14歳の私とブルーのマットレス
眠りに落ちる前の夜。
隣には夫がいる。ベッドの上で手を繋ぎながら、一緒に眠りが来るのを待っている。しばらく手のひらの体温を感じていると、夫には一足早く眠りが訪れたようで、静かに寝息が聞こえてきた。
私にはまだ眠りは訪れない。夫の分厚い手のひらを感じながら、ぼんやりと薄暗い天井を見つめた。
そういえば、私がいま寝ている辺りの場所には、別の景色があった。
ここには約10年前の今頃、介護用ベッドが設置されていた。末期癌を患った父を寝かせるために、業者から一時的に介護用ベッドをレンタルしていた。レンタルしたものの、父がその上で過ごしたのはほんの1〜2週間くらいで、介護用ベットはあまり役目を果たさずに返却されることとなった。
今思えば父は、ただただ静かに、ただただ時間が経つのを感じながら、最期が来るの待っているだけだったのではないかと思う。あの鮮やかなブルーのマットレスの上で、自分の死が訪れるのをどのような気持ちで感じ取っていたのだろうか。
「死人に口無し」とはこのことで、当の本人は大柄の身体の面影もなくフワフワと軽い灰になり、過去の人となってしまった。
真相は私の想像でしか語ることはできない。
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介護用ベッドは、父が亡くなると同時に返却されることになった。返却される間しばらく日にちがあったので、私はその上で寝起きしていた。
実は介護用のベットはとてもハイテクで、心地よくできている。自力で起きられない患者が起き上がれるように、電動の背もたれがある。落ちて怪我をしないように、両サイドには柵がある。ローラーのついた細長いテーブルをベットをまたぐように設置できて、そこで食事をとることもできる。
そして寝たきりの人に床ずれができないよう、マットレスはそこらへんにある低反発マットよりもモチモチと柔らかく、身体を優しく沈み込ませてくれる。普通のベットよりも随分高機能なのだ。
寝起きしていたのは「ただ寝心地がいいから寝ていた」というのもある。それに、旅立ってしまったけれど、ブルーのマットレスの上には、まだ父がいるような気がした。父が寝ていたところに寝れば、何となく父を感じられるような気もした。だから、自然と介護用のベットで寝ることを選んだのかもしれない。
学校にはしばらく行っていなかった。行く気もなかった。特にやることもなく何もする気も起きないから、寝心地の良さと、父の残り香を求めて、機械的にブルーのマットレスの上で過ごした。朝になれば日が昇り、窓から光が差し込む。何となく気持ちが満たされないから、マットレスの上で何となくご飯を食べる。
眠くなって、そのまま寝る。気がつくと夕方で、しばらくするとオレンジ色の球が地平線に消えていく。日が沈んだところで何もやることはないから、何となくテレビを見て過ごした。私も父と同じようにぼんやりと、ひたすら時が経つのを待っていた。
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介護用のブルーのマットレス。14歳の私の寂しさと、ポッカリと空いた"心の穴"を思い起こす色。
今はそのベットはなくなり、代わりに夫用のベットがある。隣には私用の布団がひいてある。眠りにつく前は夫のベットにお邪魔して、一緒に眠気が来るのを待つ。眠気がきたら、夫を起こさないように自分の布団に戻る。10年前と今を比べると、ずいぶんと状況が変わった。
唯一変わらないのは、あの頃と同じ天井と、胸の奥に残った14歳の私ーー。
商品名:親とさよならする前に 親が生きているうちに話しておきたい64のこと
▲親とさよならをする前に、後悔しないように話しておこう
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