理想とは他者に侵食された産物
野菜、果物中心の食生活。パン、パスタ、お菓子は滅多に食べない。筋トレや有酸素運動も週3〜4回はして、隙間時間にストレッチをして、スキンケアにも気を配る。爪をきれいに手入れする。伸びた爪にはベージュ系のジェルネイルを施す。
という美容に力をいれた生活をしたいけれど、毎日毎日「やるべきこと」や「時間」に追われている。ついこの間は9時間休憩なしで働いた。これだから飲食店は。膨大な洗い物を手洗いで。排水溝には素手で突っ込む。塩素消毒をしたフキンも手ですすいで絞る。パサついた手はひび割れ、逆剥けができる。
休みの日といっても休みにはならない。頭の中が「やるべきこと」ばかりで今にも脳みそがショートを起こしそうになる。息がきれるほど焦燥感もある。その焦りを紛らわすために何かを食べて誤魔化す。硬くなった爪の周りの皮ふをむしる。爪を噛む。
飲食店で働きはじめたら、その忙しさに激痩せするだろうと期待した。まったく違った。2kgは増えた。ストレスを食で発散する癖が悪化しただけだった。
やるべきことに追われていれば、容姿をふくむその他に関する悩みごとも忘れられる。どこかで聞いた「病むのは暇だから」という話を思いだす。確かに暇がないと、病む暇もなくなる。精神衛生面的にはいい気がするが、大切なことを置いてけぼりにしているような感覚は、飲食店で働いているときも、日常のやるべきことに追われているときも、ピッタリ背中にくっついてくる。それが耳元で囁いてくる。だから醜くなるんだぞ、と。
容姿を磨けない日々は、大切なことを置いてけぼりにしている感覚になる。自分自身に一度も満足せず、人生が終わっていくんだと思うと悲しくなる。という話を夫にする。
人は老いていくんだよ。老いたくないの? 大切な人から、つまり僕から認められていたらそれでいいんじゃない。あなたから私を見た評価と、自分に対する評価は違うの。それ以上きれいになってどうするの。誰かから褒められたいの? 僕がいるのに誰かに魅力を振りまいてどうするの?また承認欲求? 私が誰かにふり向いてほしいから容姿を気にしていると思う? 違うよ、自分に対する嫌悪感を減らしたいの。ただそれだけなの。
誰かから認められたいわけじゃない。自分に対する嫌悪感を減らしたいから容姿を磨く。と、答えた自分をふり返る。よく考えてみたらこれも承認欲求かもしれない。他人から認められたいのかもしれない。自分を認められないから、容姿を磨いて他人から認められたいのかもしれない。
自分に対する嫌悪感を分解して考えてみると「理想と現実がかけ離れているギャップに嫌悪している」ということになる。その理想は、他者によって作られた「美しいもの」が自然と脳内にインプットされて出来あがる。
テレビや雑誌にでてくる女優やモデル。インスタグラムやTwitterに流れてくる、本当に存在するかも分からない美女たち。そういうものが自然と理想として刷り込まれる。本来の自分から、かけ離れていく。かけ離れていき、それが非現実的であることにも気がつかないくらい自然に刷りこまれ、食い込んでくる。
他者の美しい基準が、いつの間にか自分の美しいの基準にすり替わる。それが当たり前になる。理想とは、他者に侵食された産物なのだ。
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