプソディなんだ?
◯◯:それは…まだ分からないんだ。
男2:そういう事もあんだなぁ、まぁ初戦1番手、頑張れよ!
そう、俺は2学年の試合の
"トップバッター"を任されてしまった。
男1:で、"サポーター"は誰にしたんだ?
◯◯:それもまだ…
でも実は、誘おうと思っている人はいる。
男2:もったいねぇ、俺はあの子と…ふへへ…
非発現者代表の女子2人が引き始める。
◯◯:はぁ…
ーーーーーー
試合会場に行くと、
スタンド席通路の手すりに肘をつき、
1人で観戦している小坂さんがいた。
◯◯:小坂さん。
菜緒:あ、神代さん…
◯◯:ちょっとお時間、良いですか?
菜緒:?…はい。
不思議そうな顔をして
俺の後ろをついてくる小坂さん。
そして、人気のない階段の踊り場に着く。
菜緒:あの、何か?
◯◯:えっと…も、もし良かったらで良いんですけど…
菜緒:…
◯◯:俺の"サポーター"になってくれませんか?
菜緒:へっ!?
驚きを隠せていない表情の小坂さん。
菜緒:あ、あの…そ、それって…//
ほんのり、顔を赤くする。
◯◯:あ!!いや、違くて!!…あの〜、何て言うのかな。小坂さん"治癒魔法"得意みたいだし?俺がぶっ倒れた時とか対処して欲しいっていうか…
自分でも分かる。
完全に脳がパニクっている。
菜緒:そんな否定せんでも…
◯◯:ん?…何か言いましたか?
菜緒:あ、いえ。えっと…私で良ければ…
◯◯:本当ですか!?…ありがとう!!
つい小坂さんの手を取り握って、喜んでしまう俺。
菜緒:…//
俺から目線を外し俯く小坂さん。
◯◯:あ…ご、ごめんなさい。
俺は咄嗟に手を引っ込める。
◯◯:あの俺達、何もお互いのこと知らないし。明日、一緒に学校周りませんか?
明日はさくはクラス内で
作戦会議するって言ってたし、
小坂さんと2人でいるのがバレて
冷やかされることもない。
菜緒:分かりました。じゃあ明日、教室前で待ってますね。
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そうして小坂さんを
"サポーター"として登録し、翌日。
2日目の日程が開始しB組の教室に行くと、
小坂さんが待っていた。
◯◯:お待たせしました。
菜緒:いいえ、今日はよろしくお願いします。
◯◯:じゃあ、とりあえず大会会場行きましょうか。
会場に行くと、これから初戦が始まるらしく、
もう歓声が行き交っていた。
試合が始まると、小坂さんは昨日と同じく
キラキラした目で観戦していた。
◯◯:小坂さん、"模擬戦"見るの好きなんですか?
菜緒:はい!とっても大好きです!!
今まで見たことがないハイテンションで、
高速で頷く小坂さん。
◯◯:そんなにですか。
菜緒:皆さんとってもカッコいいんですよ!例えばB組の今出てる選手!流水魔法と自分のラプソディを混ぜて、人には真似できない大技を繰り出すんです!
急に早口で語り始める小坂さんに、
呆気に取られてしまう。
菜緒:…あ、ごめんなさい。私、うるさいですよね…
◯◯:いえ、逆に安心しました。
菜緒:え?
◯◯:小坂さん物静かな印象でしたし、何が好きとかも分からなかったけど…本当はこんなに喋る人で純粋に"魔法"が好きなんだなって思ったら、親近感が湧いてきて。
菜緒:……
◯◯:良い意味で、"普通の女の子"だなって。
菜緒:ふふっ…そうですかね。
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その後も、
小坂さんの解説と共に後輩の試合を観戦した。
もう後輩とは思えない程、どれも圧巻だった。
…俺、あんな人達と戦うのか。
試合観戦後は、
バザーに行ってクレープを一緒に食べたり、結構楽しかった。
◯◯:今日はありがとう。試合本番もよろしくね。
菜緒:こちらこそ、ありがとうございました。
◯◯:じゃあさ、敬語なくそう?俺達、同級生だしさ。
菜緒:…う、うん。でも急にはちょっと…
◯◯:俺も、急にはなくせないけど、徐々にね。
菜緒:分かった。私、本番は神代さんのために全力を尽くしますね。
◯◯:ありがとう、俺も頑張るよ。
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そして、時は大会本番に戻る。
スタッフ:ここが、神代さんの前室になります。
◯◯:親切にありがとうございます。
菜緒:ありがとうございます。
スタッフ:これが今日の試合の選手名簿です。試合開始までは1時間あるので、自由にお過ごし下さい。
◯◯:分かりました。
スタッフは一礼をすると、部屋を退出した。
◯◯:よし、じゃあ荷物置こうか。
菜緒:うん。
前室はまぁホテルみたいなもので、
椅子だったり机だったりベッドだったりが設置してある。
そして、観戦用の大きなモニターが展開されている。
俺はリュックを下ろし椅子に腰掛けると、
選手名簿に目を落とす。
"神代◯◯"
"2年B組"
"ラプソディ 不明"
このような感じで、
両組の総勢10名の詳細が書かれている。
"不明"っていうのが、無駄に強キャラ感出してるし、
明らかに俺と釣り合ってないんだよ。
ふと小坂さんに視線を向けると、
リュックを持ったまま決まりが悪そうに立っていた。
まぁ無理もない。
男と2人っきりで個室に居るなんて、
そりゃ少し知り合いとはいえ気まずいだろう。
◯◯:小坂さんもゆっくりして?好きに過ごしてて良いからさ。
菜緒:あ、うん…何だか私まで緊張しちゃって…
◯◯:そうだったんだ。
小坂さんはやっと、ベッドの隅に荷物を置いて腰掛ける。
菜緒:こんな大きいモニターで、試合観戦できるんですね。
◯◯:何か恥ずかしいな…本当にテレビ中継みたいじゃん。
菜緒:確かに、そうだね。
◯◯:あ、そうだ、さっき出店でカップケーキ買ってきたんだけど、食べよ?
菜緒:貰っていいの?
◯◯:もちろん。
俺の向かいの椅子に座る小坂さん。
そして、カップケーキを頬張る。
菜緒:私も、選手名簿見て良い?
◯◯:うん、どうぞ。
初戦がもうすぐ始まる…
全力でぶつかるしかない。
ーーーーーー
続く。