坂道狂詩曲 第6楽章
模擬戦第2回戦当日、
男1:なぁ、神代"大将"いけるか?
◯◯:な!…なんで俺が!?
男2:そりゃあ昨日勝ったのお前だけだし?"賀喜さん"に対抗できるのお前だけっていうか?
男1も大袈裟に頭を縦に振る。
だめだコイツら…
昨日の丹生さんの試合が、
トラウマになってやがる。
まぁ、その気持ちも分かる。
あんな圧倒的なパワーを見せつけられたら、
誰でも戦意は失う。
◯◯:はぁ…分かったよ…
そして俺の試合前10分前の前室。
小坂さんは興奮を隠せない様子だ。
菜緒:凄いよ神代くん!"賀喜さん"と戦えるなんて!
選手名簿をブンブン振り回し、そう語る。
試合を観戦するのは、本当に好きなんだな。
先程小坂さんが解説してくれたので、それを整理しよう。
対戦相手2年C組には、"3強"のうち2人が在籍している。
その内の1人、3番手の"早川聖来"さん。
確か、さくがサポーターについている人だ。
ラプソディは「悪魔(Devil)」で、
魔術師の家系に生まれた後天的発現者(オブテイン)である。
紫紺の双剣を用いた無慈悲な連撃で、
相手を圧倒する。
笑みを浮かべながら戦う様子は、
まさに「悪魔」。
そして残るは"大将"、"賀喜遥香"さん。
ラプソディは「女帝(Empress)」、
魔術家生まれのプライム。
氷を操る能力を使った多彩な戦術で翻弄し、
その実力は2学年"最強"と言われる。
…つまりだ。
俺はその賀喜さんとこれから戦うのだ。
どうやら、今日が俺の命日らしい。
しかもC組は優勝候補と言われ、現状勝ち点は0対2。
大将戦を待たずしてB組は敗北し、
実質大将戦は消化試合となっている。
そしてスタッフからスタンバイの声がかかる。
◯◯:じゃあ、行ってきます。
菜緒:神代くんなら大丈夫!頑張って!
小さく両手でガッツポーズをして
見送ってくれる小坂さん。
こう改めて見ると…小坂さんって可愛いな。
さくも可愛いけど、
それぞれ違った"可愛さ"っていうか。
菜緒:…//
何で急に照れたのかは知らないけど、
俺はリンクルームに向かっていった。
ーーーーーー
試合場に入場すると、
同時に逆側から"賀喜さん"が入場してくる。
一気に湧き上がる会場の歓声。
2人揃って、開始戦にたどり着く。
…もう、やるしかない。
審判:2年B組対2年C組、最終戦。制限時間15分、初め!!
開始から数秒経ったが、賀喜さんは俺を見たまま動かない。
レオン:おいおい…お前、舐められてるぞ?
◯◯:そりゃ賀喜さんは"最強"の実力者だぞ?
レオン:腹が立つ…生意気なメスガキめ。えぇぃ、代われぇっ!俺が直々に成敗してやる。
◯◯:はぁ…そうくると思ったよ。
◯◯レオン:「正義〈匡正〉」
純白のレイピアを召喚し、俺は賀喜さんに斬りかかる。
すると、
遥香:「絶晶氷壁」。
その瞬間、賀喜さんの腕には"氷の盾"が形成され、
剣を受け止める。
遥香:手加減はしません。
◯◯:俺もそのつもりです!
そう言うと横から氷の柱が迫ってきたため、
俺は後ろに飛び退き直撃を回避する。
しかし、回避場所を読まれたのか、
足元から氷の刃が出現する。
◯◯:なっ!?
再度、咄嗟に回避をするが…
俺の目の前には賀喜さんの足があり、
そのまま胸にクリーンヒット。
◯◯:うぅっ…!?
数10メートル吹き飛ばされる俺。
その頃、聖来の前室では、
試合終わりなのに疲れを全く見せない聖来と、
さくらがモニターで観戦していた。
聖来:アカン、かっきー本気出してる。
さくら:えっ!?
聖来:神代くん、ご愁傷様やなぁ…
さくら:どっち応援したらいいの…
ーーーーーー
更に盛り上がる試合会場の中、
俺は賀喜さんに攻撃を仕掛け続けるが、
的確にいなされ距離を離される。
◯◯:クソっ…どうすれば…
地面から氷の刃が生える。
それを避けようとするが、
氷は目の前で急に炸裂し氷塊が飛び散る。
◯◯:えっ…?
俺が怯んだ隙に、
賀喜さんは一気に距離を詰め盾を後ろに引く。
遥香:…
そして勢いよく盾を薙ぎ払い、それは俺を的確に捉える。
◯◯:っッ……!!?
もはや声も出ないほどの鈍い痛みを感じ、
大きく吹っ飛び倒れる。
レオン:ダメだこりゃ、あの女強ぇわ。
◯◯:ゲホッ…ゲホ……諦めてんじゃ…ねぇよっ。
レオン:俺がいくら頑張ろうが、実力はお前そのものなんだよ。お前も知ってるだろ?ラプソディの強さを決めるのは、そいつの実力だけなんだよ。
その通りだ。
ラプソディは様々に分類されてはいるが、
それらに格や優劣はない。
いわゆる"強さ"を決めるのは、発現者自身の"実力"のみだ。
レオン:って言うわけで、俺はお手上げだ。バイバ〜イ。
◯◯:てめぇ…勝手に帰るなっ…
レオンの声が途切れた。
仕方がない、1人で試合を続行するしかない。
◯◯:うおぉぉぉっ!!
俺はレイピアを構えて突っ込む。
だがもちろん攻撃を与えられるはずはなく…
遥香:急にどうしたの?素直に突っ込んできて。
その瞬間、腹部に鋭い痛みを感じる。
氷の刃が突き刺さっているようだ。
刃は消滅し、光子が傷口から溢れ出る。
◯◯:う…ぐ…
遥香:これで終わり。
その場に倒れる俺。
それを見て、開始線に戻っていく賀喜さん。
立ち上がろうとするが、体にまるで力が入らない。
このまま負けるのか?
こんな何もできずに負けるのか?
勝てないのは分かっていたはず。
だけど、負けたくない。
…俺にもっと"力"があれば…
そう思った瞬間、視野がぼやけてきて
最後の力もなくなった。
ーーーーーー
地面にうつ伏せに倒れている◯◯。
聖来:勝負アリやな。
審判:B組代表、戦闘不…
遥香:?…審判、ちょっと待って下さい!
倒れていた◯◯が、起き上がる。そして…
黒いオーラを纏う"鎌"を召喚した。
遥香:…!?
聖来:アレ、何や…?
さくら:◯◯…?
そして瞬間的に近づき鎌を振り下ろす◯◯に対し、
なんとか横に回避する遥香。
遥香:速い…
鎌が突き刺さっている地面は、
あまりの威力にヒビが入って隆起している。
◯◯は間髪入れずに鎌を振るい、
そのありえない速さに遥香は避けるので手一杯である。
会場は大いに盛り上がり、
刃先が掠った遥香の頬や腕からは、光子が少量漏れている。
遥香:(どうなってんのよ…!)
聖来:さく!…あっちの前室行くで!
さくら:…わ、分かった!
会場の雰囲気とは裏腹に不穏な気配を感じ、
さくらと聖来は前室を飛び出した。
ーーーーーー
◯◯の前室のドアが力強く開けられる。
さくら:し、失礼しますっ!
聖来:あんたがアイツの"サポーター"か!?
菜緒:えっ!?…あ、はい…
菜緒も、現状に激しく動揺しているようだ。
聖来:神代くん、なんかヤバいんちゃうか!?
菜緒:やっぱり、そう思いますか…?
すると菜緒の指輪が光り、モニターを見つめる。
菜緒:!?…マズイかもしれません…
さくら:え…!?
聖来:リンクルームに行かんと!
その頃、試合場では、
◯◯の猛攻に遥香はなす術がなく、
ただ避け続けるしかなかった。
遥香:あなた、どうしたのよっ!?
言葉を投げかけても返事がない。
無慈悲な一振りを躱したはいいが、
足がもつれて遥香は転んでしまう。
遥香:(マズい…!)
遥香の体を的確に捉えた鎌が振り下ろされる。
しかし…鎌は寸前で消滅した。
◯◯:ぐうぅあぁっっ!?……うっ…
そして、◯◯は膝から崩れるように倒れた。
ーーーーーー
続く。