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『大翼竜ジゴラスと怪獣博士』 第0話

第0話 「ジゴラス飛来」

今から50年ほど前。
日本の某所にある、るるい町の中心には、全長300メートルほどの巨大な電波塔「るるいタワー」があり、そのふもとには約50軒ほどの小さな個人商店が連なる”るるい町商店街”が広がっていた。
るるいタワー以外には特筆する物もないこの商店街が、日本中に知られることになったのは、ある蒸し暑い夏の日のことだった。

最初に気がついたのは酒屋の息子だった。
彼は店の前で打ち水をしていると、辺り一面が真っ暗になり、空を見上げてみると巨大な翼竜の様な生物が視界を埋め尽くした。
どこからとも無く出現したその翼竜は、翼を広げると約200mほどもあり、空に浮かんでいるだけでるるい町商店街のほとんどが日陰になった。
大きな翼と長くて鋭いうろこ状の尻尾。短めのくちばしの様にも見える口の中には、大きな牙が見え隠れしていた。
その巨大な翼を羽ばたかせると、小さな商店の屋根など吹き飛ばされてしまいそうなほどの風が吹いた。

商店街の人々が異変に気付きパニックになる間も無く、その翼竜は町をくるりと旋回し、るるいタワーに飛びついた。
そして町全体が震えるほどの大きく甲高い咆哮をし、爪のついた短い足で体勢を整え、自らの翼で包み込む様に頭を隠しながらタワーにしがみついた。
商店街の住人たちはまるでタワーと一体化した様なその姿を見て、初めて”それ”が巨大な翼竜だと認識したのだ。

商店街はパニックの渦になった。
住人たちは我先にと荷物をまとめて避難し、狭い道路は車でいっぱいになった。
それと入れ替わる様に警察車両や報道関係の車やヘリ、自衛隊のトラックなどが大量に商店街に流れ込んできた。

巨大翼竜はその間、ピクリとも動かずにいた。
それどころか最初はうっすら赤みを帯びていた翼竜の身体は、みるみる色を失っていき、まるで石化したかの様に硬く乾いていった。

日本中がその得体の知れない生物に釘付けになっていた。
町中から人が消え、みなテレビの前でその翼竜が今にも暴れ回るのではないかと固唾を飲んで見守っていた。
だが、それから何日経ってもその翼竜は微動だにしなった。
高名な生物学者がその翼竜の名前を「ジゴラス」と命名すると発表した。

るるいタワーの電波塔としての機能には全く支障も無く、倒壊の危険性もないと判断された。
研究機関の調査の結果、ジゴラスは死亡して石化したものとされ、撤去する計画も出たが撤去には莫大な費用とタワー崩壊の可能性がある為、結果的にはそのまま研究のために放置される事になった。

この頃には、日本中&世界中からひと目ジゴラスを見ようと、るるい町商店街に訪れる観光客が増え始めた。
安全だと感じ始めた商店街の住人たちも各々の家に戻り、観光客向けの商売をし始めていった。

その後、るるい町商店街は名実共に日本屈指の観光地と化し、現在でも多くの観光客が訪れている。
そしてジゴラスとるるいタワーは町のシンボルとして、住人たちに愛され続けていた。

…たった1人の例外をのぞいて。

つづく

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