美容院のカラー剤の匂い
歩いていると、美容院のドアが開いていて、そこからヘアカラーのカラー剤に匂いがふっと流れてきた。
それはとても懐かしい匂いだった。
美容院と言っても決してシャレた若者向けのお店ではなくて、近所のおばさまが経営している、おばさまとお子さま向けの美容院だった。
何とかこの気持ちを写真に残せないものかと思って、写真を撮ろうとしたけれど、出来なかったので文章に残すことにする。
ぼくは30代だけど結構な白髪の持ち主なので、自宅でも白髪染めをするけれどこんな気持ちになった事はなかった。
あのお店から流れてくる匂いだったからこそ、強烈に懐かしさを感じたんだと思う。
なぜかはその瞬間には分からなかったが、しばらく歩いてみて気がついた。
小学校の頃、母が美容院に行くと必ず付いて行っていた時期がある。
母が行く美容院は、家から歩いて5分ほどの距離で、おばさんが2人で切り盛りしている店だった。
そこには、自由に飲めるドリンクバーが置いてあって、ぼくはそれが飲みたくて用もないのに母について行った。
母がヘアカットをし、白髪染めをしている間、ぼくはメロンソーダを飲みながらボロボロになったマンガを読んでいたのだ。
当時のぼくからすると、髪を切っていつものくるくるのパーマをかけて、白髪染めをした母は、それほど変わった様には見えなかった。
でも母はとても嬉しそうにしていたのを覚えている。
今ではその美容院も無くなってしまって、大きなスーパーマーケットになっている。
母がどこで髪を切っているのかすら、今はよく知らない。
この記憶はすっかり忘れていたものだった。
あの美容院から流れてくる匂いが、思考をすっ飛ばして感情にアクセスしたのだと思う。
どうにかしてこの匂いを写真に収めたい。
それが出来たら、映像もこんな文章すら必要がないのに。
自分のカメラの腕の無さに腹が立った出来事だった。
サポートいただけたら、娘にお菓子を買ってあげようと思います!