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とても長い20秒だった。20秒数えて立ち上がる。これは希海とかわした約束だ。影の薄い私をいつも気にかけてくれた彼女。机に入れていた日記を男子に大声で読まれた時に取り上げてくれたのも彼女。家では読ませてもらえなかったマンガを彼女の家で一緒に読んだ。感謝と同時に、憐れまれているようで憎しみが込み上げることもあったし、そんな拗ねた自分が嫌いだった。期待と罪悪感が入り混じった感情を押し殺しながら、永遠とも思われる20秒のあいだ、陽の光を照り返す川面に、想い出が陰影を与える。
そう。希海と私のように。