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タンポポとラベンダーの街で、クラリネットに耳を澄ます。
札幌で僕を出迎えてくれたのは、タンポポとラベンダーの花だった。
タンポポは関東みたいに地面に這いつくばってはいない。長い茎の上に小ぶりの黄色い花を付け、公園や河原のすみで気持ち良さそうに風に揺れている。
一方、ラベンダーはしっかりと大地に根を下ろし、濃い青紫の体をまっすぐ天に伸ばしている。道路わきの小さな花壇や普通の住宅の庭にもしっかり植えられているのが印象的だ。
気温は連日30度を超えているが、朝は大布団がないとちょっと寒い感じ。舗装された道路の照り返しはきついが、木陰は驚くほど風が通る。
おそらく、一年中でいちばん気持ちがいい時期なんだろう。
2月にここを訪れたとき、あたりの道路は自分の背丈ほどもある雪に覆われていた。それを思うとなんと街は色彩に溢れているのだろう。いま、部屋には彼女が買ってきたひまわりの花が咲いている。短い夏を慈しむ。それがこの街に住む人たちの暗黙のルールなのだ。
在宅勤務の慰めは自宅から持ち運んだ大量のCD。でも新しい音楽が聴きたくて、通販で取り寄せた。アメリカのクラリネット奏者、リチャード・ストルツマンの「ラスト・ソロ・アルバム」。
前衛的な室内アンサンブル「タッシ」でならした彼も、もう八十歳になるという。奥さんのミカ・ストルツマンのマリンバとのデュエットで、モリコーネの「ニュー・シネマ・パラダイス」のテーマやブラームスの間奏曲、ビートルズの「ミッシェル」などの佳曲が収められている。
これがなんというのだろう、まさに「夢の中で聴こえる音楽」なのだ。
マリンバの幻想的な伴奏のもと、ストルツマンは実におおらかな節回しで、時に音程が外れるぎりぎりのアクセントを交えながら、どこまでも自由に夢の中をさまよい歩く。
それは老成の極みというより、僕には若々しい生命の息吹のように感じた。
確かミューザ川崎のサマーフェスティバルで来日を果たすはず。生で聴くことはかなわないけど、札幌の新参者が購入した最初のCDとして、長く聴いていきたいと思っている。
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