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年の終わりに、静かに雪を眺めながら。


2か月近くも書けなかった。それなりに忙しかったのだ。

「火曜名曲サロン」はシベリウスの回を終え、今月は「第九の聴き比べ」でカラヤンの普門館ライブを聴いた。東京では、石上真由子さんと江崎萌子さんの「M&M」公演を渋谷の美竹サロンで聴き、新国立劇場で林田直樹さんおすすめの「魔笛」を堪能した。

今月21日には「CREEK HALLクリスマスコンサート」で、亀岡三典さん(ギター)と大島さゆりさん(フルート)のデュオライブを行った。ギターとフルートの素朴な音色はこのホールによく馴染む。とくに「ブエノスアイレスの冬」には胸が締め付けられた。オープンの年を締めくくる、心暖かいものになったと思う。
 

今日は昼過ぎから雪がしんしんと降り始めた。さらさらの雪なので、本当に音もなく降り積もるのだ。この調子なら、明日の朝の雪かきは大仕事になる。去年に比べるとずいぶん要領もよくなったと思っているのだが、果たしてどうなんだろう。

先日、ひとりで雪かきをしていたら、近所の女性から声を掛けられた。
「奥様とふたりで(ホールを)やられてますよね。おふたりとも音楽に関係しているお仕事なんですか?」
「まあ、そうですね。あの、よかったら今度遊びに来てください」
たったそれだけの会話なのだが、これがけっこう嬉しかったりする。実際に遊びに来てくれることはないにしても。
 

オープンしてからほどなく、ひとりの老人がときおりコーヒーを飲みに来てくれるようになった。

彼はいつも起き抜けでふらりと来て、コーヒーにたっぷり砂糖を入れ、ゆっくり味わって飲み干すと、すぐに席を立ってしまう。そんなお客さんだ。

いろんな話をしてくれる。定時制高校に通いながら大通りにアパートを借り、夜な夜な級友たちと大騒ぎしたこと。自衛隊に入隊し、おっかない仕事についていたこと。電気屋になって、お客さんと積丹に夜釣りに行ったこと。息子さんが外務省に入り、いまはイスラエルにいること。

耳がよく聞こえないみたいで、僕の質問にはお構いなく、ひたすら自分の話を続ける。僕は途中であきらめて、ただニコニコしながらうなづく。コーヒーを飲み干すと、彼は機嫌よく帰っていく。

その彼がここ1か月ほど姿を見せない。心臓に入れていたペースメーカ-を交換する手術をすると言っていた。大丈夫なのだろうか。杖を手放せない彼のこと、凍結した路面も外出の妨げになっているにちがいない。このまま年を越してしまうのだろう。なんとなく、寂しさが募る。
 
ピアノ越しに大きな窓に振りしきる雪を見ていると、大変なときはじっと家にいて、時の流れを見守っていたほうがいいような気がしてくる。

そんなふうに思えるようになったのも、小さな進歩と言えるのかもしれない。

みなさん、よいお年をお迎えください。来年はもっと出会いに溢れた、刺激的な一年にしてみせます。

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