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小説

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文章の練習のために小説を執筆しています。主に空想ですが、ところどころ実体験も混ざっています。
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#超短編小説

男はひとつに編んだ黒髪に刃を入れる

 雲が薄っすらかかる鮮明な空に夕日が沈みゆくとき、百姓の娘・藤幸(ふじゆき)が家に帰ると、囲炉裏の周りを囲うように父と母が死んでいた。 「ただいまぁ」  大きくひと声、滑りの悪い木の扉をガタガタと引きながら藤幸は言った。手に下げている竹カゴには、戦利品がいっぱいに詰まっている。藤幸は夕暮れの少し前から林の中をひとりで歩き、キノコ採りをしていた。今晩の夕食の足しにするためであった。  藤幸は聞きなれた返事がくると期待した。この時刻、前掛けを身につけた母が駆けより、出迎えて

私はおじさまに飼われたい

柔らかく、どこか色気のある視線を私にむかって落としているおじさまを手に入れられないのなら、せめてあなたの飼い猫になりたい。 樹齢100年以上はある大きな枝垂れ桜の下で、座っているおじさまの横に甘えるように寝転びながら、そう思った。  日本の天然記念物に指定されたこの枝垂れ桜は、普段、人が近寄れないように厳重に管理されている。木のまわりには囲いがあり、人と一定距離が保たれている。枝垂れ桜の枝の部分を何本もの太い杭(くい)が支えている。見頃の時期になると観光客は観桜料(かんお